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ハーデス十二宮篇のオープニング。
氷の上に横たわる氷河の姿が本当に好きです。
でもって、あの映像の中で、瞬君は何故に泣いているのか。
氷河と一輝兄さんが、どっか行っちゃったからなんじゃないかという気がしてしかたない。
それについて、考えてみたお話です。
完全に捏造。そして、書いてみて気づいたけど女神の立場は・・・?
もしかしたらいずれ、パターン2も書くかもしれません。
氷の上に横たわる氷河の姿が本当に好きです。
でもって、あの映像の中で、瞬君は何故に泣いているのか。
氷河と一輝兄さんが、どっか行っちゃったからなんじゃないかという気がしてしかたない。
それについて、考えてみたお話です。
完全に捏造。そして、書いてみて気づいたけど女神の立場は・・・?
もしかしたらいずれ、パターン2も書くかもしれません。
もう3日も、雨が続いている。
夕方少し弱くなった雨は、夜になって再び勢いを増した。
こうして部屋にいても、叩きつけるような音が聞こえてくる。
夏の、とはまた違う、冷たい雨。
あの時も雨が続いた。
「今は梅雨と言ってね、日本では普通のことなんだよ。この時期にちゃんと雨が降るから、お米や野菜がちゃんととれるんだ。あの時の、ひどい雨とは違う。」
瞬はそう教えてくれた。
それでも雨音が呼び覚ますのは、戦いのこと。
海の底にもまた、雨は降った。
死にゆく友を抱き起したとき、降り注いでいたのは冷たい雨。
それは次第に激しさを増し、二人の身体を濡らした。
立ち込める、互いの血の匂い。
降り注いでいた滴はやがて溢れ、渦巻き、海そのものとなって、友の亡骸を運び去ってしまった。
氷河はただ、雨の中を夢中で走った。
そして光を奪おうとするものへ、自分をぶつけた。
何も残らないだろうと思った。それでいいと思っていた。
それなのに。
目を開けると、暖かい部屋があった。
寝る時間はとうに過ぎている。
それでも布団にもぐりこむ気になれなくて、氷河は壁に背を預けて座り込んでいた。
左目は包帯で覆われている。残る右目も、何も映してはいない。
今の氷河を生かしているのは、師と兄弟子の志を継ぐという意思だけ。
やがて起こるだろう聖戦では、彼らの分まで闘わなければならない。
だからそれまでに身体を立て直そう。
それだけがぼんやりと頭の中にある。
機械的に食事をとり、リハビリをする。一日一日は恐ろしく長いのに、何一つ記憶に残らない。
時々、戦闘の記憶が蘇って苦しくなる。しかしそれは涙となって流れでることなく、ただじんわりと呼吸を狂わせた。
何も感じない。
俺の心は。
包帯の上から左目に爪をたて、暗い笑みをこぼすと、やがて脱力し腕を床に落とした。
その時、部屋のドアが開いた。
鍵をかけ忘れたのだろうかと、氷河はぼんやりと考えた。
暗闇の中に、立っているのは瞬だ。
後ろ手にドアを閉めると、あかりもつけぬままこちらに歩いてくる。
「どうした?瞬?」
「君が、呼んでいるような気がしたから。」
その声は、静かだが、ぞっとするような冷たさを秘めていた。
「俺が?瞬を?」
「そうだよ。君の呼ぶ声で起きたんだ。
氷河、僕ならね、連れて行くことができる。君が、焦がれている世界に。」
そう言うと瞬は、細く白い指を氷河の頬に滑らせる。
「かわいそうな氷河。女神とともにこの世界を救ったのに、君の大事にしていたものは、すべてなくなってしまった。連れて行ってあげるよ、大切な人のところへ。」
指はそのまま、這い上がって、左目の傷を撫でた。
間近で見る瞬の瞳は暗い。
感情がないというより、あまたの感情で塗りつぶされてしまったような。
そんな暗さだった。
夢なのだろうか。これは?
それでも頭を振って、気持ちを奮い立たせる。
「いけない。俺にはやらなければならないことがある。カミュの分まで・・・。」
「まだ、血を流し足りないの? 今度は誰を殺す? 僕? 星矢?」
その言葉に、氷河の顔が歪む。
「ね、会いたいのでしょう? マーマにも、カミュにも、アイザックにも。」
兄弟子の名を聞いて、氷河は目を見開いた。
「何故それを・・・? これは・・・夢?」
「フフ・・・どちらでも構わない。君の本当の心は、ここにある。」
執拗に左目の傷を、指が辿る。
「無理すること、ないよ。」
夢ならば、悲しみに身をゆだねてもいいのだろうか。
大切な人たちに再び会うことも、叶うのだろうか。
氷河は抗うことをやめ、体の力を抜いた。
瞬の両手が、氷河の首に添えられ強く締め付ける。
夢にしては、ひどく苦しい。
でも、もういい。
意識を手放しかけたところで、乱暴に部屋のドアが蹴破られた。
パッと明かりがつく。
馬乗りになって首を絞めつけていた瞬は、我に返ったように手を放した。
「・・・僕は・・・一体、何を・・・!」
そう叫ぶように言って、意識を失った。
仰向けに倒れそうになった弟の身体を、一輝が支えて抱き上げた。
抑え込まれていた氷河は、激しくせき込みながらも、体をねじるようにして、瞬の下から身を引いた。
「夢かと思った。」
悲しみと怒りとをたぎらせたような瞳を見上げながら、やがて氷河は呻くように言った。
「夢でも・・・やすやすとやられるような真似はするな。」
その言い草に、思わず苦笑する。
「・・・しかし、一体、今のは何だろう。瞬とは違う、別人のようだった。」
厭な予感に、胸が詰まる。
毅然と立っている一輝でさえ、その顔に一瞬幼げな表情がよぎった。
「わからん。ひとまずは、休め。明日また、瞬にも聞いてみる。」
そう言って一輝は部屋を後にした。
氷河はうずくまったまま、膝に頭を押し付けて目を閉じた。
翌朝は、晴れた。
瞬が目を覚ましたとき、時刻は11時を過ぎていた。
重たい瞼を何とかして持ち上げると、傍らには一輝がいた。
厭な夢を見ていたと思った。
けれど兄さんがそばにいるということは、あれは、夢ではなかったのか。
「兄さん、氷河は・・・?」
「無事だ。さっき、一階で会った。」
無事・・・ということは、僕が氷河を殺そうとしたのも本当のことなんだ。
はぁ・・・と瞬は深い息をつき、両手で顔を覆った。
「何か、飲むか?」
「ううん。」
「氷河は、昨日のはお前とは別人だと言っていた。奴が、何かを引き寄せるような真似をしたのかもしれないとも。君の呼ぶ声で起きたと、お前はそう言ったのか?」
はっとしたように、瞬は顔をあげた。
「うん、言った。僕は氷河が呼んでると思ったんだ。それで氷河の部屋に行った。
あのとき、あの暗闇の中で、何もかもが恐ろしいほど鮮明に見えた。氷河が何に苦しみ、どれだけの痛みを抱えているかさえ。」
「お前に話したことのないことまで知っていたと言っていたが。」
「うん・・・。だけどあんなことが、本当に海底神殿であったのかな・・・。」
瞬の声が細かく震える。
湧き上がる感情をすべて押し殺そうとするかのような氷河の顔が浮かんで、一輝は思わず眉をひそめた。
「僕は、大丈夫。少ししたら一階に行くよ。それより、氷河を見てあげて。僕は、氷河の、苦しみを嗤った・・・。」
義務のように。
食事の時間にはいつも、氷河はテーブルについている。
出されたものを淡々と、ただ口に入れる。
いつからこんな風なのか。
その日の朝も、定刻には席について、氷河は朝食をとっていた。
星矢は姉を探しに行き、紫龍は五老峰に発った。女神はすでに、聖域を守っている。
やけに静かになった城戸邸の食堂は、瞬の不在でさらに静けさを増した。
昨夜の傷跡は、もとより海皇戦での傷のために包帯が巻かれていたせいで、確認することは叶わなかった。
「シベリアに帰ろうと思う。」と、氷河は言った。
「シベリアで、気持ちの整理をつけてくる。」
こんな、まともに泣けもしない人間が、氷に覆われたかの地で一人きりで過ごすというのか。
一輝はぶつけようのない怒りに襲われる。
しかし、多分、それしか方法がない。
昨夜のことについて、一輝は聖域に調べに行く必要があると考えていた。
その間、瞬と氷河は、離れていた方がよい。
「大丈夫か?」
尋ねると氷河は、小さく笑った。
「師の分まで戦いたいと思っている。それだけは、はっきりしているから、あとはそこにたどりつくだけだ。・・・あまり、説得力がないか?」
小さなトランクに、氷河は荷物を詰めていた。
「シベリアに発つって、兄さんから・・・。」
ドアのそばに立って、瞬は遠慮がちに声をかけた。
「ああ、本当はもっと早く帰りたいと思っていたんだ。」
振り返って氷河は、穏やかな笑みをたたえた。
「僕は・・・今の氷河を一人にしたくない。僕が、ここを出るよ。」
しかし氷河は、静かに首を振った。
「あんなに簡単に手を離さないように、誓いをたててくる。・・・聖戦までに、体も鍛えなおさなくてはならないし。」
聖戦という言葉を、氷河はいつも口にする。
まるでそれだけが、自分の生きる理由であるかのように。
もう戦いなど起こらなければいいと瞬は思う。
本当にそれは、約束されたものなのだろうか。
すぐにでも起こるかもしれないし、まだずっと先のことかもしれない。
まえに紫龍がそう言ったとき、氷河は耐え難いという顔をして瞳を閉じた。
「・・・氷河・・・、アイザックという人のことは、本当のこと?」
瞬は氷河のそばに寄り添うようにして膝をつくと、気遣うように尋ねた。
「そうだよ。シベリアで、ともに育った。生きていてくれたならとずっと思っていたのに、また殺した。」
うつむく顔に表情はない。
「・・・氷河・・・。」
「シベリアで苦しくなったら、瞬がここにいるって思うことにする。そしたら少し、頑張れると思う。多分、一輝も、星矢も、紫龍も同じだ。」
「・・・うん。そう言ってくれるなら、僕は動かずにここにいる。僕も強くなる。何者にも、心を奪われないように。」
涙をこらえて、瞬は笑った。
その顔を瞳に焼き付けるようにしてから、氷河は瞬を強く抱きしめた。
雨の日は、星が見えない。
それでも、瞬は、窓から夜の闇を眺めた。
見失ってはいけない。
目を凝らしていなければ。
どんな時でも僕らの星を。
柔らかな光をたたえる瞳からは、誰かの分の涙がこぼれた。
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もう3日も、雨が続いている。
夕方少し弱くなった雨は、夜になって再び勢いを増した。
こうして部屋にいても、叩きつけるような音が聞こえてくる。
夏の、とはまた違う、冷たい雨。
あの時も雨が続いた。
「今は梅雨と言ってね、日本では普通のことなんだよ。この時期にちゃんと雨が降るから、お米や野菜がちゃんととれるんだ。あの時の、ひどい雨とは違う。」
瞬はそう教えてくれた。
それでも雨音が呼び覚ますのは、戦いのこと。
海の底にもまた、雨は降った。
死にゆく友を抱き起したとき、降り注いでいたのは冷たい雨。
それは次第に激しさを増し、二人の身体を濡らした。
立ち込める、互いの血の匂い。
降り注いでいた滴はやがて溢れ、渦巻き、海そのものとなって、友の亡骸を運び去ってしまった。
氷河はただ、雨の中を夢中で走った。
そして光を奪おうとするものへ、自分をぶつけた。
何も残らないだろうと思った。それでいいと思っていた。
それなのに。
目を開けると、暖かい部屋があった。
寝る時間はとうに過ぎている。
それでも布団にもぐりこむ気になれなくて、氷河は壁に背を預けて座り込んでいた。
左目は包帯で覆われている。残る右目も、何も映してはいない。
今の氷河を生かしているのは、師と兄弟子の志を継ぐという意思だけ。
やがて起こるだろう聖戦では、彼らの分まで闘わなければならない。
だからそれまでに身体を立て直そう。
それだけがぼんやりと頭の中にある。
機械的に食事をとり、リハビリをする。一日一日は恐ろしく長いのに、何一つ記憶に残らない。
時々、戦闘の記憶が蘇って苦しくなる。しかしそれは涙となって流れでることなく、ただじんわりと呼吸を狂わせた。
何も感じない。
俺の心は。
包帯の上から左目に爪をたて、暗い笑みをこぼすと、やがて脱力し腕を床に落とした。
その時、部屋のドアが開いた。
鍵をかけ忘れたのだろうかと、氷河はぼんやりと考えた。
暗闇の中に、立っているのは瞬だ。
後ろ手にドアを閉めると、あかりもつけぬままこちらに歩いてくる。
「どうした?瞬?」
「君が、呼んでいるような気がしたから。」
その声は、静かだが、ぞっとするような冷たさを秘めていた。
「俺が?瞬を?」
「そうだよ。君の呼ぶ声で起きたんだ。
氷河、僕ならね、連れて行くことができる。君が、焦がれている世界に。」
そう言うと瞬は、細く白い指を氷河の頬に滑らせる。
「かわいそうな氷河。女神とともにこの世界を救ったのに、君の大事にしていたものは、すべてなくなってしまった。連れて行ってあげるよ、大切な人のところへ。」
指はそのまま、這い上がって、左目の傷を撫でた。
間近で見る瞬の瞳は暗い。
感情がないというより、あまたの感情で塗りつぶされてしまったような。
そんな暗さだった。
夢なのだろうか。これは?
それでも頭を振って、気持ちを奮い立たせる。
「いけない。俺にはやらなければならないことがある。カミュの分まで・・・。」
「まだ、血を流し足りないの? 今度は誰を殺す? 僕? 星矢?」
その言葉に、氷河の顔が歪む。
「ね、会いたいのでしょう? マーマにも、カミュにも、アイザックにも。」
兄弟子の名を聞いて、氷河は目を見開いた。
「何故それを・・・? これは・・・夢?」
「フフ・・・どちらでも構わない。君の本当の心は、ここにある。」
執拗に左目の傷を、指が辿る。
「無理すること、ないよ。」
夢ならば、悲しみに身をゆだねてもいいのだろうか。
大切な人たちに再び会うことも、叶うのだろうか。
氷河は抗うことをやめ、体の力を抜いた。
瞬の両手が、氷河の首に添えられ強く締め付ける。
夢にしては、ひどく苦しい。
でも、もういい。
意識を手放しかけたところで、乱暴に部屋のドアが蹴破られた。
パッと明かりがつく。
馬乗りになって首を絞めつけていた瞬は、我に返ったように手を放した。
「・・・僕は・・・一体、何を・・・!」
そう叫ぶように言って、意識を失った。
仰向けに倒れそうになった弟の身体を、一輝が支えて抱き上げた。
抑え込まれていた氷河は、激しくせき込みながらも、体をねじるようにして、瞬の下から身を引いた。
「夢かと思った。」
悲しみと怒りとをたぎらせたような瞳を見上げながら、やがて氷河は呻くように言った。
「夢でも・・・やすやすとやられるような真似はするな。」
その言い草に、思わず苦笑する。
「・・・しかし、一体、今のは何だろう。瞬とは違う、別人のようだった。」
厭な予感に、胸が詰まる。
毅然と立っている一輝でさえ、その顔に一瞬幼げな表情がよぎった。
「わからん。ひとまずは、休め。明日また、瞬にも聞いてみる。」
そう言って一輝は部屋を後にした。
氷河はうずくまったまま、膝に頭を押し付けて目を閉じた。
翌朝は、晴れた。
瞬が目を覚ましたとき、時刻は11時を過ぎていた。
重たい瞼を何とかして持ち上げると、傍らには一輝がいた。
厭な夢を見ていたと思った。
けれど兄さんがそばにいるということは、あれは、夢ではなかったのか。
「兄さん、氷河は・・・?」
「無事だ。さっき、一階で会った。」
無事・・・ということは、僕が氷河を殺そうとしたのも本当のことなんだ。
はぁ・・・と瞬は深い息をつき、両手で顔を覆った。
「何か、飲むか?」
「ううん。」
「氷河は、昨日のはお前とは別人だと言っていた。奴が、何かを引き寄せるような真似をしたのかもしれないとも。君の呼ぶ声で起きたと、お前はそう言ったのか?」
はっとしたように、瞬は顔をあげた。
「うん、言った。僕は氷河が呼んでると思ったんだ。それで氷河の部屋に行った。
あのとき、あの暗闇の中で、何もかもが恐ろしいほど鮮明に見えた。氷河が何に苦しみ、どれだけの痛みを抱えているかさえ。」
「お前に話したことのないことまで知っていたと言っていたが。」
「うん・・・。だけどあんなことが、本当に海底神殿であったのかな・・・。」
瞬の声が細かく震える。
湧き上がる感情をすべて押し殺そうとするかのような氷河の顔が浮かんで、一輝は思わず眉をひそめた。
「僕は、大丈夫。少ししたら一階に行くよ。それより、氷河を見てあげて。僕は、氷河の、苦しみを嗤った・・・。」
義務のように。
食事の時間にはいつも、氷河はテーブルについている。
出されたものを淡々と、ただ口に入れる。
いつからこんな風なのか。
その日の朝も、定刻には席について、氷河は朝食をとっていた。
星矢は姉を探しに行き、紫龍は五老峰に発った。女神はすでに、聖域を守っている。
やけに静かになった城戸邸の食堂は、瞬の不在でさらに静けさを増した。
昨夜の傷跡は、もとより海皇戦での傷のために包帯が巻かれていたせいで、確認することは叶わなかった。
「シベリアに帰ろうと思う。」と、氷河は言った。
「シベリアで、気持ちの整理をつけてくる。」
こんな、まともに泣けもしない人間が、氷に覆われたかの地で一人きりで過ごすというのか。
一輝はぶつけようのない怒りに襲われる。
しかし、多分、それしか方法がない。
昨夜のことについて、一輝は聖域に調べに行く必要があると考えていた。
その間、瞬と氷河は、離れていた方がよい。
「大丈夫か?」
尋ねると氷河は、小さく笑った。
「師の分まで戦いたいと思っている。それだけは、はっきりしているから、あとはそこにたどりつくだけだ。・・・あまり、説得力がないか?」
小さなトランクに、氷河は荷物を詰めていた。
「シベリアに発つって、兄さんから・・・。」
ドアのそばに立って、瞬は遠慮がちに声をかけた。
「ああ、本当はもっと早く帰りたいと思っていたんだ。」
振り返って氷河は、穏やかな笑みをたたえた。
「僕は・・・今の氷河を一人にしたくない。僕が、ここを出るよ。」
しかし氷河は、静かに首を振った。
「あんなに簡単に手を離さないように、誓いをたててくる。・・・聖戦までに、体も鍛えなおさなくてはならないし。」
聖戦という言葉を、氷河はいつも口にする。
まるでそれだけが、自分の生きる理由であるかのように。
もう戦いなど起こらなければいいと瞬は思う。
本当にそれは、約束されたものなのだろうか。
すぐにでも起こるかもしれないし、まだずっと先のことかもしれない。
まえに紫龍がそう言ったとき、氷河は耐え難いという顔をして瞳を閉じた。
「・・・氷河・・・、アイザックという人のことは、本当のこと?」
瞬は氷河のそばに寄り添うようにして膝をつくと、気遣うように尋ねた。
「そうだよ。シベリアで、ともに育った。生きていてくれたならとずっと思っていたのに、また殺した。」
うつむく顔に表情はない。
「・・・氷河・・・。」
「シベリアで苦しくなったら、瞬がここにいるって思うことにする。そしたら少し、頑張れると思う。多分、一輝も、星矢も、紫龍も同じだ。」
「・・・うん。そう言ってくれるなら、僕は動かずにここにいる。僕も強くなる。何者にも、心を奪われないように。」
涙をこらえて、瞬は笑った。
その顔を瞳に焼き付けるようにしてから、氷河は瞬を強く抱きしめた。
雨の日は、星が見えない。
それでも、瞬は、窓から夜の闇を眺めた。
見失ってはいけない。
目を凝らしていなければ。
どんな時でも僕らの星を。
柔らかな光をたたえる瞳からは、誰かの分の涙がこぼれた。
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