忍者ブログ
☆矢熱再燃。 ただただ氷河が好きだと叫びたい二次創作ブログです。 色気のある話はあまり書けないと思いますが、腐目線なのでご注意ください。 版権元とは一切関係ございません。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


続きです。

拍手[11回]




車を降りると、一輝は背を向けたまま片手を差し出した。無言でその上に左手を乗せる。手のひらを通して、互いの熱が伝わってくる。
用意されていたのは、こじんまりとした落ち着いた雰囲気の店だった。入口で案内を待つ間、視線を走らせ奥のテーブルに黒髪の少女がいることを確認した。少女の向かいに座っているのは、三巨頭の一人。
「城戸」と一輝が名前を告げると、店員は赤いバラの飾られた席に二人を導いた。パンドラから三つ離れた席。会話までは聞こえないが、向こうが見る気になればしぐさや表情はよく見える絶妙な距離と角度。
 
席に着くと微妙な沈黙が舞い降りた。これではいけないと思いつつも、そもそも普段から会話のない二人なのである。一輝は椅子に背を預けて、じっとメニューを睨むようにしている。手持無沙汰の氷河は、細い硝子の花瓶を両手で包むようにすると、そっと引き寄せて赤い花弁を覗き込んだ。
と、そこへ、カラカラと運ばれてきたものがあった。
色とりどりのケーキを乗せた、夢のようなワゴン。
それは氷河の隣でピタッと止まった。宝石のようなケーキたちは店内の暖色を帯びた光を反射し、キラキラと輝いている。
羞恥と緊張でうつむきがちだった氷河は、我を忘れてそのワゴンに釘付けになった。隣の席の若い女性は、さんざん迷った挙句、そこから三つのケーキを選んだ。店員はそれを洗練されたしぐさで皿に並べ、アイスクリームを添え、フルーツソースで華やかにその周りを彩った。
「な、なんだあれは・・・。」
周囲に声でばれぬよう、顔を近づけて一輝に耳打ちする。
「俺はあれを頼む。お前も、あれを頼め。」
「俺は別に」
「お前が頼めば六個になる。すべて俺が喰う。」
「そんな大食いの女がいるか。」
「さりげなく喰うから大丈夫だ。」
何が大丈夫だと思いつつ、明らかにテンションの上がっている様子に、つい笑みがこぼれてしまう。
甘いものはそれ程好きではないが、味見してみるのも悪くはない。
 
やがてワゴンがくる。
さっき隣のワゴンをがっつり覗いていたくせに、ここにきてまだ迷っている。細く白い指を整った顎にあてたまま、蒼い瞳はワゴンの上をさ迷っている。凛とした美少女が店のケーキに心奪われている様に、店員もふと笑みをこぼした。こんな瞬間のために、自分は働いている。姿勢を正したまま、店員はじっと幸せをかみしめた。
やがて思い切ったように、氷河はその指で六個のケーキを指差した。淡いピンクのマニュキアを塗った形の良い爪が、桜貝のようにつやつやと光った。
チョコレートとブラックチェリーのケーキ
キャラメルプディング
モンブラン
ショートケーキ
アップルパイ
チーズケーキ
一つ目の皿にはカシスのジェラート。二つ目の皿にはバニラアイスがついてご満悦である。一輝はふと、デスクイーン島に眠る少女のことを思い出した。もしも彼女をこんな店に連れて来られたらどんなに喜んだろう。あの島にはこんなものは何一つなかった。グラスに注がれた、レモンの香りがする水でさえも。
胸に痛みを感じながら、一輝はフォークを手に取った。
目の前の男に六個全部喰われる前に、せめて俺が喰ってやる。
 
気乗りしない様子だったくせに、一輝はショートケーキを一口頬張ると、フンとうなずいて二口目に入った。
その一口がでかい、と氷河は思った。
品のよい小さなケーキである。すべてを味見すると心に決めていた氷河は、食べられてしまう前にすっと腕を伸ばし、てっぺんの苺とクリームを掬い取って口に運んだ。
甘いものに興味はない。興味はないがてっぺんの苺は別である。
何の権利があって、人の苺を奪うのか。
一輝はすかさず手を伸ばし、モンブランから栗を奪った。
頂上の栗。渋皮と一緒にシロップで甘く煮てあった栗。フランス生まれの我が師も大好きな栗・・・。
自身の行為は棚に上げ、信じられないものを見るかのように、目を見開いて氷河は一輝を見つめた。
責めるように寄せられた美しい眉。すこし尖らせた淡いピンクの唇。
どうも調子が狂う。普段ならざまみろと笑ってやるところなのに、身銭をはたいてモンブランを追加注文したくなる程のかわいさだ。
思わず一輝は笑みをこぼした。
その唇に先ほどの生クリームがついている。
氷河の脳裏に、ふと、沙織の言葉がよみがえる。
「今から数時間、お母様になったつもりで。」
氷河は膝に広げていた白いナフキンを手に取ると、その手を伸ばして一輝の口元をぬぐった。そうして幼き日、母が自身にしてくれたように、一輝を見つめてにっこりとほほ笑んだ。
そもそも氷河の笑顔自体、めったに見られるものではない。それなのにこの、聖母のような微笑はなんだろう。一輝は心臓をきゅっとつかまれたように苦しくなった。
 
一方ラダマンティスは困惑していた。
ハーデス様から、ケーキ割引券なるものを手渡され、パンドラ様をお連れするように命ぜられた。まぁ、嬉しくないと言えば嘘になる。
けれども二人きりで向かい合って、一体何を話せばよいのか。
戦いに明け暮れ、恋にうつつを抜かす暇などなかった己の不器用さを呪っていると、女神の聖闘士が現れた。
不死鳥を見た途端、パンドラ様の表情が変わった。
表情が変わったというより、そんな風に感情を表すのをラダマンティスは初めて見た気がした。
不死鳥の姿を認めてパッと上気した顔は、続く少女の姿を見て凍りついた。
いつの間に恋をなさっていたのだろう。唇を噛んで平静を装う姿は、か弱い一人の少女にしか見えなかった。
二人は指先を軽く絡めたまま歩いてきて、三つ先の席に座った。沈黙など恐るるに足らずといった風で、不死鳥はどっかりと腰を掛けたが、金髪の少女が顔を寄せて何か囁いたのをきっかけに、二人はひどく親しげに会話を始めた。
不死鳥の唇は、少女の薄紅い耳たぶに今にも触れんばかりだ。
敵ではあったが、ラダマンティスは不死鳥に一目置いていた。アイアコスを倒した実力もさることながら、その小宇宙に揺るぎない意志を感じたからだ。同じ陣営で戦ったのなら、よき友となったかもしれない。
その思いが今、あっさりと裏切られた気がする。
おのれ、女とデレデレしやがって―。
その怒りは、二人が互いのケーキをつつき始めたとき、頂点に達した。
 
「まるで、光のようだな、あの娘。」
そう呟いてパンドラは、自身の服に目を落とした。上品ではあるが、重い黒のドレス。戦いが済んだ今でも、つい黒いものばかりを身にまとってしまうのは、自分の罪を覆い隠してしまいたいからだろうか。
あんな真っ白な服を着て笑うことなど、私には許されない。
この身は幾多の返り血で染まっているのだから。
「帰ろう。」
静かにそう言ったとき、入口のベルがカランと鳴った。
PR


追記を閉じる▲



車を降りると、一輝は背を向けたまま片手を差し出した。無言でその上に左手を乗せる。手のひらを通して、互いの熱が伝わってくる。
用意されていたのは、こじんまりとした落ち着いた雰囲気の店だった。入口で案内を待つ間、視線を走らせ奥のテーブルに黒髪の少女がいることを確認した。少女の向かいに座っているのは、三巨頭の一人。
「城戸」と一輝が名前を告げると、店員は赤いバラの飾られた席に二人を導いた。パンドラから三つ離れた席。会話までは聞こえないが、向こうが見る気になればしぐさや表情はよく見える絶妙な距離と角度。
 
席に着くと微妙な沈黙が舞い降りた。これではいけないと思いつつも、そもそも普段から会話のない二人なのである。一輝は椅子に背を預けて、じっとメニューを睨むようにしている。手持無沙汰の氷河は、細い硝子の花瓶を両手で包むようにすると、そっと引き寄せて赤い花弁を覗き込んだ。
と、そこへ、カラカラと運ばれてきたものがあった。
色とりどりのケーキを乗せた、夢のようなワゴン。
それは氷河の隣でピタッと止まった。宝石のようなケーキたちは店内の暖色を帯びた光を反射し、キラキラと輝いている。
羞恥と緊張でうつむきがちだった氷河は、我を忘れてそのワゴンに釘付けになった。隣の席の若い女性は、さんざん迷った挙句、そこから三つのケーキを選んだ。店員はそれを洗練されたしぐさで皿に並べ、アイスクリームを添え、フルーツソースで華やかにその周りを彩った。
「な、なんだあれは・・・。」
周囲に声でばれぬよう、顔を近づけて一輝に耳打ちする。
「俺はあれを頼む。お前も、あれを頼め。」
「俺は別に」
「お前が頼めば六個になる。すべて俺が喰う。」
「そんな大食いの女がいるか。」
「さりげなく喰うから大丈夫だ。」
何が大丈夫だと思いつつ、明らかにテンションの上がっている様子に、つい笑みがこぼれてしまう。
甘いものはそれ程好きではないが、味見してみるのも悪くはない。
 
やがてワゴンがくる。
さっき隣のワゴンをがっつり覗いていたくせに、ここにきてまだ迷っている。細く白い指を整った顎にあてたまま、蒼い瞳はワゴンの上をさ迷っている。凛とした美少女が店のケーキに心奪われている様に、店員もふと笑みをこぼした。こんな瞬間のために、自分は働いている。姿勢を正したまま、店員はじっと幸せをかみしめた。
やがて思い切ったように、氷河はその指で六個のケーキを指差した。淡いピンクのマニュキアを塗った形の良い爪が、桜貝のようにつやつやと光った。
チョコレートとブラックチェリーのケーキ
キャラメルプディング
モンブラン
ショートケーキ
アップルパイ
チーズケーキ
一つ目の皿にはカシスのジェラート。二つ目の皿にはバニラアイスがついてご満悦である。一輝はふと、デスクイーン島に眠る少女のことを思い出した。もしも彼女をこんな店に連れて来られたらどんなに喜んだろう。あの島にはこんなものは何一つなかった。グラスに注がれた、レモンの香りがする水でさえも。
胸に痛みを感じながら、一輝はフォークを手に取った。
目の前の男に六個全部喰われる前に、せめて俺が喰ってやる。
 
気乗りしない様子だったくせに、一輝はショートケーキを一口頬張ると、フンとうなずいて二口目に入った。
その一口がでかい、と氷河は思った。
品のよい小さなケーキである。すべてを味見すると心に決めていた氷河は、食べられてしまう前にすっと腕を伸ばし、てっぺんの苺とクリームを掬い取って口に運んだ。
甘いものに興味はない。興味はないがてっぺんの苺は別である。
何の権利があって、人の苺を奪うのか。
一輝はすかさず手を伸ばし、モンブランから栗を奪った。
頂上の栗。渋皮と一緒にシロップで甘く煮てあった栗。フランス生まれの我が師も大好きな栗・・・。
自身の行為は棚に上げ、信じられないものを見るかのように、目を見開いて氷河は一輝を見つめた。
責めるように寄せられた美しい眉。すこし尖らせた淡いピンクの唇。
どうも調子が狂う。普段ならざまみろと笑ってやるところなのに、身銭をはたいてモンブランを追加注文したくなる程のかわいさだ。
思わず一輝は笑みをこぼした。
その唇に先ほどの生クリームがついている。
氷河の脳裏に、ふと、沙織の言葉がよみがえる。
「今から数時間、お母様になったつもりで。」
氷河は膝に広げていた白いナフキンを手に取ると、その手を伸ばして一輝の口元をぬぐった。そうして幼き日、母が自身にしてくれたように、一輝を見つめてにっこりとほほ笑んだ。
そもそも氷河の笑顔自体、めったに見られるものではない。それなのにこの、聖母のような微笑はなんだろう。一輝は心臓をきゅっとつかまれたように苦しくなった。
 
一方ラダマンティスは困惑していた。
ハーデス様から、ケーキ割引券なるものを手渡され、パンドラ様をお連れするように命ぜられた。まぁ、嬉しくないと言えば嘘になる。
けれども二人きりで向かい合って、一体何を話せばよいのか。
戦いに明け暮れ、恋にうつつを抜かす暇などなかった己の不器用さを呪っていると、女神の聖闘士が現れた。
不死鳥を見た途端、パンドラ様の表情が変わった。
表情が変わったというより、そんな風に感情を表すのをラダマンティスは初めて見た気がした。
不死鳥の姿を認めてパッと上気した顔は、続く少女の姿を見て凍りついた。
いつの間に恋をなさっていたのだろう。唇を噛んで平静を装う姿は、か弱い一人の少女にしか見えなかった。
二人は指先を軽く絡めたまま歩いてきて、三つ先の席に座った。沈黙など恐るるに足らずといった風で、不死鳥はどっかりと腰を掛けたが、金髪の少女が顔を寄せて何か囁いたのをきっかけに、二人はひどく親しげに会話を始めた。
不死鳥の唇は、少女の薄紅い耳たぶに今にも触れんばかりだ。
敵ではあったが、ラダマンティスは不死鳥に一目置いていた。アイアコスを倒した実力もさることながら、その小宇宙に揺るぎない意志を感じたからだ。同じ陣営で戦ったのなら、よき友となったかもしれない。
その思いが今、あっさりと裏切られた気がする。
おのれ、女とデレデレしやがって―。
その怒りは、二人が互いのケーキをつつき始めたとき、頂点に達した。
 
「まるで、光のようだな、あの娘。」
そう呟いてパンドラは、自身の服に目を落とした。上品ではあるが、重い黒のドレス。戦いが済んだ今でも、つい黒いものばかりを身にまとってしまうのは、自分の罪を覆い隠してしまいたいからだろうか。
あんな真っ白な服を着て笑うことなど、私には許されない。
この身は幾多の返り血で染まっているのだから。
「帰ろう。」
静かにそう言ったとき、入口のベルがカランと鳴った。
PR

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:
   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック