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☆矢熱再燃。 ただただ氷河が好きだと叫びたい二次創作ブログです。 色気のある話はあまり書けないと思いますが、腐目線なのでご注意ください。 版権元とは一切関係ございません。
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このところ、カノンについて考えていました。
それは皆様ご存知のY様のサイトで素敵作品にときめいていることもあるし、
映画妄想もあるし、
海底神殿でのザク×氷妄想もあるし、
氷河が海底におちてたらどうなったかっていう書きかけ小話の影響もあります。

カノンと氷河の話は、左横の最古記事の「カノン氏について考える」というのがあります。
氷河の包帯萌えの私としては、書きたかったネタ・・・。

が、あれこれ考えているうちに、何故だか書いてしまったカノ×ザク。
とはいえこれはまっとうに書くと相当ダークな感じ。
それをしっかり書き上げる筆力もなく、ぼんわりと書いてみました。
自分がポセイドン篇でのカノンとざっくんをどう捉えるか・・・みたいな。

カノンは改心していませんので、ひどい奴です。
まさかざっくんが受けにまわるとは・・・。
しかしもしかしたら、私にはそっちの方がしっくりくるのかもしれない。
氷河のことが好きで、でもいつかは女の子とだって恋をするかもしれないざっくん。(でないとカミュ・氷の強い絆の前でちょっとかわいそう・・・)
なのに、受け(爆)。

カノンは聖域コンプレックスなので、なんとしてもざっくんを服従させたい。
そんな話。
苦手でない方だけどうぞ・・・。
あ、だらだらと切りどころなく長いです・・・。


拍手[17回]



うみのそこ



「だいぶ力をつけたようだな。この分なら白鳥座と言わず、水瓶座の聖闘士でさえ、倒せるのではないか?」
石畳に膝をついた俺を見おろして、シードラゴンと名乗る男は笑った。
こちらが立つのもままならぬというのに、奴は息すらあがっていない。
悔しさのあまり両の拳を握りしめる。
弾き飛ばされたときにどこか切ったようで、口の中はさっきから血の味がしていた。
敵わない。
しかし、負けるわけにはいかない。
奴が俺の襟首を掴んで立たせる。
その手を振り払った。
 
あの日、ここで目を覚ましたとき。
ポセイドンに与することを俺は拒否した。
シードラゴンは予期していたというように口の端をあげて笑い、それを認めることも、俺を殺すこともしなかった。
クラーケンの鱗衣が飛び立って、俺をここまで運んできた。
俺が海将軍になるのは、もう決まったことなのだと。
ただ、今のままでは力が足りない。
みてやるから腕を磨けと。
「力はつける。だがそれは、お前たちを倒すためだ。」
「よかろう。その意地がいつまでもつか見届けてやる。」
この場所に囚われたまま、奴とは妙な関係が出来た。
いつか殺してやると言う俺の傷を手当てし、奴は俺を毎日鍛えている。
的確な動きと、圧倒的なパワー。
それは確かに、師カミュ以上の迫力を感じさせる時があった。
 
「俺が、聖闘士と戦うわけない。俺が倒したいのはあんただ。笑っていられるのも今のうちだ。」
「フン、いつでも相手にしてやるさ。だが、お前はクラーケンだ。それは神の意志で既に決まっている。海将軍というのはな、海闘士の頂点だ。白鳥座どころではない。黄金聖闘士ですら凌駕するのだ。悪くないだろう?」
「正義のために戦うのでなければ意味がない。」
「お前に正義の何がわかる? ・・・まぁいい、聖闘士が本当に正義とやらのためだけに戦うものか、よく見ておくことだな。」
「どういうことだ?」
奴は答えず、口の端に笑みを浮かべた。
奴の背中を追いかける。
自分の足で、歩いて、部屋に戻る。
部屋に入ると扉はすぐに閉まって、外から鍵をかける音がした。
 
 
氷河は、どうしてるだろう。
ぼんやりと天井を見つめながら、いつも同じことを思う。
師カミュは?
もう二人とも、俺のことは死んだと思っているのだろうな。
氷河は多分泣いただろう。
でも、立ち上がって白鳥座の聖闘士になってくれたなら、俺はそれでもいい。
氷河。
すこしは懲りたか?
その、甘えさえなければ、お前はもっと強くなれるはずなんだ。
 
不安で、胸が塞がる。
このままずっと、ここに囚われたままだったら?
俺の志など誰も知ることなく、ここで一人、死んでゆくのだとしたら?
カミュ。
氷河。
もう一度会いたい・・・。
 
 
扉があいて、光が射した。
その光に、どこかホッとしている自分がいて嫌気がさす。
「飯だ。」
奴が入ってきて、トレーを床に置いた。
「お前も頑固な男だな。クラーケンの部屋には、テーブルもあればベッドもある。それを拒んで、床で食事とは。」
「俺は、クラーケンじゃない。」
「そういう頑なな人間が大嫌いなんだ。自分の本心とは違うものを、いつまでも欲しがっているような人間がな。」
奴は忌々しそうに、壁を叩いた。
牢の壁は固く、ただ表面がぼろぼろと崩れて落ちただけだった。
「海将軍は暇なんだな。」
「それなりの手間賃は貰っているからな。」
その言葉に、カッと顔が熱くなる。
奴の指がそっと、首筋を撫でた。
「下劣だな。海闘士は。」
そう言うと奴は、クツクツと笑った。
「聖闘士だって、やってることは変わらんさ。」
 
 
ここの天井を、もうどれだけ見つめたんだろう。
俺は、どうかしている。
自由のきかない生活。
会うのはただ、シードラゴン一人。
奴に抱かれて変わったんだとは思いたくない。
だが、奴を、憎めなくなっている。
手合わせの際の、妙に清々しい仕草。
それと。
どこかに抱え持っている、心の闇。
俺はそれを、知りたいと思っている。
「あんたの欲しがっているものだって、本心と違ってるじゃないか。」
声に出して言ってみると、それは確信に変わって心を染めた。
違う。
一緒にしてはいけない。
俺は、本当に聖闘士でありたいと思っている。
間違っているのは、奴らだ。
 
 
「どうしてここへ来るんだ? 相手ならいくらでもいるだろう?」
「お前を手に入れるためには、手段を択ばないということだ。」
「こんなことで俺の意志は変わらない。そのことはもう、証明されたはずだ。」
「甘いな。どれだけ理解したつもりでいる?」
奴の指が、熱を引き出す。
その熱に、俺は抗えない。
だが、心と体は別のものだ。
今はどうすることもできない。
でも。
心だけは自由だ。
目を閉じると氷河の顔が浮かんだ。
母親の遺体を引き揚げたいと打ち明けたときの、悲しみと決意に満ちた瞳。
日差しのような明るい髪を、そっと掬うカミュの手。
「聖闘士だってやってることは変わらんさ。」
奴の言葉がふいによぎる。
「いやだ・・・もう・・・」
 
小さく躰を丸めたまま、動く気にもならなかった。
背後にいつまでも奴の気配がした。
奴は時々、何かを見ている。
「・・・・・・ガ・・・」
壁を叩く音。
「・・・・・・俺は、苦しめとは言ってない。」
 
 
凍気を高めてみる。
ダイヤモンドダスト。
光を反射することなく、それは静かに床に落ちた。
それでもこの冷たさは懐かしい。
 
 
「ひとつ、種を落としてきた。
教皇となって地上を支配するという野望だ。
愚かな男がそれに踊らされ、今の聖域がある。」
耳元で低い声が囁いている。
その言葉をにわかには信じがたく、俺はすぐそばにある奴の顔を見た。
「どういうことだ?」
「聖闘士の軍など、その程度ということだ。」
シベリアにいたとき耳にした、教皇の疑惑。
それがふいに思い出され、胸の内を冷たくした。
「あんたが、そうさせたって言うのか。」
奴は黙ったまま、口角をわずかにあげた。
どうして奴は、こんなにも聖闘士を憎んでいるのか。
海闘士とはそういうものなのか。
「ポセイドンの敵は聖闘士だけか? 何故あんたは聖域にこだわる?」
「こだわってなどいない。お前に教えてやっているだけだ。・・・もうすぐ内乱が起こる。どうなるか、よく見ておくんだな。」
 
 
それからしばらくして、内乱は本当に起こった。
その日の朝は、扉が開かなかった。
いつもの手合わせがない。
昼過ぎになって、ようやくシードラゴンが現れた。
金色に輝く、鱗衣を纏っている。
「内乱が始まった。とはいえ聖域に歯向かうのは、青銅聖闘士5人だけだそうだ。5人とも入口で潰されて終わり。つまらんものだ。白鳥座の命も、あと数時間だ。いや、もう既に片付いているかもしれん。」
「何っ?!」
「言わなかったか? 白鳥座は、聖域に仇なす反逆者の一人だ。」
「なんだと・・・?!」
胸の内が震える。
氷河。
お前・・・。
でも、聖域には師カミュがいる。
「あんたの思うようにいくはずない。聖闘士を見くびるな。」
「フン・・・」
「俺を、ここから出せ!」
「そういうわけにはいかん。もうすぐ、我らの出番だからな。慌てんでも、結果は教えてやる。」
いずれ倒すなどと、悠長なことは言っていられない。
ここを出て、聖域へ行かなければ。
奴のたくらみを伝え、女神を護らなければ。
俺は小宇宙を高めて、渾身の拳を放った。
持てるすべてをぶつけたはずなのに、それは奴の皮一枚凍らせることが出来なかった。
手合わせのときとはまるで違うスピードで、吹き飛ばされた。
意識が遠のく・・・。
「特別に教えてやろう。俺の名はカノン。教皇の名を騙る男の、双子の弟だ。」
哄笑が響く。
暗い嗤いだ。
 
 
 
どれくらい時間がたったのかわからない。
鱗衣のつま先で、顔を起こされた。
無機質な声が、上から降ってくる。
「聖域の戦いが終わった。
教皇を騙っていた男が死んで、女神が聖域に戻った。
だが、黄金聖闘士は5人死んだ。」
 
黄金聖闘士が、5人・・・?
 
「お前の師匠は水瓶座のカミュだったな。
白鳥座と戦って死んだ。」
 
「嘘だ―――。」
 
「俺の言葉が信じられないというなら、斥候の話でも聞いてみればいい。
そのなりではまずいな。鱗衣を纏って、クラーケンとしてなら会わせてやる。」
 
 
氷河が、カミュを、殺した。
 
あの、氷河が。
 
師は、聖域の事を案じていたんだ。
それなのに、教皇の側についた。
 
ぐるぐると、頭の中を考えがまわる。
 
生意気な考えかもしれないが、自分でもそうするかもしれない。
自分の宮を護るのが仕事だとしたら。
 
尋ねることがあれば、教皇に直接訊く。
そうでなければ、任務を全うするまでだ。
 
師は、きっと教皇には訊かなかった。
 
氷河が証明するからだ。
 
氷河に任せようと決めたんだ。
 
だから、あいつの甘さを断ち切ろうとした。
 
だけど、あなたの命を賭してまですることなのか。
 
あなたにとって、あいつは何なんだ。
 
その言葉は、そのまま自分にもあてはまる。
 
俺にとって、あいつは何なんだ。
 
 
あの日以来、初めてクラーケンの鱗衣を纏った。
斥候はただ、カノンと同じことを言った。
 
 
正義だなんて、結局目には見えない。
あるのは感情の渦だけだ。
カミュ、貴方だってそれと無縁ではない。
謀反を企てたという、その男だって。
彼もまた、引き裂かれた魂に暗く染められていたのだと、あなたはそのことを知っていただろうか。
 
 
 
「ずいぶんと堪えたようだな。」
「あんたは俺以上だと思うけど。」
「フン・・・」
「だんだん、パターンが読めてきた。やりたい気分なんだろう。」
アイザックが睨むと、カノンは口の端をあげて笑った。
言葉に似ず繊細な指先が、頬を撫で、髪をひいた。
「やけに素直だな。」
「うるさ・・っ・・・」
 
 
ただ感情に従って生きるというなら、俺はあまりにも醜い。
 
 
氷河、俺は知らないんだ。
地上の人々を護ると言ったって、人々の営みが本当はどんなものなのか。
親がどんなふうに子を愛し、子がどんなふうに親を慕うのか。
カミュが俺たちに与えてくれた愛情は、それと違うのか?
 
氷河、お前なら、ここにあるものの名前がわかるのかな。
今ここにあるのは、どうして愛というものじゃないのかな。
 
お前と過ごした時間が、ただ単純に、正義へと、まっすぐに続いているんだったらよかった。
 
 
 



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うみのそこ



「だいぶ力をつけたようだな。この分なら白鳥座と言わず、水瓶座の聖闘士でさえ、倒せるのではないか?」
石畳に膝をついた俺を見おろして、シードラゴンと名乗る男は笑った。
こちらが立つのもままならぬというのに、奴は息すらあがっていない。
悔しさのあまり両の拳を握りしめる。
弾き飛ばされたときにどこか切ったようで、口の中はさっきから血の味がしていた。
敵わない。
しかし、負けるわけにはいかない。
奴が俺の襟首を掴んで立たせる。
その手を振り払った。
 
あの日、ここで目を覚ましたとき。
ポセイドンに与することを俺は拒否した。
シードラゴンは予期していたというように口の端をあげて笑い、それを認めることも、俺を殺すこともしなかった。
クラーケンの鱗衣が飛び立って、俺をここまで運んできた。
俺が海将軍になるのは、もう決まったことなのだと。
ただ、今のままでは力が足りない。
みてやるから腕を磨けと。
「力はつける。だがそれは、お前たちを倒すためだ。」
「よかろう。その意地がいつまでもつか見届けてやる。」
この場所に囚われたまま、奴とは妙な関係が出来た。
いつか殺してやると言う俺の傷を手当てし、奴は俺を毎日鍛えている。
的確な動きと、圧倒的なパワー。
それは確かに、師カミュ以上の迫力を感じさせる時があった。
 
「俺が、聖闘士と戦うわけない。俺が倒したいのはあんただ。笑っていられるのも今のうちだ。」
「フン、いつでも相手にしてやるさ。だが、お前はクラーケンだ。それは神の意志で既に決まっている。海将軍というのはな、海闘士の頂点だ。白鳥座どころではない。黄金聖闘士ですら凌駕するのだ。悪くないだろう?」
「正義のために戦うのでなければ意味がない。」
「お前に正義の何がわかる? ・・・まぁいい、聖闘士が本当に正義とやらのためだけに戦うものか、よく見ておくことだな。」
「どういうことだ?」
奴は答えず、口の端に笑みを浮かべた。
奴の背中を追いかける。
自分の足で、歩いて、部屋に戻る。
部屋に入ると扉はすぐに閉まって、外から鍵をかける音がした。
 
 
氷河は、どうしてるだろう。
ぼんやりと天井を見つめながら、いつも同じことを思う。
師カミュは?
もう二人とも、俺のことは死んだと思っているのだろうな。
氷河は多分泣いただろう。
でも、立ち上がって白鳥座の聖闘士になってくれたなら、俺はそれでもいい。
氷河。
すこしは懲りたか?
その、甘えさえなければ、お前はもっと強くなれるはずなんだ。
 
不安で、胸が塞がる。
このままずっと、ここに囚われたままだったら?
俺の志など誰も知ることなく、ここで一人、死んでゆくのだとしたら?
カミュ。
氷河。
もう一度会いたい・・・。
 
 
扉があいて、光が射した。
その光に、どこかホッとしている自分がいて嫌気がさす。
「飯だ。」
奴が入ってきて、トレーを床に置いた。
「お前も頑固な男だな。クラーケンの部屋には、テーブルもあればベッドもある。それを拒んで、床で食事とは。」
「俺は、クラーケンじゃない。」
「そういう頑なな人間が大嫌いなんだ。自分の本心とは違うものを、いつまでも欲しがっているような人間がな。」
奴は忌々しそうに、壁を叩いた。
牢の壁は固く、ただ表面がぼろぼろと崩れて落ちただけだった。
「海将軍は暇なんだな。」
「それなりの手間賃は貰っているからな。」
その言葉に、カッと顔が熱くなる。
奴の指がそっと、首筋を撫でた。
「下劣だな。海闘士は。」
そう言うと奴は、クツクツと笑った。
「聖闘士だって、やってることは変わらんさ。」
 
 
ここの天井を、もうどれだけ見つめたんだろう。
俺は、どうかしている。
自由のきかない生活。
会うのはただ、シードラゴン一人。
奴に抱かれて変わったんだとは思いたくない。
だが、奴を、憎めなくなっている。
手合わせの際の、妙に清々しい仕草。
それと。
どこかに抱え持っている、心の闇。
俺はそれを、知りたいと思っている。
「あんたの欲しがっているものだって、本心と違ってるじゃないか。」
声に出して言ってみると、それは確信に変わって心を染めた。
違う。
一緒にしてはいけない。
俺は、本当に聖闘士でありたいと思っている。
間違っているのは、奴らだ。
 
 
「どうしてここへ来るんだ? 相手ならいくらでもいるだろう?」
「お前を手に入れるためには、手段を択ばないということだ。」
「こんなことで俺の意志は変わらない。そのことはもう、証明されたはずだ。」
「甘いな。どれだけ理解したつもりでいる?」
奴の指が、熱を引き出す。
その熱に、俺は抗えない。
だが、心と体は別のものだ。
今はどうすることもできない。
でも。
心だけは自由だ。
目を閉じると氷河の顔が浮かんだ。
母親の遺体を引き揚げたいと打ち明けたときの、悲しみと決意に満ちた瞳。
日差しのような明るい髪を、そっと掬うカミュの手。
「聖闘士だってやってることは変わらんさ。」
奴の言葉がふいによぎる。
「いやだ・・・もう・・・」
 
小さく躰を丸めたまま、動く気にもならなかった。
背後にいつまでも奴の気配がした。
奴は時々、何かを見ている。
「・・・・・・ガ・・・」
壁を叩く音。
「・・・・・・俺は、苦しめとは言ってない。」
 
 
凍気を高めてみる。
ダイヤモンドダスト。
光を反射することなく、それは静かに床に落ちた。
それでもこの冷たさは懐かしい。
 
 
「ひとつ、種を落としてきた。
教皇となって地上を支配するという野望だ。
愚かな男がそれに踊らされ、今の聖域がある。」
耳元で低い声が囁いている。
その言葉をにわかには信じがたく、俺はすぐそばにある奴の顔を見た。
「どういうことだ?」
「聖闘士の軍など、その程度ということだ。」
シベリアにいたとき耳にした、教皇の疑惑。
それがふいに思い出され、胸の内を冷たくした。
「あんたが、そうさせたって言うのか。」
奴は黙ったまま、口角をわずかにあげた。
どうして奴は、こんなにも聖闘士を憎んでいるのか。
海闘士とはそういうものなのか。
「ポセイドンの敵は聖闘士だけか? 何故あんたは聖域にこだわる?」
「こだわってなどいない。お前に教えてやっているだけだ。・・・もうすぐ内乱が起こる。どうなるか、よく見ておくんだな。」
 
 
それからしばらくして、内乱は本当に起こった。
その日の朝は、扉が開かなかった。
いつもの手合わせがない。
昼過ぎになって、ようやくシードラゴンが現れた。
金色に輝く、鱗衣を纏っている。
「内乱が始まった。とはいえ聖域に歯向かうのは、青銅聖闘士5人だけだそうだ。5人とも入口で潰されて終わり。つまらんものだ。白鳥座の命も、あと数時間だ。いや、もう既に片付いているかもしれん。」
「何っ?!」
「言わなかったか? 白鳥座は、聖域に仇なす反逆者の一人だ。」
「なんだと・・・?!」
胸の内が震える。
氷河。
お前・・・。
でも、聖域には師カミュがいる。
「あんたの思うようにいくはずない。聖闘士を見くびるな。」
「フン・・・」
「俺を、ここから出せ!」
「そういうわけにはいかん。もうすぐ、我らの出番だからな。慌てんでも、結果は教えてやる。」
いずれ倒すなどと、悠長なことは言っていられない。
ここを出て、聖域へ行かなければ。
奴のたくらみを伝え、女神を護らなければ。
俺は小宇宙を高めて、渾身の拳を放った。
持てるすべてをぶつけたはずなのに、それは奴の皮一枚凍らせることが出来なかった。
手合わせのときとはまるで違うスピードで、吹き飛ばされた。
意識が遠のく・・・。
「特別に教えてやろう。俺の名はカノン。教皇の名を騙る男の、双子の弟だ。」
哄笑が響く。
暗い嗤いだ。
 
 
 
どれくらい時間がたったのかわからない。
鱗衣のつま先で、顔を起こされた。
無機質な声が、上から降ってくる。
「聖域の戦いが終わった。
教皇を騙っていた男が死んで、女神が聖域に戻った。
だが、黄金聖闘士は5人死んだ。」
 
黄金聖闘士が、5人・・・?
 
「お前の師匠は水瓶座のカミュだったな。
白鳥座と戦って死んだ。」
 
「嘘だ―――。」
 
「俺の言葉が信じられないというなら、斥候の話でも聞いてみればいい。
そのなりではまずいな。鱗衣を纏って、クラーケンとしてなら会わせてやる。」
 
 
氷河が、カミュを、殺した。
 
あの、氷河が。
 
師は、聖域の事を案じていたんだ。
それなのに、教皇の側についた。
 
ぐるぐると、頭の中を考えがまわる。
 
生意気な考えかもしれないが、自分でもそうするかもしれない。
自分の宮を護るのが仕事だとしたら。
 
尋ねることがあれば、教皇に直接訊く。
そうでなければ、任務を全うするまでだ。
 
師は、きっと教皇には訊かなかった。
 
氷河が証明するからだ。
 
氷河に任せようと決めたんだ。
 
だから、あいつの甘さを断ち切ろうとした。
 
だけど、あなたの命を賭してまですることなのか。
 
あなたにとって、あいつは何なんだ。
 
その言葉は、そのまま自分にもあてはまる。
 
俺にとって、あいつは何なんだ。
 
 
あの日以来、初めてクラーケンの鱗衣を纏った。
斥候はただ、カノンと同じことを言った。
 
 
正義だなんて、結局目には見えない。
あるのは感情の渦だけだ。
カミュ、貴方だってそれと無縁ではない。
謀反を企てたという、その男だって。
彼もまた、引き裂かれた魂に暗く染められていたのだと、あなたはそのことを知っていただろうか。
 
 
 
「ずいぶんと堪えたようだな。」
「あんたは俺以上だと思うけど。」
「フン・・・」
「だんだん、パターンが読めてきた。やりたい気分なんだろう。」
アイザックが睨むと、カノンは口の端をあげて笑った。
言葉に似ず繊細な指先が、頬を撫で、髪をひいた。
「やけに素直だな。」
「うるさ・・っ・・・」
 
 
ただ感情に従って生きるというなら、俺はあまりにも醜い。
 
 
氷河、俺は知らないんだ。
地上の人々を護ると言ったって、人々の営みが本当はどんなものなのか。
親がどんなふうに子を愛し、子がどんなふうに親を慕うのか。
カミュが俺たちに与えてくれた愛情は、それと違うのか?
 
氷河、お前なら、ここにあるものの名前がわかるのかな。
今ここにあるのは、どうして愛というものじゃないのかな。
 
お前と過ごした時間が、ただ単純に、正義へと、まっすぐに続いているんだったらよかった。
 
 
 



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