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とある日のこと。
宝瓶宮に押しかけてまったりとお茶を楽しんでいたミロが、ふと宮の主に尋ねた。
「氷河って、技の前に妙なおどりを踊るだろ? あれ教えたのって、やっぱりお前?」
カミュは飲んでいた紅茶をあやうく吹き出しそうになるのをかろうじてこらえた。
「いや、違う。断じて・・・。しかし技を授けたのが私である以上、その誤解は当然のもの。黙って誤解されているより、単刀直入に聞いてもらってよかったのかもしれない。
聞いてくれるか? あの踊りができるまでを。」
そう言ってカミュはミロのカップに新しくお茶を満たし、とつとつと語り始めた。
前に話したと思うが、修行を始めたころは、アイザックも氷河も小宇宙には目覚めていなかった。それが兆しを見せ始めたのは、修行を始めて一年。氷河が9歳の時だった。
子供たちに休憩を言い渡して、私は部屋で紅茶を飲んでいた。そうだ、確か、今と同じアールグレイだ。
その時ふと、小宇宙を感じた。
まだ弱々しいが、澄み切っていて、心に沁みこんでくるような小宇宙だった。少し前に目覚めたアイザックのものとは違ったので、氷河だと思って、私はすぐに立ち上がった。
小屋を出ると、アイザックがうれしそうに駆け寄ってきた。
「先生!ついに氷河がやりました!」
「そのようだな。」
そういって私も思わず顔を綻ばせた。氷河はアイザックの後ろで、少し照れたように笑っていた。
「もう一度やってみろよ!氷河!」
「見せてみろ。」
「はい!」
元気いっぱいに返事をした氷河の、次の行動に私は言葉を失った。
氷河は両手を広げてパタパタと上下に動かしながら、ぐるぐると小さな輪を描くようにまわり始めたのだ。
―学芸会。
そんなものはやったことも、見たこともないが、私はふとその言葉を思い出した。
氷河はアイスブルーの瞳を輝かせ、柔らかな金髪をなびかせながら、くるくると走った。その姿は確かに愛らしい子白鳥のようではあった。そうして走るうち、彼の周りに蒼い光がたちのぼって、わずかに凍気すら発したのだった。
「俺たち、白鳥座の聖闘士って、どんなだろうって話していたんです。それで二人で色々検討しているうちに、氷河が小宇宙に目覚めたんです。」
「それは、白鳥座の聖闘士ではなくて白鳥の真似だろう。」と私は言いたかった。
言いたかったが、二人の子供のきらきらとした瞳にみつめられると無下に否定するのはかわいそうに思われた。
「…氷河、今の感覚を忘れるな。今度はその場を動かずにやってみろ。」
「はい!」
しかしどうやっても、立ち止まったままではうまくゆかない。
普通の体勢でも小宇宙を燃焼できるようになるのを待つか、目覚めた小宇宙を育てながら徐々に軌道修正してゆくか・・・。
悩んだ末に、私は後者を選んだ。
修行を続けるうち、小宇宙くらいは普通に燃焼できるようになったのだが、それを高めるために踊る癖は直らなかった。というより、踊りは踊りで、妙に洗練されていったのだ。
私も白鳥座はそんなものかと思うようになって、口やかましく言うのはやめにした。
「なんだ、あの事故より前に、キグナスは氷河と決まっていたのか?」
「性格的に見ても、実力の面でも、戦士としてはアイザックの方が上だった。わたしはアイザックを聖闘士にしたかったよ。
だが、白鳥座は氷河以外にはありえないだろうということもどこかで確信していた。
お前がスコーピオのミロで、私がアクエリアスのカミュでしかありえないように。
それは多分、アイザックも感じていたことだ。何も言わずに修行に打ち込んでいたが、あれは立派な子だ。」
「……エリシオンでも踊ってきたんだろうな。」
「まぁ、そうだろうな」
カミュは薄く笑いをもらすと、窓の外に目を向けた。
名も知らぬ秋の草が、傾きかけた陽を受けて金色に光を放っていた。
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とある日のこと。
宝瓶宮に押しかけてまったりとお茶を楽しんでいたミロが、ふと宮の主に尋ねた。
「氷河って、技の前に妙なおどりを踊るだろ? あれ教えたのって、やっぱりお前?」
カミュは飲んでいた紅茶をあやうく吹き出しそうになるのをかろうじてこらえた。
「いや、違う。断じて・・・。しかし技を授けたのが私である以上、その誤解は当然のもの。黙って誤解されているより、単刀直入に聞いてもらってよかったのかもしれない。
聞いてくれるか? あの踊りができるまでを。」
そう言ってカミュはミロのカップに新しくお茶を満たし、とつとつと語り始めた。
前に話したと思うが、修行を始めたころは、アイザックも氷河も小宇宙には目覚めていなかった。それが兆しを見せ始めたのは、修行を始めて一年。氷河が9歳の時だった。
子供たちに休憩を言い渡して、私は部屋で紅茶を飲んでいた。そうだ、確か、今と同じアールグレイだ。
その時ふと、小宇宙を感じた。
まだ弱々しいが、澄み切っていて、心に沁みこんでくるような小宇宙だった。少し前に目覚めたアイザックのものとは違ったので、氷河だと思って、私はすぐに立ち上がった。
小屋を出ると、アイザックがうれしそうに駆け寄ってきた。
「先生!ついに氷河がやりました!」
「そのようだな。」
そういって私も思わず顔を綻ばせた。氷河はアイザックの後ろで、少し照れたように笑っていた。
「もう一度やってみろよ!氷河!」
「見せてみろ。」
「はい!」
元気いっぱいに返事をした氷河の、次の行動に私は言葉を失った。
氷河は両手を広げてパタパタと上下に動かしながら、ぐるぐると小さな輪を描くようにまわり始めたのだ。
―学芸会。
そんなものはやったことも、見たこともないが、私はふとその言葉を思い出した。
氷河はアイスブルーの瞳を輝かせ、柔らかな金髪をなびかせながら、くるくると走った。その姿は確かに愛らしい子白鳥のようではあった。そうして走るうち、彼の周りに蒼い光がたちのぼって、わずかに凍気すら発したのだった。
「俺たち、白鳥座の聖闘士って、どんなだろうって話していたんです。それで二人で色々検討しているうちに、氷河が小宇宙に目覚めたんです。」
「それは、白鳥座の聖闘士ではなくて白鳥の真似だろう。」と私は言いたかった。
言いたかったが、二人の子供のきらきらとした瞳にみつめられると無下に否定するのはかわいそうに思われた。
「…氷河、今の感覚を忘れるな。今度はその場を動かずにやってみろ。」
「はい!」
しかしどうやっても、立ち止まったままではうまくゆかない。
普通の体勢でも小宇宙を燃焼できるようになるのを待つか、目覚めた小宇宙を育てながら徐々に軌道修正してゆくか・・・。
悩んだ末に、私は後者を選んだ。
修行を続けるうち、小宇宙くらいは普通に燃焼できるようになったのだが、それを高めるために踊る癖は直らなかった。というより、踊りは踊りで、妙に洗練されていったのだ。
私も白鳥座はそんなものかと思うようになって、口やかましく言うのはやめにした。
「なんだ、あの事故より前に、キグナスは氷河と決まっていたのか?」
「性格的に見ても、実力の面でも、戦士としてはアイザックの方が上だった。わたしはアイザックを聖闘士にしたかったよ。
だが、白鳥座は氷河以外にはありえないだろうということもどこかで確信していた。
お前がスコーピオのミロで、私がアクエリアスのカミュでしかありえないように。
それは多分、アイザックも感じていたことだ。何も言わずに修行に打ち込んでいたが、あれは立派な子だ。」
「……エリシオンでも踊ってきたんだろうな。」
「まぁ、そうだろうな」
カミュは薄く笑いをもらすと、窓の外に目を向けた。
名も知らぬ秋の草が、傾きかけた陽を受けて金色に光を放っていた。
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