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光るきみの物語 3
1日目の午前中に古典の基礎を学び、午後に試験の傾向と対策を掴んだカミュは、2日目には原文で源氏物語を読んでいた。辞書を引きながら読み進めてゆけば、自然と単語や文法も頭に入る。また、何と言っても今回の高2の試験範囲が、源氏物語の冒頭と若菜の章であったからだ。
よりにもよって若菜か・・・とカミュは思う。
幼くして自分の元に引きとり、源氏が自分の理想を注ぎ込んだ女性、紫の上。彼女との出会いが描かれた場面だ。
誰かさんにピッタリの役・・・?!
冗談ではない。
私はそれほど好色ではないし、育てた子供には翼が生えている。
つぼみのまま手折って、手に入るものなのか。
そんなことを思いながら、気が付けば物語にのめり込んでいるカミュであった。
夕食の後は自習ということで、青銅聖闘士達は部屋に戻った。
黄金聖闘士達は、リビングでコーヒーを飲んでいる。
「進み具合はどうだ?」
訪ねるとカノンが重いため息をついた。
「瞬と紫龍は大丈夫だろう。氷河も理系は平気だな。問題は星矢の数学と一輝の物理。それに英語だ。奴に物理と英語が通じないのは、なんかわかるような気もするが。」
「そちらはどうじゃ?」
「ええ、なんとか明日から指導に入れそうです。」
「さすがだな。」と優艶な笑みを浮かべるアフロディーテに、カミュは言い返した。
「こちらも必死なんだ。」
「さて、ちょっと発破かけに行くか。」
カノンがそう言うと、アフロディーテが立ち上がって、5人分のコーヒーを淹れた。
ノックをすると立ち上がる気配がして、すぐに部屋のドアが開いた。
ドアノブに手を置いたままの氷河の顔は、若干疲れて見える。
「コーヒーを持ってきた。」
「すみません。ありがとうございます。」
そう言ってトレーを受け取ると、ソファの前の小さなテーブルに置いた。
「どうだ。はかどっているか?」
「ええ、頑張ってはいるのですけれど・・・。」
「明日から、古典の勉強を始める。お前、苦手だそうだな。」
普段よりやや深く見える二重の瞼をしばたたかせて、氷河はカミュをみつめた。
「明日から覚悟しておけ。」
「もしかして、もうカミュは、わかるようになっちゃったんですか?」
「付け焼刃だがな。高校生の定期テストの指導ぐらいはなんとかなる。数学が済んだら、少し予習しておくか?」
「はい。」
修行時代を思い出して、氷河は少しうれしくなって笑った。
「古典は、本当に何書いてあるかわからない。それに源氏物語は、なんか嫌いです。」
教科書を前にして、氷河は不満をたれた。
「光源氏が、女たらしだからか?」
「そう!そうですよ。あちこちの女性に手を出して、子供まで産ませて。そういう男は嫌いです。」
「そんな屁理屈をこねる前に、試験をクリアすることだな。それに、ちゃんと読んでみると、意外と面白いぞ。」
子供じみた顔をしている氷河を引き寄せると、カミュはソファの隣に座らせた。
「光源氏の女性遍歴の根底には、母親への思慕があると、女神が言っていた。」
「沙織さんが?」
「ああ、ここに来る前に少し、この話になってな。」
「桐壺の更衣は、源氏が幼い時に死んでしまうだろう?」
「あれ?そうでしたっけ?」
カミュは教科書を手に取ると、ペシンと氷河の頭を叩いた。
「試験範囲だ。」
紫の上が妻となるまでをかいつまんで話して聞かせると、ほぅと氷河はため息をついた。
「そんな話でしたか。
・・・やっぱり女の人たちはみんなかわいそうだな。」
少し遠くを見るようにして、氷河は呟いた。
「六条御息所にしたってそうでしょう? 彼女だって源氏の被害者だ。」
思わずカミュは、聖域に残るサガのことを思い出した。
「しかし、光源氏は、彼女のことを責めたりはしない。むしろ彼女をそこまで追い詰めた自分に責任があると思うのだ。」
「そりゃそうですよ。」
「・・・紫の上についてはどう思う?」
「え?」
コツコツと教科書を叩きながら、カミュは尋ねた。
「幼くして引き取られて、妻となった紫の上だ。」
「ああ、そのひと。その人は割と幸せそうだけど・・・。でも誰かに似てるなんて、そんな理由じゃ悲しいだろうな。」
「紫の上は源氏の生涯の伴侶だ。・・・しかし彼女は、源氏の庇護のもとに育って、そのまま妻となった。彼女には、それを拒む自由も、いやそれを疑う自由すらなかったと、そんな気がする。そういうのは、本当の幸せと言えるのだろうか?」
何気ない風を装いながらも、カミュの目は真剣だった。
「でも。そういうのって、ちゃんとわかるんじゃないでしょうか? どんな出会い方をしても、結局好きな人のことは、好きになるんだって思いますけど。」
「年の差は?」
「そんなのは関係ない。」
教科書に目を落としたまま、ふっと氷河はやわらかく笑った。
「で、源氏物語は、光源氏と紫の上が結ばれて終わりですか?」
「いや、まだ続く。」
「二人の幸せなくらし・・・?」
首を傾けた氷河がかわいくて、カミュは少しめまいがした。
「いや、朧月夜という恋人との交際がばれて、光源氏は都を離れるのだ。そして明石というところで別の女性と出会う。そして・・・。」
「やっぱり最低だっ。」
唇をとがらせる氷河を前に、思わず口走ってしまった。
「私は浮気などしないっ!」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
「・・・いや、なんでもない。」
コホンと咳払いをして、カミュは教科書を手に取った。
「試験範囲の部分。5回ずつ声に出して読んでおきなさい。今日のところはそれで勘弁してやる。」
カミュの努力の甲斐あって、氷河は赤点を免れた。
しかも古典は、自分でもびっくりの93点。
誇らしい気持ちで屋敷に帰ると、沈鬱な空気が立ち込めていた。
コキュートスに漬かっているような顔の5人の真ん中で、星矢が答案用紙を手にして立っていた。
「ごめん。俺、数学やっちった。」
おしまい
読んでくださった方、長々お付き合いくださりありがとうございました。
1日目の午前中に古典の基礎を学び、午後に試験の傾向と対策を掴んだカミュは、2日目には原文で源氏物語を読んでいた。辞書を引きながら読み進めてゆけば、自然と単語や文法も頭に入る。また、何と言っても今回の高2の試験範囲が、源氏物語の冒頭と若菜の章であったからだ。
よりにもよって若菜か・・・とカミュは思う。
幼くして自分の元に引きとり、源氏が自分の理想を注ぎ込んだ女性、紫の上。彼女との出会いが描かれた場面だ。
誰かさんにピッタリの役・・・?!
冗談ではない。
私はそれほど好色ではないし、育てた子供には翼が生えている。
つぼみのまま手折って、手に入るものなのか。
そんなことを思いながら、気が付けば物語にのめり込んでいるカミュであった。
夕食の後は自習ということで、青銅聖闘士達は部屋に戻った。
黄金聖闘士達は、リビングでコーヒーを飲んでいる。
「進み具合はどうだ?」
訪ねるとカノンが重いため息をついた。
「瞬と紫龍は大丈夫だろう。氷河も理系は平気だな。問題は星矢の数学と一輝の物理。それに英語だ。奴に物理と英語が通じないのは、なんかわかるような気もするが。」
「そちらはどうじゃ?」
「ええ、なんとか明日から指導に入れそうです。」
「さすがだな。」と優艶な笑みを浮かべるアフロディーテに、カミュは言い返した。
「こちらも必死なんだ。」
「さて、ちょっと発破かけに行くか。」
カノンがそう言うと、アフロディーテが立ち上がって、5人分のコーヒーを淹れた。
ノックをすると立ち上がる気配がして、すぐに部屋のドアが開いた。
ドアノブに手を置いたままの氷河の顔は、若干疲れて見える。
「コーヒーを持ってきた。」
「すみません。ありがとうございます。」
そう言ってトレーを受け取ると、ソファの前の小さなテーブルに置いた。
「どうだ。はかどっているか?」
「ええ、頑張ってはいるのですけれど・・・。」
「明日から、古典の勉強を始める。お前、苦手だそうだな。」
普段よりやや深く見える二重の瞼をしばたたかせて、氷河はカミュをみつめた。
「明日から覚悟しておけ。」
「もしかして、もうカミュは、わかるようになっちゃったんですか?」
「付け焼刃だがな。高校生の定期テストの指導ぐらいはなんとかなる。数学が済んだら、少し予習しておくか?」
「はい。」
修行時代を思い出して、氷河は少しうれしくなって笑った。
「古典は、本当に何書いてあるかわからない。それに源氏物語は、なんか嫌いです。」
教科書を前にして、氷河は不満をたれた。
「光源氏が、女たらしだからか?」
「そう!そうですよ。あちこちの女性に手を出して、子供まで産ませて。そういう男は嫌いです。」
「そんな屁理屈をこねる前に、試験をクリアすることだな。それに、ちゃんと読んでみると、意外と面白いぞ。」
子供じみた顔をしている氷河を引き寄せると、カミュはソファの隣に座らせた。
「光源氏の女性遍歴の根底には、母親への思慕があると、女神が言っていた。」
「沙織さんが?」
「ああ、ここに来る前に少し、この話になってな。」
「桐壺の更衣は、源氏が幼い時に死んでしまうだろう?」
「あれ?そうでしたっけ?」
カミュは教科書を手に取ると、ペシンと氷河の頭を叩いた。
「試験範囲だ。」
紫の上が妻となるまでをかいつまんで話して聞かせると、ほぅと氷河はため息をついた。
「そんな話でしたか。
・・・やっぱり女の人たちはみんなかわいそうだな。」
少し遠くを見るようにして、氷河は呟いた。
「六条御息所にしたってそうでしょう? 彼女だって源氏の被害者だ。」
思わずカミュは、聖域に残るサガのことを思い出した。
「しかし、光源氏は、彼女のことを責めたりはしない。むしろ彼女をそこまで追い詰めた自分に責任があると思うのだ。」
「そりゃそうですよ。」
「・・・紫の上についてはどう思う?」
「え?」
コツコツと教科書を叩きながら、カミュは尋ねた。
「幼くして引き取られて、妻となった紫の上だ。」
「ああ、そのひと。その人は割と幸せそうだけど・・・。でも誰かに似てるなんて、そんな理由じゃ悲しいだろうな。」
「紫の上は源氏の生涯の伴侶だ。・・・しかし彼女は、源氏の庇護のもとに育って、そのまま妻となった。彼女には、それを拒む自由も、いやそれを疑う自由すらなかったと、そんな気がする。そういうのは、本当の幸せと言えるのだろうか?」
何気ない風を装いながらも、カミュの目は真剣だった。
「でも。そういうのって、ちゃんとわかるんじゃないでしょうか? どんな出会い方をしても、結局好きな人のことは、好きになるんだって思いますけど。」
「年の差は?」
「そんなのは関係ない。」
教科書に目を落としたまま、ふっと氷河はやわらかく笑った。
「で、源氏物語は、光源氏と紫の上が結ばれて終わりですか?」
「いや、まだ続く。」
「二人の幸せなくらし・・・?」
首を傾けた氷河がかわいくて、カミュは少しめまいがした。
「いや、朧月夜という恋人との交際がばれて、光源氏は都を離れるのだ。そして明石というところで別の女性と出会う。そして・・・。」
「やっぱり最低だっ。」
唇をとがらせる氷河を前に、思わず口走ってしまった。
「私は浮気などしないっ!」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
「・・・いや、なんでもない。」
コホンと咳払いをして、カミュは教科書を手に取った。
「試験範囲の部分。5回ずつ声に出して読んでおきなさい。今日のところはそれで勘弁してやる。」
カミュの努力の甲斐あって、氷河は赤点を免れた。
しかも古典は、自分でもびっくりの93点。
誇らしい気持ちで屋敷に帰ると、沈鬱な空気が立ち込めていた。
コキュートスに漬かっているような顔の5人の真ん中で、星矢が答案用紙を手にして立っていた。
「ごめん。俺、数学やっちった。」
おしまい
読んでくださった方、長々お付き合いくださりありがとうございました。
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1日目の午前中に古典の基礎を学び、午後に試験の傾向と対策を掴んだカミュは、2日目には原文で源氏物語を読んでいた。辞書を引きながら読み進めてゆけば、自然と単語や文法も頭に入る。また、何と言っても今回の高2の試験範囲が、源氏物語の冒頭と若菜の章であったからだ。
よりにもよって若菜か・・・とカミュは思う。
幼くして自分の元に引きとり、源氏が自分の理想を注ぎ込んだ女性、紫の上。彼女との出会いが描かれた場面だ。
誰かさんにピッタリの役・・・?!
冗談ではない。
私はそれほど好色ではないし、育てた子供には翼が生えている。
つぼみのまま手折って、手に入るものなのか。
そんなことを思いながら、気が付けば物語にのめり込んでいるカミュであった。
夕食の後は自習ということで、青銅聖闘士達は部屋に戻った。
黄金聖闘士達は、リビングでコーヒーを飲んでいる。
「進み具合はどうだ?」
訪ねるとカノンが重いため息をついた。
「瞬と紫龍は大丈夫だろう。氷河も理系は平気だな。問題は星矢の数学と一輝の物理。それに英語だ。奴に物理と英語が通じないのは、なんかわかるような気もするが。」
「そちらはどうじゃ?」
「ええ、なんとか明日から指導に入れそうです。」
「さすがだな。」と優艶な笑みを浮かべるアフロディーテに、カミュは言い返した。
「こちらも必死なんだ。」
「さて、ちょっと発破かけに行くか。」
カノンがそう言うと、アフロディーテが立ち上がって、5人分のコーヒーを淹れた。
ノックをすると立ち上がる気配がして、すぐに部屋のドアが開いた。
ドアノブに手を置いたままの氷河の顔は、若干疲れて見える。
「コーヒーを持ってきた。」
「すみません。ありがとうございます。」
そう言ってトレーを受け取ると、ソファの前の小さなテーブルに置いた。
「どうだ。はかどっているか?」
「ええ、頑張ってはいるのですけれど・・・。」
「明日から、古典の勉強を始める。お前、苦手だそうだな。」
普段よりやや深く見える二重の瞼をしばたたかせて、氷河はカミュをみつめた。
「明日から覚悟しておけ。」
「もしかして、もうカミュは、わかるようになっちゃったんですか?」
「付け焼刃だがな。高校生の定期テストの指導ぐらいはなんとかなる。数学が済んだら、少し予習しておくか?」
「はい。」
修行時代を思い出して、氷河は少しうれしくなって笑った。
「古典は、本当に何書いてあるかわからない。それに源氏物語は、なんか嫌いです。」
教科書を前にして、氷河は不満をたれた。
「光源氏が、女たらしだからか?」
「そう!そうですよ。あちこちの女性に手を出して、子供まで産ませて。そういう男は嫌いです。」
「そんな屁理屈をこねる前に、試験をクリアすることだな。それに、ちゃんと読んでみると、意外と面白いぞ。」
子供じみた顔をしている氷河を引き寄せると、カミュはソファの隣に座らせた。
「光源氏の女性遍歴の根底には、母親への思慕があると、女神が言っていた。」
「沙織さんが?」
「ああ、ここに来る前に少し、この話になってな。」
「桐壺の更衣は、源氏が幼い時に死んでしまうだろう?」
「あれ?そうでしたっけ?」
カミュは教科書を手に取ると、ペシンと氷河の頭を叩いた。
「試験範囲だ。」
紫の上が妻となるまでをかいつまんで話して聞かせると、ほぅと氷河はため息をついた。
「そんな話でしたか。
・・・やっぱり女の人たちはみんなかわいそうだな。」
少し遠くを見るようにして、氷河は呟いた。
「六条御息所にしたってそうでしょう? 彼女だって源氏の被害者だ。」
思わずカミュは、聖域に残るサガのことを思い出した。
「しかし、光源氏は、彼女のことを責めたりはしない。むしろ彼女をそこまで追い詰めた自分に責任があると思うのだ。」
「そりゃそうですよ。」
「・・・紫の上についてはどう思う?」
「え?」
コツコツと教科書を叩きながら、カミュは尋ねた。
「幼くして引き取られて、妻となった紫の上だ。」
「ああ、そのひと。その人は割と幸せそうだけど・・・。でも誰かに似てるなんて、そんな理由じゃ悲しいだろうな。」
「紫の上は源氏の生涯の伴侶だ。・・・しかし彼女は、源氏の庇護のもとに育って、そのまま妻となった。彼女には、それを拒む自由も、いやそれを疑う自由すらなかったと、そんな気がする。そういうのは、本当の幸せと言えるのだろうか?」
何気ない風を装いながらも、カミュの目は真剣だった。
「でも。そういうのって、ちゃんとわかるんじゃないでしょうか? どんな出会い方をしても、結局好きな人のことは、好きになるんだって思いますけど。」
「年の差は?」
「そんなのは関係ない。」
教科書に目を落としたまま、ふっと氷河はやわらかく笑った。
「で、源氏物語は、光源氏と紫の上が結ばれて終わりですか?」
「いや、まだ続く。」
「二人の幸せなくらし・・・?」
首を傾けた氷河がかわいくて、カミュは少しめまいがした。
「いや、朧月夜という恋人との交際がばれて、光源氏は都を離れるのだ。そして明石というところで別の女性と出会う。そして・・・。」
「やっぱり最低だっ。」
唇をとがらせる氷河を前に、思わず口走ってしまった。
「私は浮気などしないっ!」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
「・・・いや、なんでもない。」
コホンと咳払いをして、カミュは教科書を手に取った。
「試験範囲の部分。5回ずつ声に出して読んでおきなさい。今日のところはそれで勘弁してやる。」
カミュの努力の甲斐あって、氷河は赤点を免れた。
しかも古典は、自分でもびっくりの93点。
誇らしい気持ちで屋敷に帰ると、沈鬱な空気が立ち込めていた。
コキュートスに漬かっているような顔の5人の真ん中で、星矢が答案用紙を手にして立っていた。
「ごめん。俺、数学やっちった。」
おしまい
読んでくださった方、長々お付き合いくださりありがとうございました。
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