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光るきみの物語 4
星矢赤点のニュースは、すぐさま聖域の知るところとなった。
「数学担当は、確かカノンだったな。岬へ閉じ込めろ。」
「俺は、やるべきことはやった。そんなに言うのならばお前が指導すればよかったろうっ!!大体、試験まで一週間もないのに、かけ算の暗記から始めたんだぞっ!そっから高1の数学だぞっ!」
「やかましいっ!!それをやるのがお前の仕事だっー!!」
そうして牢の扉は無情にも閉ざされ、ざぶざぶと塩水を飲む体験を、カノンは久々に味わったのだった。
しかし、岬の方がまだマシなのかもしれない。
聖域に残れば、明石の君を演じなければならない。
都を離れた光源氏に見初められ、姫君を生み落す役。
狂ってる。やっぱり聖域は狂ってる。
カノンは洞窟の奥の、サガも知らない細い道をたどり、海底神殿に逃げ込むことに決めた。
「しかし、どうしたものだろう。カノンを幽閉したところで問題は解決しない。」とアイオリア。
「・・・私も、姿をくらまそうか?」
カミュの発言に、シュラは眉をひそめた。
「逃げる気ではないだろうな?」
「そうではない。主役がいなければ、映画を撮ろうにも撮れんだろう。仮に撮ったとしても、恋愛だなんだという場面は免れる。しばらくすれば、女神のお気持ちも変わるかもしれん。」
「・・・まぁ、確かにそうだな。」
「で、どこに隠れるんだ? 相手は女神だぞ。」
「ああ、少し心当たりはある。・・・まだ学校があるので氷河は置いてゆく。ミロ、友としてお前に頼みたい。氷河を護ってやってくれ。あの子は精一杯頑張って、古典の赤点も免れたのだ。優しい子だからな、何があるかわからない。どうか私の代わりに、あの子を護ってやってくれ。あの子の美しい笑顔を、あの子の澄んだ、天使のような心を。・・・だが、手は出すなよ。」
殴りたい気持ちを堪えて、ミロは頷いた。
聖域を後にしたカミュは、シベリアを訪れた。
修行地よりさらに北の、海沿いにある一軒の小屋。
小宇宙を感じたのか、ノックする前に扉は開いた。
「どうなさったんですか?カミュ?」
隻眼の少年はそう言うと、カミュを部屋に招き入れた。
熱い紅茶にジャム。
差し出されたそれは、懐かしい味がした。
「聖域で色々とあってな。しばらくここで匿って貰えないだろうか?」
師の申し出にアイザックは戸惑った。
道を違えた自分を、師が頼ってくれることは嬉しい。尊敬する師と、一緒に過ごせることも嬉しい。
しかし匿ってくれというのは、一体どういうことなのか?
師が道を誤る筈がない。
だとしたら、聖域で何かあったのか?
アイザックの思いつめた表情を見て、カミュは口を開いた。
「いや、別段、事件があったという訳ではないのだ。女神も無事だし、氷河も元気だ。落ち着いたら、私も聖域に戻る。」
「実は・・・氷河からさっき電話がありました。女神が、先生を探していると・・・。」
何ということだろう。
直接私に語りかけるのではなく、氷河を使ってコンタクトを取ってくるとは・・・。
しかしこれは、氷河のためでもあるのだ。
カミュは心を鬼にした。
「アイザック、訳を聞かずに匿ってほしい。ここはもうばれている。海底神殿にしばらく置いて貰えまいか?」
「・・・わかりました。」
氷の海に飛び込んで、カミュはアイザックのあとを追った。
決して穏やかではない潮流の中を、アイザックは力強く泳いでゆく。
その姿はカミュの知らないものだった。
深く深く氷の海を潜ってゆくと、ひと際強い水の流れに巻き込まれた。
くるくると体はまわり、上も下もわからなくなる。
そんなカミュの手をアイザックが引いた。
そうして気が付くと、石畳の上に立っていた。
「仲間と話してきます。」
一人石段に腰かけて、カミュはあたりを見回した。
ここは、北氷洋なのだろうか?
ここで氷河とアイザックは戦ったのだろうか?
自分が三度命を得たあとも、氷河はしばらく左目の包帯を解かなかった。その時の、暗く、こわばった表情を思い出す。
そしてアイザックの左目。
想いはまわり、気が付くと涙がこぼれていた。
自分が命を得たときには、すべてが終わった後だった。
一度も泣くことなく、通り過ぎてきてしまった。
「先生。」
膝に頭を乗せ、涙が流れるままにしていたカミュは、アイザックの声で頭をあげた。
グイと涙を拭いて振り返ると、アイザックの後ろに見覚えのある人物が立っていた。
「カノン・・・。」
「話は、アイザックから聞いた。確かにそれが得策かもしれん。」
「ポセ・・・ジュリアン・ソロ氏とソレント、それにイオとバイアンは復興のために世界をまわってます。クリシュナとカーサと俺が、ここの神殿を少しずつ修復してるんです。クリシュナに話をしたら、わかってくれました。表向き、歓迎するわけにはいかないけれど、北氷洋の住居に関しては、自由に使っていいそうです。」
「ありがとう。クリシュナにも礼を伝えてくれ。」
「はい。」
お前は大丈夫なのか・・・?とカミュはカノンを見上げて目だけで尋ねた。
ポセイドンの封印を解き、海界を利用して世界征服を試みた男。
今は女神の側につき、双児宮を護っている。
ノコノコとこんなところに戻ってきて、大丈夫なのか?
「・・・俺は北大西洋の部屋を借りる。」
ふてくされたような顔して、カノンは言った。
その顔がおかしくて、思わずカミュは笑みをこぼした。
帰る場所が、あるのだ。ここにも。
そのことはカノンが、海界でもそれなりの信頼を得てきたこと、そして戦いの後も義を尽くしてきたことを意味する。
「お腹すいていませんか?ご飯にしましょうか?」
「ああ」
「シードラ・・・じゃない、カノンもどうぞ。」
足取り軽く住居へと向かうアイザックについて、カミュもカノンとともに歩き始めた。
と、背後に何か気配を感じる。
振り返ると何か白いものが、ちらりと視界に入って消えた。
「意外とここは食糧豊富なんですよ。」
軽快に魚をさばいては鍋に放り込みながら、アイザックは言った。
「手伝おうか?」
「大丈夫です。俺が作るんで、先生はゆっくりしていて下さい♪ ブイヤベース、作りますね。ちょっと時間かかるけど、美味しいの作るから待っててください。」
カミュは椅子に腰かけて、窓の外を見た。
またしても、柱の陰に白い姿。
「少し、席を外す。」
そう言って、カミュは立ち上がった。
部屋を出て、柱へと向かう。
氷河がアイザックを倒して、打ち壊した柱だ。
力強く海を支えていただろうそれは、途中で散々に砕けており、瓦礫が端に集められていた。
ザッ。
ごくわずかに足音がした。
カミュはとっさに構え、小宇宙を高めた。
柱の陰から、人影が現れる。
「お、お前は・・・・・・氷河?!」
「心配だから、来ちゃいました。」と氷河は言って、にっこりと笑った。
「ミロはどうしたんだ、ミロは。」
「ええ、海界を探してみると言ったら納得してくれて。やっぱりここにいらしたんですね。」
「しかしお前、どうしたんだその格好?」
「あは、先生、こういうのお嫌いですか?」
そう言って氷河は、くるりと片足で回って見せた。
白い、ミニスカートが揺れる。
ふわふわと胸元にフェイクファーのついた、白いミニのキャミワンピ。
大変に似合っているが、これはどういうことだろう?
髪と手首にも、白いふわふわの飾りがついている。
その両手を、胸の前で組むようにして、氷河はカミュを見上げた。
「よかった。ご無事で。会いたかった・・・せんせい。」
石畳に、赤い滴が落ちた。
い、いかん、鼻血・・・。
と、その時、小石が飛んできて氷河のでこにあたった。
「いい加減にしとけよ、カーサ。」
そう言うとカノンは、ポケットティッシュを落として去って行った。
「うう、これがカーサか・・・。」
カミュはポケットティッシュを拾い上げ、一枚取り出すと鼻に詰めた。
「カノンよ。さすがにお前は男の情けを知る男。」
そうして、奇妙な海底生活が始まったのだった。
つづく
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光るきみの物語 4
星矢赤点のニュースは、すぐさま聖域の知るところとなった。
「数学担当は、確かカノンだったな。岬へ閉じ込めろ。」
「俺は、やるべきことはやった。そんなに言うのならばお前が指導すればよかったろうっ!!大体、試験まで一週間もないのに、かけ算の暗記から始めたんだぞっ!そっから高1の数学だぞっ!」
「やかましいっ!!それをやるのがお前の仕事だっー!!」
そうして牢の扉は無情にも閉ざされ、ざぶざぶと塩水を飲む体験を、カノンは久々に味わったのだった。
しかし、岬の方がまだマシなのかもしれない。
聖域に残れば、明石の君を演じなければならない。
都を離れた光源氏に見初められ、姫君を生み落す役。
狂ってる。やっぱり聖域は狂ってる。
カノンは洞窟の奥の、サガも知らない細い道をたどり、海底神殿に逃げ込むことに決めた。
「しかし、どうしたものだろう。カノンを幽閉したところで問題は解決しない。」とアイオリア。
「・・・私も、姿をくらまそうか?」
カミュの発言に、シュラは眉をひそめた。
「逃げる気ではないだろうな?」
「そうではない。主役がいなければ、映画を撮ろうにも撮れんだろう。仮に撮ったとしても、恋愛だなんだという場面は免れる。しばらくすれば、女神のお気持ちも変わるかもしれん。」
「・・・まぁ、確かにそうだな。」
「で、どこに隠れるんだ? 相手は女神だぞ。」
「ああ、少し心当たりはある。・・・まだ学校があるので氷河は置いてゆく。ミロ、友としてお前に頼みたい。氷河を護ってやってくれ。あの子は精一杯頑張って、古典の赤点も免れたのだ。優しい子だからな、何があるかわからない。どうか私の代わりに、あの子を護ってやってくれ。あの子の美しい笑顔を、あの子の澄んだ、天使のような心を。・・・だが、手は出すなよ。」
殴りたい気持ちを堪えて、ミロは頷いた。
聖域を後にしたカミュは、シベリアを訪れた。
修行地よりさらに北の、海沿いにある一軒の小屋。
小宇宙を感じたのか、ノックする前に扉は開いた。
「どうなさったんですか?カミュ?」
隻眼の少年はそう言うと、カミュを部屋に招き入れた。
熱い紅茶にジャム。
差し出されたそれは、懐かしい味がした。
「聖域で色々とあってな。しばらくここで匿って貰えないだろうか?」
師の申し出にアイザックは戸惑った。
道を違えた自分を、師が頼ってくれることは嬉しい。尊敬する師と、一緒に過ごせることも嬉しい。
しかし匿ってくれというのは、一体どういうことなのか?
師が道を誤る筈がない。
だとしたら、聖域で何かあったのか?
アイザックの思いつめた表情を見て、カミュは口を開いた。
「いや、別段、事件があったという訳ではないのだ。女神も無事だし、氷河も元気だ。落ち着いたら、私も聖域に戻る。」
「実は・・・氷河からさっき電話がありました。女神が、先生を探していると・・・。」
何ということだろう。
直接私に語りかけるのではなく、氷河を使ってコンタクトを取ってくるとは・・・。
しかしこれは、氷河のためでもあるのだ。
カミュは心を鬼にした。
「アイザック、訳を聞かずに匿ってほしい。ここはもうばれている。海底神殿にしばらく置いて貰えまいか?」
「・・・わかりました。」
氷の海に飛び込んで、カミュはアイザックのあとを追った。
決して穏やかではない潮流の中を、アイザックは力強く泳いでゆく。
その姿はカミュの知らないものだった。
深く深く氷の海を潜ってゆくと、ひと際強い水の流れに巻き込まれた。
くるくると体はまわり、上も下もわからなくなる。
そんなカミュの手をアイザックが引いた。
そうして気が付くと、石畳の上に立っていた。
「仲間と話してきます。」
一人石段に腰かけて、カミュはあたりを見回した。
ここは、北氷洋なのだろうか?
ここで氷河とアイザックは戦ったのだろうか?
自分が三度命を得たあとも、氷河はしばらく左目の包帯を解かなかった。その時の、暗く、こわばった表情を思い出す。
そしてアイザックの左目。
想いはまわり、気が付くと涙がこぼれていた。
自分が命を得たときには、すべてが終わった後だった。
一度も泣くことなく、通り過ぎてきてしまった。
「先生。」
膝に頭を乗せ、涙が流れるままにしていたカミュは、アイザックの声で頭をあげた。
グイと涙を拭いて振り返ると、アイザックの後ろに見覚えのある人物が立っていた。
「カノン・・・。」
「話は、アイザックから聞いた。確かにそれが得策かもしれん。」
「ポセ・・・ジュリアン・ソロ氏とソレント、それにイオとバイアンは復興のために世界をまわってます。クリシュナとカーサと俺が、ここの神殿を少しずつ修復してるんです。クリシュナに話をしたら、わかってくれました。表向き、歓迎するわけにはいかないけれど、北氷洋の住居に関しては、自由に使っていいそうです。」
「ありがとう。クリシュナにも礼を伝えてくれ。」
「はい。」
お前は大丈夫なのか・・・?とカミュはカノンを見上げて目だけで尋ねた。
ポセイドンの封印を解き、海界を利用して世界征服を試みた男。
今は女神の側につき、双児宮を護っている。
ノコノコとこんなところに戻ってきて、大丈夫なのか?
「・・・俺は北大西洋の部屋を借りる。」
ふてくされたような顔して、カノンは言った。
その顔がおかしくて、思わずカミュは笑みをこぼした。
帰る場所が、あるのだ。ここにも。
そのことはカノンが、海界でもそれなりの信頼を得てきたこと、そして戦いの後も義を尽くしてきたことを意味する。
「お腹すいていませんか?ご飯にしましょうか?」
「ああ」
「シードラ・・・じゃない、カノンもどうぞ。」
足取り軽く住居へと向かうアイザックについて、カミュもカノンとともに歩き始めた。
と、背後に何か気配を感じる。
振り返ると何か白いものが、ちらりと視界に入って消えた。
「意外とここは食糧豊富なんですよ。」
軽快に魚をさばいては鍋に放り込みながら、アイザックは言った。
「手伝おうか?」
「大丈夫です。俺が作るんで、先生はゆっくりしていて下さい♪ ブイヤベース、作りますね。ちょっと時間かかるけど、美味しいの作るから待っててください。」
カミュは椅子に腰かけて、窓の外を見た。
またしても、柱の陰に白い姿。
「少し、席を外す。」
そう言って、カミュは立ち上がった。
部屋を出て、柱へと向かう。
氷河がアイザックを倒して、打ち壊した柱だ。
力強く海を支えていただろうそれは、途中で散々に砕けており、瓦礫が端に集められていた。
ザッ。
ごくわずかに足音がした。
カミュはとっさに構え、小宇宙を高めた。
柱の陰から、人影が現れる。
「お、お前は・・・・・・氷河?!」
「心配だから、来ちゃいました。」と氷河は言って、にっこりと笑った。
「ミロはどうしたんだ、ミロは。」
「ええ、海界を探してみると言ったら納得してくれて。やっぱりここにいらしたんですね。」
「しかしお前、どうしたんだその格好?」
「あは、先生、こういうのお嫌いですか?」
そう言って氷河は、くるりと片足で回って見せた。
白い、ミニスカートが揺れる。
ふわふわと胸元にフェイクファーのついた、白いミニのキャミワンピ。
大変に似合っているが、これはどういうことだろう?
髪と手首にも、白いふわふわの飾りがついている。
その両手を、胸の前で組むようにして、氷河はカミュを見上げた。
「よかった。ご無事で。会いたかった・・・せんせい。」
石畳に、赤い滴が落ちた。
い、いかん、鼻血・・・。
と、その時、小石が飛んできて氷河のでこにあたった。
「いい加減にしとけよ、カーサ。」
そう言うとカノンは、ポケットティッシュを落として去って行った。
「うう、これがカーサか・・・。」
カミュはポケットティッシュを拾い上げ、一枚取り出すと鼻に詰めた。
「カノンよ。さすがにお前は男の情けを知る男。」
そうして、奇妙な海底生活が始まったのだった。
つづく
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