忍者ブログ
☆矢熱再燃。 ただただ氷河が好きだと叫びたい二次創作ブログです。 色気のある話はあまり書けないと思いますが、腐目線なのでご注意ください。 版権元とは一切関係ございません。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


氷河さんのお誕生日ですね!!
ものすごく久しぶりに小話を書いてみましたが、萌え要素がゼロ・・・orz。

マーマの身元ねつ造話です。
親戚の叔母さんとか出てきます・・・。

登場人物は、マーマと氷河とちょこっとだけ一輝です。



拍手[17回]


私の宝物


「遅くなりました」
冷たい外気を遮断するため二重にされた扉の二つ目を開くと、すぐに氷河が駆け寄ってきた。ナターシャはしゃがんで氷河を抱きとめると、柔らかな金色の髪に顔を埋めた。冷たい頬に、やんわりと幼子の体温が伝わってくる。シャンプーと汗の入り混じった、我が子の甘い匂いを存分に吸い込んでから、顔を上げて蒼い瞳を見据える。
「おかえりなさい。マーマ」
「ただいま。氷河」
今日は休みのはずだったのに、急に仕事が入ってしまった。留守番することに慣れてしまった氷河は、ふてくされるわけでもなくナターシャを仕事に送り出し、息を切らして走ってきたナターシャをニコニコと出迎えた。
「さ、暖炉の前においでなさい」
傍で見守っていたアンナが声を掛ける。ナターシャは氷河の肩に手を置いたまま立ち上がると、丁寧に頭を下げた。
「叔母様。今日はありがとうございました。急なことで、本当に助かりました」
「いいえ。ヒョウガはいい子にしていたわよ。さ、お茶でも淹れようね」
ナターシャがストールを外すと、月の光のような豊かな髪がさらさらと肩にこぼれた。白く美しい肌は上気し、頬がバラ色に輝いている。
ああ、こんなに美しい娘なのに。
アンナは小さくため息を漏らす。
この子は姉さんの自慢の娘だった。だのに、何だって、遠い異国の男などに心を奪われてしまったのか。
数日前、アンナはナターシャに知人の息子を紹介しようとした。先方は乗り気だったのに、ナターシャは首を縦には振らなかった。
「ミツマサは素晴らしい人」
そう言ってナターシャは、大切なものを仕舞い込むように両の手を胸に置いた。いくらナターシャから話を聞かされても、一度も顔を見せたことのない異国の男など、アンナには信じることが出来ない。
ナターシャにも、アンナの気持ちはわかる。こうして時折、氷河を預けている。一人でもこの子を育ててみせると言いながら、彼女を頼って生きていることも確かなのだ。それでも、愛する人は一人だけ。自分を偽って生きてゆくことは出来ない。
アンナの丸い背中を見つめるナターシャの手を、氷河がぎゅっと握った。
「あのね、マーマ。ぼく、お絵かきしてたの」
「そう。では、見せてくれる?」
「うん!」
氷河はテーブルへと走って行き、散らばった数枚の白い紙を手に取った。どれがよく描けたか吟味するように見比べながら、暖炉の前のソファにナターシャを座らせ、そのそばに座り込んだ。
「これは、バス」
強い筆圧ではみ出さんばかりに描かれた絵に、ナターシャは思わず笑みをこぼした。車の後ろには荒っぽい線が何本も引かれている。
「ずいぶんと走っているみたいね」
「そう。このバスはね、びゅんびゅん、遠くまで走るよ」
「あら、ここに乗っているのは、だあれ?」
「マーマだよ。その横が、ぼく」
照れくさそうに氷河は笑った。一つだけとびぬけて大きな窓のなかに、並んだ顔がふたつ、描かれている。目も口も、大きな弧をなしているいつものニコニコ顔。氷河の絵の中で、ナターシャはいつも笑っている。これ以上なく優しいその顔が、ナターシャは好きだ。
氷河から見れば、私はこんな風に優しく見えるのかしら。それとも、そうあって欲しいという願いなのかしら。願いだとしたらちょっと悲しいけど、それでもこの顔を見ると私はホッとする。いつまでも、こんな風に笑った顔で描いてもらえたらいい。
「それからね」
「ええ」
「こっちは何かわかる?」
長い睫毛に縁どられた、真ん丸な目がナターシャを覗き込む。
「これは・・・、お船ね」
そう答えると、氷河は満足げにふうと息を吐いた。
「そうだよ。大きい船だからね。これだったら、ニホンへも行かれるよ」
「そうね・・・」
無心に絵を見つめる氷河の髪を、ナターシャは撫でた。
私がその船を待っていること、あなたは知っているのね。そうよ、いつか、お船に乗って日本へ行きましょう。あなたのお父様と兄弟たちのいる日本へ。
ティーカップをテーブルに置いたアンナが、寂しげにこちらを見つめているのにナターシャは気づいた。
「新しい人生を見つけて、兄弟でも作ればいいのさ。あんたと二人っきりで生きていくんじゃ、この子だって可哀想だよ」
柔らかくて小さな氷河の耳のなかにも、アンナの言葉が入っていった。ナターシャは氷河に見えないようにうつむいて唇を噛んだ。アンナの優しさが言わせた言葉だということはわかる。けれどもこんな小さな耳のなかに、入れてほしくなかった。
「お言葉ですけれど、叔母様。氷河は、可哀想なんかじゃありません」



帰り道、ずんずんと歩いてゆくマーマの手は、俺の手を痛いくらいに握っていた。
「氷河、あなたのお父様は立派な方よ。それに、日本にはあなたの兄弟がいる。私も会ったことはないのだけれど、大丈夫、きっと仲良くなれるわ」
「うん。大丈夫だよ。マーマ・・・」



目を開くと、黒い瞳がじっとこちらを見おろしているのがわかった。
「おい、そろそろ降りて来い」
「ああ、寝ていた」
ソファから身を起こし、顔にかかっている髪を手で払った。
朝から一階は慌ただしかった。瞬たちが誕生日だからと、俺のためにケーキを焼いてくれたのだ。傍で見ているのも照れくさく、二階の私室に来て、そのまま眠ってしまったらしい。その間にずいぶんと懐かしい夢を見た。
っていうか、俺。声に出してはいなかったろうか。マーマって、ずい分はっきりと口にしたような気がする。
腰に手を置いたまま、じっと待っている一輝の表情からは何も読み取れない。わざわざこちらから、確認するのもおかしな話だ。立ち上がると一輝は背を向けて、ドアノブに手をかけた。
「誕生日に免じて、寝言で母親を呼んだことは黙っていてやろう」
「チッ」
けれども心のなかに、夢の中の優しさが満ちていた。やがて日本で出会った、一輝の幼い顔を思い出す。懸命に瞬を思いやる姿を見て、信じられる奴だと思った。
大丈夫だよ、マーマ。
俺に、命を与えてくれてありがとう。
「マーマは大切な人だ。別に恥じることなんかない」
開き直ってそう言うと、一輝はニヤリと笑った。
どうせコイツにも、思い当たる節があるんだろう。

PR


追記を閉じる▲

私の宝物


「遅くなりました」
冷たい外気を遮断するため二重にされた扉の二つ目を開くと、すぐに氷河が駆け寄ってきた。ナターシャはしゃがんで氷河を抱きとめると、柔らかな金色の髪に顔を埋めた。冷たい頬に、やんわりと幼子の体温が伝わってくる。シャンプーと汗の入り混じった、我が子の甘い匂いを存分に吸い込んでから、顔を上げて蒼い瞳を見据える。
「おかえりなさい。マーマ」
「ただいま。氷河」
今日は休みのはずだったのに、急に仕事が入ってしまった。留守番することに慣れてしまった氷河は、ふてくされるわけでもなくナターシャを仕事に送り出し、息を切らして走ってきたナターシャをニコニコと出迎えた。
「さ、暖炉の前においでなさい」
傍で見守っていたアンナが声を掛ける。ナターシャは氷河の肩に手を置いたまま立ち上がると、丁寧に頭を下げた。
「叔母様。今日はありがとうございました。急なことで、本当に助かりました」
「いいえ。ヒョウガはいい子にしていたわよ。さ、お茶でも淹れようね」
ナターシャがストールを外すと、月の光のような豊かな髪がさらさらと肩にこぼれた。白く美しい肌は上気し、頬がバラ色に輝いている。
ああ、こんなに美しい娘なのに。
アンナは小さくため息を漏らす。
この子は姉さんの自慢の娘だった。だのに、何だって、遠い異国の男などに心を奪われてしまったのか。
数日前、アンナはナターシャに知人の息子を紹介しようとした。先方は乗り気だったのに、ナターシャは首を縦には振らなかった。
「ミツマサは素晴らしい人」
そう言ってナターシャは、大切なものを仕舞い込むように両の手を胸に置いた。いくらナターシャから話を聞かされても、一度も顔を見せたことのない異国の男など、アンナには信じることが出来ない。
ナターシャにも、アンナの気持ちはわかる。こうして時折、氷河を預けている。一人でもこの子を育ててみせると言いながら、彼女を頼って生きていることも確かなのだ。それでも、愛する人は一人だけ。自分を偽って生きてゆくことは出来ない。
アンナの丸い背中を見つめるナターシャの手を、氷河がぎゅっと握った。
「あのね、マーマ。ぼく、お絵かきしてたの」
「そう。では、見せてくれる?」
「うん!」
氷河はテーブルへと走って行き、散らばった数枚の白い紙を手に取った。どれがよく描けたか吟味するように見比べながら、暖炉の前のソファにナターシャを座らせ、そのそばに座り込んだ。
「これは、バス」
強い筆圧ではみ出さんばかりに描かれた絵に、ナターシャは思わず笑みをこぼした。車の後ろには荒っぽい線が何本も引かれている。
「ずいぶんと走っているみたいね」
「そう。このバスはね、びゅんびゅん、遠くまで走るよ」
「あら、ここに乗っているのは、だあれ?」
「マーマだよ。その横が、ぼく」
照れくさそうに氷河は笑った。一つだけとびぬけて大きな窓のなかに、並んだ顔がふたつ、描かれている。目も口も、大きな弧をなしているいつものニコニコ顔。氷河の絵の中で、ナターシャはいつも笑っている。これ以上なく優しいその顔が、ナターシャは好きだ。
氷河から見れば、私はこんな風に優しく見えるのかしら。それとも、そうあって欲しいという願いなのかしら。願いだとしたらちょっと悲しいけど、それでもこの顔を見ると私はホッとする。いつまでも、こんな風に笑った顔で描いてもらえたらいい。
「それからね」
「ええ」
「こっちは何かわかる?」
長い睫毛に縁どられた、真ん丸な目がナターシャを覗き込む。
「これは・・・、お船ね」
そう答えると、氷河は満足げにふうと息を吐いた。
「そうだよ。大きい船だからね。これだったら、ニホンへも行かれるよ」
「そうね・・・」
無心に絵を見つめる氷河の髪を、ナターシャは撫でた。
私がその船を待っていること、あなたは知っているのね。そうよ、いつか、お船に乗って日本へ行きましょう。あなたのお父様と兄弟たちのいる日本へ。
ティーカップをテーブルに置いたアンナが、寂しげにこちらを見つめているのにナターシャは気づいた。
「新しい人生を見つけて、兄弟でも作ればいいのさ。あんたと二人っきりで生きていくんじゃ、この子だって可哀想だよ」
柔らかくて小さな氷河の耳のなかにも、アンナの言葉が入っていった。ナターシャは氷河に見えないようにうつむいて唇を噛んだ。アンナの優しさが言わせた言葉だということはわかる。けれどもこんな小さな耳のなかに、入れてほしくなかった。
「お言葉ですけれど、叔母様。氷河は、可哀想なんかじゃありません」



帰り道、ずんずんと歩いてゆくマーマの手は、俺の手を痛いくらいに握っていた。
「氷河、あなたのお父様は立派な方よ。それに、日本にはあなたの兄弟がいる。私も会ったことはないのだけれど、大丈夫、きっと仲良くなれるわ」
「うん。大丈夫だよ。マーマ・・・」



目を開くと、黒い瞳がじっとこちらを見おろしているのがわかった。
「おい、そろそろ降りて来い」
「ああ、寝ていた」
ソファから身を起こし、顔にかかっている髪を手で払った。
朝から一階は慌ただしかった。瞬たちが誕生日だからと、俺のためにケーキを焼いてくれたのだ。傍で見ているのも照れくさく、二階の私室に来て、そのまま眠ってしまったらしい。その間にずいぶんと懐かしい夢を見た。
っていうか、俺。声に出してはいなかったろうか。マーマって、ずい分はっきりと口にしたような気がする。
腰に手を置いたまま、じっと待っている一輝の表情からは何も読み取れない。わざわざこちらから、確認するのもおかしな話だ。立ち上がると一輝は背を向けて、ドアノブに手をかけた。
「誕生日に免じて、寝言で母親を呼んだことは黙っていてやろう」
「チッ」
けれども心のなかに、夢の中の優しさが満ちていた。やがて日本で出会った、一輝の幼い顔を思い出す。懸命に瞬を思いやる姿を見て、信じられる奴だと思った。
大丈夫だよ、マーマ。
俺に、命を与えてくれてありがとう。
「マーマは大切な人だ。別に恥じることなんかない」
開き直ってそう言うと、一輝はニヤリと笑った。
どうせコイツにも、思い当たる節があるんだろう。

PR

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:
   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック