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☆矢熱再燃。 ただただ氷河が好きだと叫びたい二次創作ブログです。 色気のある話はあまり書けないと思いますが、腐目線なのでご注意ください。 版権元とは一切関係ございません。
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「甘いもの屋さん」の続きになります。

氷河に着せたかったアレ・・・そんなにもったいぶることでもなかったんですが、べたなところでコレでした。
別の服装のほうが話の展開上スムーズかとも思いましたが、着せちゃいましたv


宮沢賢治・・・大好きなんですが、こんな妄想話のベースに使ってしまった・・・。





拍手[20回]

木枯らしの吹く季節。
人ごみを抜けてきた氷河は、あったかい紅茶が飲みたいな、と思った。
キョロキョロとあたりを見回してみるものの、あるのはガチャガチャと音楽の流れるファーストフード店ばかり。
氷河とて友人たちと、ファーストフードを楽しむことはある。
しかし今は、そういう気分ではないのだ。
ただ一杯のお茶でいいから、静かに飲みたい。
一端そう思い始めると、どうしても譲る気になれない。
こうなったらもう、戻って自分で淹れたほうがはやいのかもしれないと思いながら、ぶらぶらと屋敷に向かって歩いてゆく。
と、角を曲がったところに、石造りの小さな店があった。
きれいに磨き上げられたウインドウからは、つややかなタルトやショコラケーキの並ぶショーケースが見える。
(こんな店、あったろうか??)
首をかしげつつ、氷河は吸い寄せられるように石段を上がり、重たい木の扉を押した。
その扉に書かれた文字を、氷河は見なかった。
というより、氷河の背後で閉まってから、その文字は浮かび上がったのだ。
 
喫茶 嘆きの壁
 
 
「いらっしゃいませ」

店に入ると、黒いギャルソンエプロンをつけた長身の男が、丁寧に頭を下げた。これはちょっと敷居の高い店に来てしまったのだろうか。メニュー表すらチェックせずに飛び込んでしまったことを、氷河は少し後悔した。ちらりと店内に視線を走らせるが、入口から客の姿は見えない。

「上着をお預かりいたしましょう。」

男はそう言って、音もなく氷河の後ろに回ると、着ていたジャケットを脱がせてハンガーにかけた。

「どうぞ、こちらへ。」

ついてくるように促すと、男は階段を下りてゆく。一つに束ねられた、長く美しい銀色の髪が揺れる。
わずかにフレーバーティの香り。
さっきまでミルクティがいいと思っていたのに、フレーバーティも悪くないと思う。オレンジの紅茶に、ガトーショコラ。
まぁ、財布の中身と相談しての話だが。
 

階段下の小部屋には、二人掛けのソファが置かれていた。

「どうぞ、お靴を。」

男はソファに氷河を座らせると、自ら編上げのブーツを脱がせた。

「あ、あの、自分でやります。」

恥ずかしそうに氷河は足を引込めようとした。
しかし男は黙ったまま、その仕事を譲る気配はない。
靴下まで脱がせて白い足をあらわにすると、ブーツを靴箱にしまってカタンと鍵を閉めた。
毛足の長い絨毯が、ふわふわと足に心地よい。
日本では、靴を脱いで食事をする店があると聞いたことがある。
けれどもこの店の造りは洋風で、目の前の男も日本人ではない。
何だか、ちょっとおかしい。

「あの、ここ、喫茶店ですよね?」

「ええそうです。ただし、当店は、注文の多い喫茶店でして。」

男は手を差し伸べて氷河を立ち上がらせると、次の部屋の扉を開いた。
 

白い、陶器の風呂。
湯には、赤い薔薇の花びらが浮かんでいる。
 
「は?」

「どうぞ。」

どうぞ、ではない。

「俺は、紅茶を飲みに来たんです。そうでないのなら帰ります。」

と、カーテンの陰から声がした。

「おいしく紅茶を召し上がっていただくために、まずは湯あみを。」

その声には覚えがある。

「貴様・・・ミーノス?!」

姿を現したミーノスもまた、ピッチリとアイロンのきいたYシャツに、ネクタイ、黒のベストを身に着けている。

「久しぶりですね。キグナス。不死鳥とのデートにお邪魔して以来でしょうか?」

嫌なことを思い出して、氷河は思わず眉をしかめた。

「・・・ルネ、下がってよろしい。」

その名を聞いて思わず横を見ると、ギャルソンエプロンの男は短く返事をして、ドアの向こうへと消えた。
紅茶一杯飲もうと思っただけなのに、なぜこんな面倒なことになっているのか。
目の前では、ミーノスがうっすらと笑みを浮かべている。

「冥界とは停戦中の筈だが。」

「ですから、戦おうなどとは言っていませんよ。極上のサービスを提供しようと言ってるんです。我々の店に、勝手に入ってきたのは君ではありませんか。」

「・・・普通の、喫茶店だと思ったんだ。」

「ええ、ですから、喫茶店ですよ。まずはお風呂でリラックスしていただいて、それから極上のお茶を。君のために、とっておきのケーキも用意してありますよ。」

「言ってることが無茶苦茶だ。」

「そうでしょうか?」

ミーノスの手元がきらりと光った。
と、氷河の指は意に反して、シャツのボタンをはずしてゆく。
 
「・・・・・・わかった。風呂に入ればいいんだろう? 本当にただのサービスなんだな? 言っとくが、絶対絶対、覗くなよっ!」

「はい、かしこまりました。」

ニヤリと笑うと、ミーノスは扉の向こうへと消えた。

 
ぴしゃりと扉を閉め、さらにはカーテンを閉めると、氷河は深いため息をついた。
さっきから、小宇宙を燃やそうとしているのに、思うようにいかない。
多分、結界が張られている。
周囲にはミーノスとルネと、その他にも数人の気配がする。
さて、どうする?
氷河はカーテンにくるまるようにして爪を噛んだ。
相手が何をしようとしているのか、読めないだけにこちらも手の出しようがない。
ただ相手が、相当にタチが悪いということだけは知っている。
とにもかくにもこの場から逃げることだ。
湯船からは、至極のんきに湯気が立ち上っている。
花の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「ああ、そう言えば、冥界にも匂いを武器にする敵がいたな。たしか、ディープフレ・・・。」

みなまで思い出す前に、氷河は意識を手放していた。
 
 
 

気が付くと、氷河はベルベットの張られた長椅子に上体を預けていた。
服は・・・着ている。
ただしいつもの服ではなくて、ずいぶんとゴワゴワしている。それに、ウエストが妙にキツい。
視界に入るのは、白、白、白。
いやな予感がして、氷河は顔をあげた。
目の前に鏡がある。
そこに映った自分を見て、氷河は呆然とした。
いくらファッションに疎い氷河でも、この服は知っている。

これは、この服は、花嫁さんが着るやつだ!!
 


ふんわりとスカートを床に広げたまま、座り込んで途方に暮れていると、鏡に人影が写った。

「なかなか似合っているではないですか。何だか君自身が生クリームののったケーキみたいですね。」

「・・・ミーノス、貴様、何の悪ふざけだっ!」

「ハーデス様が君を気に入っているようなので、差し上げようかと。」

そのための演出なのか、氷河の腰には大きなリボンがあしらわれている。

「気がすすみませんか?」

「当たり前だ。」

「では、私のもとに嫁いでみますか?」

「は??」

あらわにされた肩に置かれた手を、氷河は振り払った。
その手は意外にもあたたかかった。

「こんな真似をして、ただで済むと思うなよ!」

「大丈夫でしょう。たかが青銅の一人くらい。」

 

「たかが青銅・・・ではないことを一番よく知っているのはお前ではないのか?」

静かな声が響いた。
ドアが開いて、現れたのは黒い髪の少女。

「キグナス、結界は解いた。」

表情を変えぬまま、可憐な唇は静かにそう言った。
氷河は、構えると小宇宙を高めた。
白いドレスの裾が広がるように、部屋はみるみるうちに凍り付いてゆき、壁一面に張られた鏡が割れた。

「女神との間でことを荒立ててはならぬと、ハーデス様から言われている。どうするのだ?ミーノス?」

ミーノスはふぅ・・・と、残念そうにため息をついた。

「・・・仕方ありませんね。貴方の恋敵を、減らして差し上げようと思ったのに。」

パンドラの頬が、ごくわずかに歪む。

「私は、このようなやり方は好まない。」

「つくづく不器用な方ですね。ま、貴方がそう言うなら、撤退いたしましょう。」
 


パンドラが手にしていた鉾で床を叩くと、氷河の身体は光に包まれた。
そうして気が付くと、屋敷近くの空き地の前に立っていた。
しかし残念なことに、服だけはさっきのまま。

「悪かったな。」

振り返ると、パンドラの姿。

「助けてくれたのだろう。礼を言う。・・・・・・だが、着替えがない。」

途方に暮れた様子の氷河を見て、パンドラがくすりと笑った。

「似合っているのだから、いいではないか。」

パンドラが笑うのが、氷河は嬉しい。
ハーデスに家族を奪われてから、ずっと世界が灰色に見えていたと。その気持ちが氷河には痛いほどわかる。
だからほんのわずかでも、彼女が笑うと嬉しい。
そのためなら一輝など、いくらでも持ってってくれと思うのだが。

「一輝が見たら・・・きっと喜ぶな。」

この誤解をどう解くべきかと思いながら、氷河はため息をついた。

「こういうのは、貴方が着て見せればいいだろう。」

そう言うと氷河は、頭についていたティアラを外してパンドラに手渡した。

「言っておくが、俺にこういう趣味はないんだからな。」

「そうなのか。」

「当たり前だっ!」

さて。屋敷まではおよそ500メートル。
氷河は前方を睨むと、ドレスの裾を持ち上げた。

「じゃあ・・・、まぁ、元気で。」

それだけ言うと、シンデレラよろしく走り去っていった。
 
 

裏門のカギを壊す。
誰にも気づかれないように、氷河は腕力だけで引きちぎった。
そうして植栽に紛れながら、建物へと入るチャンスを伺う。兎に角誰にも見つからずに、部屋に逃げ込まなければならない。
幸い、裏の通用口に星矢たちの姿はなかった。
が、しかしなんでだか辰巳がうろちょろしている。
もういっそ、殴り倒して気絶させようか。
そんなことを思いながらも、氷河は辛抱強く待った。
美しく剪定されたコニファーの陰を、横ばいに歩きながら注意深く近づいてゆく。
が、前方にばかり気を取られていた氷河は気が付かなかった。
背後のベンチで昼寝していた男が、今まさに目を覚ましたことに。
 
真っ赤に紅葉した西洋楓の大木に肩を預けて、氷河が屋敷を睨んでいる。
引き締まった口元と鋭い眼光、その表情は一輝には見慣れたものだ。
ただし、純白のウエディングドレス姿は初めて見る。
肘の上まであるつややかな白の手袋をはめて、左手で白のパンプス、右手でドレスの裾を掴んだまま、真剣そのもの表情で前を伺っている。
なんでこんなことになっているのか、一輝にはさっぱりわからない。
ただ、似合っていることだけは確かだ。
耳の横で、ふわふわとカールさせた髪がかわいい。
あらわにされた首筋から、背中にかけてのラインがきれいだ。

と、赤く染まった楓の葉が、一枚落ちてきて氷河の背をかすめた。
びくりとして、氷河は振り返る。
ねじっていた体をまっすぐに、木の幹に背中をつけるようにすると、ベンチで頬杖ついている一輝と目が合った。

「な・・・。」

ずるずるとその場にしゃがみこむと、氷河は手のひらで頭を押さえた。

「面白い格好をしているな。」

「もとはと言えばお前のせいだっ!」

氷河は渾身の力をこめて一輝を蹴り飛ばした。


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木枯らしの吹く季節。
人ごみを抜けてきた氷河は、あったかい紅茶が飲みたいな、と思った。
キョロキョロとあたりを見回してみるものの、あるのはガチャガチャと音楽の流れるファーストフード店ばかり。
氷河とて友人たちと、ファーストフードを楽しむことはある。
しかし今は、そういう気分ではないのだ。
ただ一杯のお茶でいいから、静かに飲みたい。
一端そう思い始めると、どうしても譲る気になれない。
こうなったらもう、戻って自分で淹れたほうがはやいのかもしれないと思いながら、ぶらぶらと屋敷に向かって歩いてゆく。
と、角を曲がったところに、石造りの小さな店があった。
きれいに磨き上げられたウインドウからは、つややかなタルトやショコラケーキの並ぶショーケースが見える。
(こんな店、あったろうか??)
首をかしげつつ、氷河は吸い寄せられるように石段を上がり、重たい木の扉を押した。
その扉に書かれた文字を、氷河は見なかった。
というより、氷河の背後で閉まってから、その文字は浮かび上がったのだ。
 
喫茶 嘆きの壁
 
 
「いらっしゃいませ」

店に入ると、黒いギャルソンエプロンをつけた長身の男が、丁寧に頭を下げた。これはちょっと敷居の高い店に来てしまったのだろうか。メニュー表すらチェックせずに飛び込んでしまったことを、氷河は少し後悔した。ちらりと店内に視線を走らせるが、入口から客の姿は見えない。

「上着をお預かりいたしましょう。」

男はそう言って、音もなく氷河の後ろに回ると、着ていたジャケットを脱がせてハンガーにかけた。

「どうぞ、こちらへ。」

ついてくるように促すと、男は階段を下りてゆく。一つに束ねられた、長く美しい銀色の髪が揺れる。
わずかにフレーバーティの香り。
さっきまでミルクティがいいと思っていたのに、フレーバーティも悪くないと思う。オレンジの紅茶に、ガトーショコラ。
まぁ、財布の中身と相談しての話だが。
 

階段下の小部屋には、二人掛けのソファが置かれていた。

「どうぞ、お靴を。」

男はソファに氷河を座らせると、自ら編上げのブーツを脱がせた。

「あ、あの、自分でやります。」

恥ずかしそうに氷河は足を引込めようとした。
しかし男は黙ったまま、その仕事を譲る気配はない。
靴下まで脱がせて白い足をあらわにすると、ブーツを靴箱にしまってカタンと鍵を閉めた。
毛足の長い絨毯が、ふわふわと足に心地よい。
日本では、靴を脱いで食事をする店があると聞いたことがある。
けれどもこの店の造りは洋風で、目の前の男も日本人ではない。
何だか、ちょっとおかしい。

「あの、ここ、喫茶店ですよね?」

「ええそうです。ただし、当店は、注文の多い喫茶店でして。」

男は手を差し伸べて氷河を立ち上がらせると、次の部屋の扉を開いた。
 

白い、陶器の風呂。
湯には、赤い薔薇の花びらが浮かんでいる。
 
「は?」

「どうぞ。」

どうぞ、ではない。

「俺は、紅茶を飲みに来たんです。そうでないのなら帰ります。」

と、カーテンの陰から声がした。

「おいしく紅茶を召し上がっていただくために、まずは湯あみを。」

その声には覚えがある。

「貴様・・・ミーノス?!」

姿を現したミーノスもまた、ピッチリとアイロンのきいたYシャツに、ネクタイ、黒のベストを身に着けている。

「久しぶりですね。キグナス。不死鳥とのデートにお邪魔して以来でしょうか?」

嫌なことを思い出して、氷河は思わず眉をしかめた。

「・・・ルネ、下がってよろしい。」

その名を聞いて思わず横を見ると、ギャルソンエプロンの男は短く返事をして、ドアの向こうへと消えた。
紅茶一杯飲もうと思っただけなのに、なぜこんな面倒なことになっているのか。
目の前では、ミーノスがうっすらと笑みを浮かべている。

「冥界とは停戦中の筈だが。」

「ですから、戦おうなどとは言っていませんよ。極上のサービスを提供しようと言ってるんです。我々の店に、勝手に入ってきたのは君ではありませんか。」

「・・・普通の、喫茶店だと思ったんだ。」

「ええ、ですから、喫茶店ですよ。まずはお風呂でリラックスしていただいて、それから極上のお茶を。君のために、とっておきのケーキも用意してありますよ。」

「言ってることが無茶苦茶だ。」

「そうでしょうか?」

ミーノスの手元がきらりと光った。
と、氷河の指は意に反して、シャツのボタンをはずしてゆく。
 
「・・・・・・わかった。風呂に入ればいいんだろう? 本当にただのサービスなんだな? 言っとくが、絶対絶対、覗くなよっ!」

「はい、かしこまりました。」

ニヤリと笑うと、ミーノスは扉の向こうへと消えた。

 
ぴしゃりと扉を閉め、さらにはカーテンを閉めると、氷河は深いため息をついた。
さっきから、小宇宙を燃やそうとしているのに、思うようにいかない。
多分、結界が張られている。
周囲にはミーノスとルネと、その他にも数人の気配がする。
さて、どうする?
氷河はカーテンにくるまるようにして爪を噛んだ。
相手が何をしようとしているのか、読めないだけにこちらも手の出しようがない。
ただ相手が、相当にタチが悪いということだけは知っている。
とにもかくにもこの場から逃げることだ。
湯船からは、至極のんきに湯気が立ち上っている。
花の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「ああ、そう言えば、冥界にも匂いを武器にする敵がいたな。たしか、ディープフレ・・・。」

みなまで思い出す前に、氷河は意識を手放していた。
 
 
 

気が付くと、氷河はベルベットの張られた長椅子に上体を預けていた。
服は・・・着ている。
ただしいつもの服ではなくて、ずいぶんとゴワゴワしている。それに、ウエストが妙にキツい。
視界に入るのは、白、白、白。
いやな予感がして、氷河は顔をあげた。
目の前に鏡がある。
そこに映った自分を見て、氷河は呆然とした。
いくらファッションに疎い氷河でも、この服は知っている。

これは、この服は、花嫁さんが着るやつだ!!
 


ふんわりとスカートを床に広げたまま、座り込んで途方に暮れていると、鏡に人影が写った。

「なかなか似合っているではないですか。何だか君自身が生クリームののったケーキみたいですね。」

「・・・ミーノス、貴様、何の悪ふざけだっ!」

「ハーデス様が君を気に入っているようなので、差し上げようかと。」

そのための演出なのか、氷河の腰には大きなリボンがあしらわれている。

「気がすすみませんか?」

「当たり前だ。」

「では、私のもとに嫁いでみますか?」

「は??」

あらわにされた肩に置かれた手を、氷河は振り払った。
その手は意外にもあたたかかった。

「こんな真似をして、ただで済むと思うなよ!」

「大丈夫でしょう。たかが青銅の一人くらい。」

 

「たかが青銅・・・ではないことを一番よく知っているのはお前ではないのか?」

静かな声が響いた。
ドアが開いて、現れたのは黒い髪の少女。

「キグナス、結界は解いた。」

表情を変えぬまま、可憐な唇は静かにそう言った。
氷河は、構えると小宇宙を高めた。
白いドレスの裾が広がるように、部屋はみるみるうちに凍り付いてゆき、壁一面に張られた鏡が割れた。

「女神との間でことを荒立ててはならぬと、ハーデス様から言われている。どうするのだ?ミーノス?」

ミーノスはふぅ・・・と、残念そうにため息をついた。

「・・・仕方ありませんね。貴方の恋敵を、減らして差し上げようと思ったのに。」

パンドラの頬が、ごくわずかに歪む。

「私は、このようなやり方は好まない。」

「つくづく不器用な方ですね。ま、貴方がそう言うなら、撤退いたしましょう。」
 


パンドラが手にしていた鉾で床を叩くと、氷河の身体は光に包まれた。
そうして気が付くと、屋敷近くの空き地の前に立っていた。
しかし残念なことに、服だけはさっきのまま。

「悪かったな。」

振り返ると、パンドラの姿。

「助けてくれたのだろう。礼を言う。・・・・・・だが、着替えがない。」

途方に暮れた様子の氷河を見て、パンドラがくすりと笑った。

「似合っているのだから、いいではないか。」

パンドラが笑うのが、氷河は嬉しい。
ハーデスに家族を奪われてから、ずっと世界が灰色に見えていたと。その気持ちが氷河には痛いほどわかる。
だからほんのわずかでも、彼女が笑うと嬉しい。
そのためなら一輝など、いくらでも持ってってくれと思うのだが。

「一輝が見たら・・・きっと喜ぶな。」

この誤解をどう解くべきかと思いながら、氷河はため息をついた。

「こういうのは、貴方が着て見せればいいだろう。」

そう言うと氷河は、頭についていたティアラを外してパンドラに手渡した。

「言っておくが、俺にこういう趣味はないんだからな。」

「そうなのか。」

「当たり前だっ!」

さて。屋敷まではおよそ500メートル。
氷河は前方を睨むと、ドレスの裾を持ち上げた。

「じゃあ・・・、まぁ、元気で。」

それだけ言うと、シンデレラよろしく走り去っていった。
 
 

裏門のカギを壊す。
誰にも気づかれないように、氷河は腕力だけで引きちぎった。
そうして植栽に紛れながら、建物へと入るチャンスを伺う。兎に角誰にも見つからずに、部屋に逃げ込まなければならない。
幸い、裏の通用口に星矢たちの姿はなかった。
が、しかしなんでだか辰巳がうろちょろしている。
もういっそ、殴り倒して気絶させようか。
そんなことを思いながらも、氷河は辛抱強く待った。
美しく剪定されたコニファーの陰を、横ばいに歩きながら注意深く近づいてゆく。
が、前方にばかり気を取られていた氷河は気が付かなかった。
背後のベンチで昼寝していた男が、今まさに目を覚ましたことに。
 
真っ赤に紅葉した西洋楓の大木に肩を預けて、氷河が屋敷を睨んでいる。
引き締まった口元と鋭い眼光、その表情は一輝には見慣れたものだ。
ただし、純白のウエディングドレス姿は初めて見る。
肘の上まであるつややかな白の手袋をはめて、左手で白のパンプス、右手でドレスの裾を掴んだまま、真剣そのもの表情で前を伺っている。
なんでこんなことになっているのか、一輝にはさっぱりわからない。
ただ、似合っていることだけは確かだ。
耳の横で、ふわふわとカールさせた髪がかわいい。
あらわにされた首筋から、背中にかけてのラインがきれいだ。

と、赤く染まった楓の葉が、一枚落ちてきて氷河の背をかすめた。
びくりとして、氷河は振り返る。
ねじっていた体をまっすぐに、木の幹に背中をつけるようにすると、ベンチで頬杖ついている一輝と目が合った。

「な・・・。」

ずるずるとその場にしゃがみこむと、氷河は手のひらで頭を押さえた。

「面白い格好をしているな。」

「もとはと言えばお前のせいだっ!」

氷河は渾身の力をこめて一輝を蹴り飛ばした。


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