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早まった。
つい、聞き出そうとしてしまった。
彼がどれだけ苦しんできたのか、少しは想像できていたはずなのに。
カミュはため息をつくと、顎をあげて天井を仰いだ。
もう何も聞くまい。
カミュはてのひらを上にした。
ぼうっと光がおこって、小さな雪の結晶がキラキラと舞う。
暖められた部屋で、それはすぐに溶けて消えて行った。
物心ついた時から、自然に出来たことだ。
やがてその力を認められて聖域に連れて来られたとき、少しほっとしたことを覚えている。
カミュにとって聖闘士になることは、ごく自然なことだった。しかし若い聖闘士を育成する立場になってみると、それはごく稀なケースであることに思い至った。
小宇宙に目覚めていない。
凍気も発しない。
ただ普通の子供が連れて来られることが多かった。
いや、普通・・・ではない。
その多くは身寄りのない子供だ。
彼らが聖闘士を目指すことで、自分の命に価値を見出してくれるのならば、いい。
しかし愛された記憶もない子供が、地上を護るという名目のもと、わけもわからずに運ばれてくることに疑問を感じることも多かった。
「何のために、聖闘士になりたいのだ?」
そう聞くと大抵の子供は、怯えたように視線を惑わせた。
アイザックだけが、はっきりと自分の意思を告げた。
幼い正義感から来るものではあったが、それは心身の成長とともに充実していった。
ふう・・・とカミュはため息をついた。
あの子の傷を治してやりたい。
きちんとした食事を与え、あたたかな布団で眠らせ、あんな風に荒れ狂わずにすむように。
そして・・・。
そして・・・?
・・・あの子は、誰かを殺しにゆくと言った。
そんな風に力を使ってはならないのだと、それを教えてやる責任は、私にある。
*************
暗闇の中で、氷河はじっと蹲っていた。
昼間は抑えられている感情が、夜になると突き上げてきて眠れなくなる。
どうやら不死鳥の聖衣はこの小屋の中にはないようだ。
「聖衣は、そういうものではない」とあいつは言った。
だったら師と名乗った、あの男の指導は何だったのか。
はなから聖衣など授けるつもりはなく、ただいいように、自分を弄んだだけだったのか。
それともあの男にとっても、聖衣は手の届かない高みにあって、血にまみれたあの男の人生に俺も引きずり込まれただけだったのか。
黄金の聖衣を纏ったあいつの力は圧倒的だった。
あの男などとは比べ物にならない。
あいつが、ほんとうだというのか。
気に入らない。
俺の中にある憎しみは、ほんとうのものだ。
それだけがはっきりと感じられるものだ。
それだけが、俺を動かしている。
指先まで熱くなる。
氷河は部屋を出て、カミュの寝室のドアを蹴破った。
殺す。
なんでもいい。
あいつを殺さないと。
渾身の力を込めて放った拳は、あっさりと止められた。
拳を掴んで引き寄せるとカミュは言った。
「眠れないのか?」
同情するような視線に苛立つ。
そうだ。お前が憎いから眠れないんだ。
あいつらが憎いから眠れないんだ。
「くそっ!」
氷河はカミュの手を振り払って、拳を握りしめた。
「殺すんなら、とっとと殺せ。」
カミュは氷河の肩に手を置き、ベッドに座らせた。
「お前が聖闘士の力を間違って使おうとしているなら、私はそれを止めなければならない。」
「それは殺すってことだろう。」
「そうだろうな。」
ひどくあっさりとカミュは言った。
「だが、お前はそれだけではないと思う。」
長い前髪から覗く蒼い瞳が、一瞬わずかに揺れた。
何かを切実に希求するように。
氷河は頭を振る。
違う。
いつだって、裏切られてきた。
悪夢から覚めたかと思うと、また別の悪夢が始まって。黒いぬかるみにいつまでも捉われたままだった。
「・・・あんたのその仮面は、いつ壊れるんだ?」
氷河は立ちあがって、カミュの襟元を掴んだ。
唇を寄せて囁く。
暴いてやる。
じわじわと一つの夢に捉われているのは苦手だ。
氷河はカミュを力任せに押し倒し、その上に馬乗りになった。
「なぁ、あんたが望んでいるのは、こういうことだろう?」
顔の両脇に手をついて、強く躰を押し付けるように腰を揺らす。
ベッドが揺れて、キシキシと音をたてた。
紅い瞳はまっすぐにこっちを見つめている。
その瞳に、ひどく醜い自分の姿がある。
カミュの手が伸びて、シャツから覗いている包帯に触れた。
まだ少し血がにじんでいる。
「傷を、治すことだ。私たちがすべきことは。今はそれだけを考えよう。」
カミュは自分の身体を横にずらすと、その脇に氷河を寝かせた。
傷が痛まないように、ゆっくりと仰向けにしてやる。
自身は横向きに、少し身体を折るようにして、氷河の右手をとると両手で包んだ。
「また殴りかられてはたまらないからな。掴まえたまま眠ろう。」
そう言ってカミュは瞳を閉じた。
つい、聞き出そうとしてしまった。
彼がどれだけ苦しんできたのか、少しは想像できていたはずなのに。
カミュはため息をつくと、顎をあげて天井を仰いだ。
もう何も聞くまい。
カミュはてのひらを上にした。
ぼうっと光がおこって、小さな雪の結晶がキラキラと舞う。
暖められた部屋で、それはすぐに溶けて消えて行った。
物心ついた時から、自然に出来たことだ。
やがてその力を認められて聖域に連れて来られたとき、少しほっとしたことを覚えている。
カミュにとって聖闘士になることは、ごく自然なことだった。しかし若い聖闘士を育成する立場になってみると、それはごく稀なケースであることに思い至った。
小宇宙に目覚めていない。
凍気も発しない。
ただ普通の子供が連れて来られることが多かった。
いや、普通・・・ではない。
その多くは身寄りのない子供だ。
彼らが聖闘士を目指すことで、自分の命に価値を見出してくれるのならば、いい。
しかし愛された記憶もない子供が、地上を護るという名目のもと、わけもわからずに運ばれてくることに疑問を感じることも多かった。
「何のために、聖闘士になりたいのだ?」
そう聞くと大抵の子供は、怯えたように視線を惑わせた。
アイザックだけが、はっきりと自分の意思を告げた。
幼い正義感から来るものではあったが、それは心身の成長とともに充実していった。
ふう・・・とカミュはため息をついた。
あの子の傷を治してやりたい。
きちんとした食事を与え、あたたかな布団で眠らせ、あんな風に荒れ狂わずにすむように。
そして・・・。
そして・・・?
・・・あの子は、誰かを殺しにゆくと言った。
そんな風に力を使ってはならないのだと、それを教えてやる責任は、私にある。
*************
暗闇の中で、氷河はじっと蹲っていた。
昼間は抑えられている感情が、夜になると突き上げてきて眠れなくなる。
どうやら不死鳥の聖衣はこの小屋の中にはないようだ。
「聖衣は、そういうものではない」とあいつは言った。
だったら師と名乗った、あの男の指導は何だったのか。
はなから聖衣など授けるつもりはなく、ただいいように、自分を弄んだだけだったのか。
それともあの男にとっても、聖衣は手の届かない高みにあって、血にまみれたあの男の人生に俺も引きずり込まれただけだったのか。
黄金の聖衣を纏ったあいつの力は圧倒的だった。
あの男などとは比べ物にならない。
あいつが、ほんとうだというのか。
気に入らない。
俺の中にある憎しみは、ほんとうのものだ。
それだけがはっきりと感じられるものだ。
それだけが、俺を動かしている。
指先まで熱くなる。
氷河は部屋を出て、カミュの寝室のドアを蹴破った。
殺す。
なんでもいい。
あいつを殺さないと。
渾身の力を込めて放った拳は、あっさりと止められた。
拳を掴んで引き寄せるとカミュは言った。
「眠れないのか?」
同情するような視線に苛立つ。
そうだ。お前が憎いから眠れないんだ。
あいつらが憎いから眠れないんだ。
「くそっ!」
氷河はカミュの手を振り払って、拳を握りしめた。
「殺すんなら、とっとと殺せ。」
カミュは氷河の肩に手を置き、ベッドに座らせた。
「お前が聖闘士の力を間違って使おうとしているなら、私はそれを止めなければならない。」
「それは殺すってことだろう。」
「そうだろうな。」
ひどくあっさりとカミュは言った。
「だが、お前はそれだけではないと思う。」
長い前髪から覗く蒼い瞳が、一瞬わずかに揺れた。
何かを切実に希求するように。
氷河は頭を振る。
違う。
いつだって、裏切られてきた。
悪夢から覚めたかと思うと、また別の悪夢が始まって。黒いぬかるみにいつまでも捉われたままだった。
「・・・あんたのその仮面は、いつ壊れるんだ?」
氷河は立ちあがって、カミュの襟元を掴んだ。
唇を寄せて囁く。
暴いてやる。
じわじわと一つの夢に捉われているのは苦手だ。
氷河はカミュを力任せに押し倒し、その上に馬乗りになった。
「なぁ、あんたが望んでいるのは、こういうことだろう?」
顔の両脇に手をついて、強く躰を押し付けるように腰を揺らす。
ベッドが揺れて、キシキシと音をたてた。
紅い瞳はまっすぐにこっちを見つめている。
その瞳に、ひどく醜い自分の姿がある。
カミュの手が伸びて、シャツから覗いている包帯に触れた。
まだ少し血がにじんでいる。
「傷を、治すことだ。私たちがすべきことは。今はそれだけを考えよう。」
カミュは自分の身体を横にずらすと、その脇に氷河を寝かせた。
傷が痛まないように、ゆっくりと仰向けにしてやる。
自身は横向きに、少し身体を折るようにして、氷河の右手をとると両手で包んだ。
「また殴りかられてはたまらないからな。掴まえたまま眠ろう。」
そう言ってカミュは瞳を閉じた。
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つい、聞き出そうとしてしまった。
彼がどれだけ苦しんできたのか、少しは想像できていたはずなのに。
カミュはため息をつくと、顎をあげて天井を仰いだ。
もう何も聞くまい。
カミュはてのひらを上にした。
ぼうっと光がおこって、小さな雪の結晶がキラキラと舞う。
暖められた部屋で、それはすぐに溶けて消えて行った。
物心ついた時から、自然に出来たことだ。
やがてその力を認められて聖域に連れて来られたとき、少しほっとしたことを覚えている。
カミュにとって聖闘士になることは、ごく自然なことだった。しかし若い聖闘士を育成する立場になってみると、それはごく稀なケースであることに思い至った。
小宇宙に目覚めていない。
凍気も発しない。
ただ普通の子供が連れて来られることが多かった。
いや、普通・・・ではない。
その多くは身寄りのない子供だ。
彼らが聖闘士を目指すことで、自分の命に価値を見出してくれるのならば、いい。
しかし愛された記憶もない子供が、地上を護るという名目のもと、わけもわからずに運ばれてくることに疑問を感じることも多かった。
「何のために、聖闘士になりたいのだ?」
そう聞くと大抵の子供は、怯えたように視線を惑わせた。
アイザックだけが、はっきりと自分の意思を告げた。
幼い正義感から来るものではあったが、それは心身の成長とともに充実していった。
ふう・・・とカミュはため息をついた。
あの子の傷を治してやりたい。
きちんとした食事を与え、あたたかな布団で眠らせ、あんな風に荒れ狂わずにすむように。
そして・・・。
そして・・・?
・・・あの子は、誰かを殺しにゆくと言った。
そんな風に力を使ってはならないのだと、それを教えてやる責任は、私にある。
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暗闇の中で、氷河はじっと蹲っていた。
昼間は抑えられている感情が、夜になると突き上げてきて眠れなくなる。
どうやら不死鳥の聖衣はこの小屋の中にはないようだ。
「聖衣は、そういうものではない」とあいつは言った。
だったら師と名乗った、あの男の指導は何だったのか。
はなから聖衣など授けるつもりはなく、ただいいように、自分を弄んだだけだったのか。
それともあの男にとっても、聖衣は手の届かない高みにあって、血にまみれたあの男の人生に俺も引きずり込まれただけだったのか。
黄金の聖衣を纏ったあいつの力は圧倒的だった。
あの男などとは比べ物にならない。
あいつが、ほんとうだというのか。
気に入らない。
俺の中にある憎しみは、ほんとうのものだ。
それだけがはっきりと感じられるものだ。
それだけが、俺を動かしている。
指先まで熱くなる。
氷河は部屋を出て、カミュの寝室のドアを蹴破った。
殺す。
なんでもいい。
あいつを殺さないと。
渾身の力を込めて放った拳は、あっさりと止められた。
拳を掴んで引き寄せるとカミュは言った。
「眠れないのか?」
同情するような視線に苛立つ。
そうだ。お前が憎いから眠れないんだ。
あいつらが憎いから眠れないんだ。
「くそっ!」
氷河はカミュの手を振り払って、拳を握りしめた。
「殺すんなら、とっとと殺せ。」
カミュは氷河の肩に手を置き、ベッドに座らせた。
「お前が聖闘士の力を間違って使おうとしているなら、私はそれを止めなければならない。」
「それは殺すってことだろう。」
「そうだろうな。」
ひどくあっさりとカミュは言った。
「だが、お前はそれだけではないと思う。」
長い前髪から覗く蒼い瞳が、一瞬わずかに揺れた。
何かを切実に希求するように。
氷河は頭を振る。
違う。
いつだって、裏切られてきた。
悪夢から覚めたかと思うと、また別の悪夢が始まって。黒いぬかるみにいつまでも捉われたままだった。
「・・・あんたのその仮面は、いつ壊れるんだ?」
氷河は立ちあがって、カミュの襟元を掴んだ。
唇を寄せて囁く。
暴いてやる。
じわじわと一つの夢に捉われているのは苦手だ。
氷河はカミュを力任せに押し倒し、その上に馬乗りになった。
「なぁ、あんたが望んでいるのは、こういうことだろう?」
顔の両脇に手をついて、強く躰を押し付けるように腰を揺らす。
ベッドが揺れて、キシキシと音をたてた。
紅い瞳はまっすぐにこっちを見つめている。
その瞳に、ひどく醜い自分の姿がある。
カミュの手が伸びて、シャツから覗いている包帯に触れた。
まだ少し血がにじんでいる。
「傷を、治すことだ。私たちがすべきことは。今はそれだけを考えよう。」
カミュは自分の身体を横にずらすと、その脇に氷河を寝かせた。
傷が痛まないように、ゆっくりと仰向けにしてやる。
自身は横向きに、少し身体を折るようにして、氷河の右手をとると両手で包んだ。
「また殴りかられてはたまらないからな。掴まえたまま眠ろう。」
そう言ってカミュは瞳を閉じた。
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