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続きです。
今日読み返して、なんとなくギル氏との過去を数行追加してしまいました。
大丈夫でしょうか・・・。
フランス人のカミュ先生は「氷河」をどう発音するんだろう?
Hの発音にちょっと手こずるようだと萌える。
今日読み返して、なんとなくギル氏との過去を数行追加してしまいました。
大丈夫でしょうか・・・。
フランス人のカミュ先生は「氷河」をどう発音するんだろう?
Hの発音にちょっと手こずるようだと萌える。
電球の光が、わずかに部屋を照らしている。
カミュはタオルを絞って、少年の額の汗を拭いた。
時局は急を告げている。
それなのに何故自分は、この少年を抱えて再びシベリアへ帰ってきたのか。
・・・だが、それが最善の方法だと思った。
乾いた唇からは、時々悲痛なうめき声が漏れた。
魔拳はまだ、少年の精神を脅かしている。
咄嗟のことで思わず弾き返してしまったが、痛々しい姿に胸が痛む。
頬にかかった金色の髪を、カミュはそっと指で流した。
彼を苛む悪夢がどのようなものなのか、漏れ出た言葉から察しがついた。
それはただ悪夢なのではなく、おそらく彼が、荒みきったあの島で強いられた事実なのだ。
血まみれの服を脱がしたとき、躰に残った無数の傷跡からそのことが知れた。
少女のようにも見える端正な顔立ち。
服の下に隠された、蝋のように白く滑らかな肌。
それが、少年を、どれだけの苦境へ追いやったか。
カミュは少年の額に、てのひらをかざした。
傷を癒すように、小宇宙を注ぎ込む。
苦しげに寄せられた眉が少し緩み、薄く開いた唇から息が漏れた。
聖闘士の指導は、師である人間にほぼ一任される。
しかし聖闘士が女神に仕えるものである以上、その倫理を引き継ぐものでなければならない。
近頃の聖域は、どこか危うい。
暗い焦燥のような。
弱者を見下し、ただ力だけを得ようとする傾向がある。
聖戦を控え、力をつけていかねばならないのはわかる。だが、それが本当に地上を愛する女神の意向であるのか、カミュには測り兼ねる部分があった。
そうした綻びが、果てはこの少年を生み出したのか。
不死鳥の聖衣は俺のものだと言った。
おそらくそれは嘘ではないのだろう。
聖衣を得るために、それなりの訓練を受けてきたことは対峙してみてわかった。
しかし。
小宇宙を高めるために、彼が糧とするのは憎しみだ。
ただ敵を殺すためだけの力。
そのような者に、聖衣を纏う資格はない。
島には指導者らしき人間がいなかった。少年以上の小宇宙を持つ者もいなかったので、彼の意識が戻り次第、事情を訊いてみるつもりだ。
だが。
話を訊くというのは言い訳に過ぎないことに、カミュ自身も気づいている。
捨てておけなかったのだ。
何かを決定的に欠いたまま、荒れ狂うこの少年を。
窓に何かがあたる。
この音は、知っている。
この匂いも。
暖められた部屋。
外はきっと雪のはずだ。
誰かが、自分を見て微笑んでいる。
ブランケットを肩にかけて、そのまま包み込むように抱きしめてくれた。
つややかな、金色の髪。
ぼんやりとその面影が現れたとき、ひどく頭が痛んだ。
違う、それは、偽りだ。
あの女は、欲情の果てに俺を産んだ。
腐りきったあの男にくれてやるために。
「気が付いたか。」
穏やかな声が聞こえて、氷河は視線を向けた。
ドアを閉めて、こちらに歩いてくる男がいる。
紅い髪。
紅い・・・!
氷河は思わず半身を起こして身構えた。
しかし眩暈に見舞われ、すぐに手をついた。
「無理をするな。しばらくは安静にしておいた方がいい。」
紅い髪の男は、氷河の背を支えるとベッドに寝かせて毛布を掛けた。
どういうことだ?
こいつ、ジャンゴを倒した奴だ。
俺のことも倒したくせに。
そこまで考えて、氷河はふっと昏い笑みをこぼした。
目的が別にあるんなら、臆することもない。
せいぜい利用させてもらうまでだ。
「腹が減っただろう。何か食べられそうか?」
氷河が頷くと、男は部屋をあとにした。
「初めはスープからだ。」
旨そうな匂いがする。
男は皿の乗ったトレーをサイドテーブルに置くと、氷河の身体を起こして背中に枕をあてた。
「自分で、食べられるか?」
頷くと、トレーを膝の上に置いてくれた。
スプーンで掬って口に運ぶ。
わずかなトマトの酸味が、食欲をそそる。
しかも温かい。
「・・・名前を聞いていなかったな。私はカミュという。君は?」
氷河は手を止めて、男を睨んだ。
「・・・好きに呼べばいい。」
カミュはまっすぐに瞳を見据えて言った。
「それでは、意味がない。君の名前は?」
静かだが、どこか厳しい声音。
「・・・・・・氷河。」
「ヒョウガ・・・」とカミュという男は繰り返し、呟くように言った。
「どんな意味だろう。」
意味?
氷河は顔をしかめた。
名前にも、俺自身にも、意味などありはしない。
ああ、だが。
屋敷で言われたことがある。
大昔から溶けたことのない氷の塊。
普通は人の名につけない、冷たい言葉だと。
「あんたは、何なんだ。ここはどこだ?」
「そうだな・・・。」
空になった皿をトレーごと受け取ると、カミュはそれを脇に置いた。
「私は聖闘士だ。水瓶座の聖闘士。聖域を守護する任についているが、今回は暗黒聖闘士を討伐するためにあの島へ行った。そしてここは、シベリア。少し前まで、私が弟子を育てていた場所だ。」
シベリア・・・。その言葉に、愕然とする。
いや、きっとそうだということはどこかでわかっていた。
あの女と過ごした場所。
手始めに、ここから壊すんでもいい。
ふと、カミュの手が触れた。
無意識に爪を噛んでいた手を外される。
「・・・君は、あの島で聖闘士になろうとしていたのか?」
「なろうとしていたんじゃない。なったんだ。ジャンゴから自分の聖衣を取り返せと言われた。」
「誰に?」
「・・・・」
氷河は眉を顰め、カミュを睨んだ。
名前など知らない。
ただあの男の前に連れて行かれて、それからずっと修行を受けていた。
名前どころか、その素顔も知らない。
語るべきものは何も知らないのに、余計なことだけは思い出される。
荒い息と肌の匂い。
這いまわるごつごつとした手。
血の味。
毎日のように繰り返されたその記憶は、奴を、知っているということになるのだろうか。
地下の一室。
何もかも腐ってゆくようなあの部屋の感覚を思い出して、氷河は思わず目を逸らした。
「何故、聖闘士に?」
静かな声に、氷河は再び顔をあげた。
「何故?」
何故、だと?
何故?
理由があると思うのか。
理由があったとして、それが叶うとでも?
「小麦粉の代わりに売られてきた。」
そう言うと、カミュの眉がわずかに動いた。
紅い瞳には、憐れむような色。
「・・・・・・嘘だよ。それはあの島の女の話だ。」
氷河はまた、イライラと左手を口元に運んで、親指の爪を噛んだ。
「籤を引いた。その紙に島の名前が書かれていた。」
親指を外して、残りの指を口に運ぶ。
カミュは再び手を伸ばして、今度はその手をそっと握った。
「聖衣をよこせよ。殺したい奴らがいるんだ。」
瞳には憎しみが、澱のように沈んでいる。
「聖衣は、そういうものではない。」
なんだと?
氷河は手を振り払うと、ベッドから跳び下りた。
あの、地獄のような日々は何だった?
強いられてきた日々を、こいつが否定する。
椅子に腰かけたままの、カミュのこめかみめがけて拳を振り下ろす。
拳はあっさりと片手で止められた。
氷河は後方にとびすさり、小宇宙を高めた。
全身の力を込めて、再度拳を打ち込む。
カミュはそれも素手で受け止めると、跳びかかってきた氷河の肩を押さえた。
息が苦しい。
息をしている筈なのに。
息が。
崩れ落ちる氷河の身体を、カミュが支える。
とん、とん、とてのひらが、ゆっくりとしたリズムで氷河の背中を叩いた。
「息を吐いてごらん。声を出すのでもいい。ゆっくり。そう、ゆっくりだ。」
カミュはもう片方の手で、氷河の頭を抱き寄せる。
こわばった身体は、小さく震えていた。
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電球の光が、わずかに部屋を照らしている。
カミュはタオルを絞って、少年の額の汗を拭いた。
時局は急を告げている。
それなのに何故自分は、この少年を抱えて再びシベリアへ帰ってきたのか。
・・・だが、それが最善の方法だと思った。
乾いた唇からは、時々悲痛なうめき声が漏れた。
魔拳はまだ、少年の精神を脅かしている。
咄嗟のことで思わず弾き返してしまったが、痛々しい姿に胸が痛む。
頬にかかった金色の髪を、カミュはそっと指で流した。
彼を苛む悪夢がどのようなものなのか、漏れ出た言葉から察しがついた。
それはただ悪夢なのではなく、おそらく彼が、荒みきったあの島で強いられた事実なのだ。
血まみれの服を脱がしたとき、躰に残った無数の傷跡からそのことが知れた。
少女のようにも見える端正な顔立ち。
服の下に隠された、蝋のように白く滑らかな肌。
それが、少年を、どれだけの苦境へ追いやったか。
カミュは少年の額に、てのひらをかざした。
傷を癒すように、小宇宙を注ぎ込む。
苦しげに寄せられた眉が少し緩み、薄く開いた唇から息が漏れた。
聖闘士の指導は、師である人間にほぼ一任される。
しかし聖闘士が女神に仕えるものである以上、その倫理を引き継ぐものでなければならない。
近頃の聖域は、どこか危うい。
暗い焦燥のような。
弱者を見下し、ただ力だけを得ようとする傾向がある。
聖戦を控え、力をつけていかねばならないのはわかる。だが、それが本当に地上を愛する女神の意向であるのか、カミュには測り兼ねる部分があった。
そうした綻びが、果てはこの少年を生み出したのか。
不死鳥の聖衣は俺のものだと言った。
おそらくそれは嘘ではないのだろう。
聖衣を得るために、それなりの訓練を受けてきたことは対峙してみてわかった。
しかし。
小宇宙を高めるために、彼が糧とするのは憎しみだ。
ただ敵を殺すためだけの力。
そのような者に、聖衣を纏う資格はない。
島には指導者らしき人間がいなかった。少年以上の小宇宙を持つ者もいなかったので、彼の意識が戻り次第、事情を訊いてみるつもりだ。
だが。
話を訊くというのは言い訳に過ぎないことに、カミュ自身も気づいている。
捨てておけなかったのだ。
何かを決定的に欠いたまま、荒れ狂うこの少年を。
窓に何かがあたる。
この音は、知っている。
この匂いも。
暖められた部屋。
外はきっと雪のはずだ。
誰かが、自分を見て微笑んでいる。
ブランケットを肩にかけて、そのまま包み込むように抱きしめてくれた。
つややかな、金色の髪。
ぼんやりとその面影が現れたとき、ひどく頭が痛んだ。
違う、それは、偽りだ。
あの女は、欲情の果てに俺を産んだ。
腐りきったあの男にくれてやるために。
「気が付いたか。」
穏やかな声が聞こえて、氷河は視線を向けた。
ドアを閉めて、こちらに歩いてくる男がいる。
紅い髪。
紅い・・・!
氷河は思わず半身を起こして身構えた。
しかし眩暈に見舞われ、すぐに手をついた。
「無理をするな。しばらくは安静にしておいた方がいい。」
紅い髪の男は、氷河の背を支えるとベッドに寝かせて毛布を掛けた。
どういうことだ?
こいつ、ジャンゴを倒した奴だ。
俺のことも倒したくせに。
そこまで考えて、氷河はふっと昏い笑みをこぼした。
目的が別にあるんなら、臆することもない。
せいぜい利用させてもらうまでだ。
「腹が減っただろう。何か食べられそうか?」
氷河が頷くと、男は部屋をあとにした。
「初めはスープからだ。」
旨そうな匂いがする。
男は皿の乗ったトレーをサイドテーブルに置くと、氷河の身体を起こして背中に枕をあてた。
「自分で、食べられるか?」
頷くと、トレーを膝の上に置いてくれた。
スプーンで掬って口に運ぶ。
わずかなトマトの酸味が、食欲をそそる。
しかも温かい。
「・・・名前を聞いていなかったな。私はカミュという。君は?」
氷河は手を止めて、男を睨んだ。
「・・・好きに呼べばいい。」
カミュはまっすぐに瞳を見据えて言った。
「それでは、意味がない。君の名前は?」
静かだが、どこか厳しい声音。
「・・・・・・氷河。」
「ヒョウガ・・・」とカミュという男は繰り返し、呟くように言った。
「どんな意味だろう。」
意味?
氷河は顔をしかめた。
名前にも、俺自身にも、意味などありはしない。
ああ、だが。
屋敷で言われたことがある。
大昔から溶けたことのない氷の塊。
普通は人の名につけない、冷たい言葉だと。
「あんたは、何なんだ。ここはどこだ?」
「そうだな・・・。」
空になった皿をトレーごと受け取ると、カミュはそれを脇に置いた。
「私は聖闘士だ。水瓶座の聖闘士。聖域を守護する任についているが、今回は暗黒聖闘士を討伐するためにあの島へ行った。そしてここは、シベリア。少し前まで、私が弟子を育てていた場所だ。」
シベリア・・・。その言葉に、愕然とする。
いや、きっとそうだということはどこかでわかっていた。
あの女と過ごした場所。
手始めに、ここから壊すんでもいい。
ふと、カミュの手が触れた。
無意識に爪を噛んでいた手を外される。
「・・・君は、あの島で聖闘士になろうとしていたのか?」
「なろうとしていたんじゃない。なったんだ。ジャンゴから自分の聖衣を取り返せと言われた。」
「誰に?」
「・・・・」
氷河は眉を顰め、カミュを睨んだ。
名前など知らない。
ただあの男の前に連れて行かれて、それからずっと修行を受けていた。
名前どころか、その素顔も知らない。
語るべきものは何も知らないのに、余計なことだけは思い出される。
荒い息と肌の匂い。
這いまわるごつごつとした手。
血の味。
毎日のように繰り返されたその記憶は、奴を、知っているということになるのだろうか。
地下の一室。
何もかも腐ってゆくようなあの部屋の感覚を思い出して、氷河は思わず目を逸らした。
「何故、聖闘士に?」
静かな声に、氷河は再び顔をあげた。
「何故?」
何故、だと?
何故?
理由があると思うのか。
理由があったとして、それが叶うとでも?
「小麦粉の代わりに売られてきた。」
そう言うと、カミュの眉がわずかに動いた。
紅い瞳には、憐れむような色。
「・・・・・・嘘だよ。それはあの島の女の話だ。」
氷河はまた、イライラと左手を口元に運んで、親指の爪を噛んだ。
「籤を引いた。その紙に島の名前が書かれていた。」
親指を外して、残りの指を口に運ぶ。
カミュは再び手を伸ばして、今度はその手をそっと握った。
「聖衣をよこせよ。殺したい奴らがいるんだ。」
瞳には憎しみが、澱のように沈んでいる。
「聖衣は、そういうものではない。」
なんだと?
氷河は手を振り払うと、ベッドから跳び下りた。
あの、地獄のような日々は何だった?
強いられてきた日々を、こいつが否定する。
椅子に腰かけたままの、カミュのこめかみめがけて拳を振り下ろす。
拳はあっさりと片手で止められた。
氷河は後方にとびすさり、小宇宙を高めた。
全身の力を込めて、再度拳を打ち込む。
カミュはそれも素手で受け止めると、跳びかかってきた氷河の肩を押さえた。
息が苦しい。
息をしている筈なのに。
息が。
崩れ落ちる氷河の身体を、カミュが支える。
とん、とん、とてのひらが、ゆっくりとしたリズムで氷河の背中を叩いた。
「息を吐いてごらん。声を出すのでもいい。ゆっくり。そう、ゆっくりだ。」
カミュはもう片方の手で、氷河の頭を抱き寄せる。
こわばった身体は、小さく震えていた。
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