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少し早く、約束の場所に氷河はついた。
今日の午後女神が聖域に戻るので、カミュはその護衛のために日本に来た。
女神の元へは3時までに行けばいい。
それまでの4時間は二人で過ごせる。
都内の広い庭園。
混雑した駅前より、返ってわかりやすいだろうとその場所を選んだ。
木々は、もう春の準備をしている。
枝の先に萌す小さな新芽を見上げながら、氷河は小さく笑みをこぼした。
「待たせたな。」
ふいに、カミュの気配を身近に感じた。
ぼんやりしているところを見られてしまったと、氷河は顔を赤くして振り返った。
「いえ、まだ時間には早いです。」
お互い早く来てしまったんだなと、カミュは唇に笑みを浮かべた。
こんな風に公園を歩くなんて、初めてのことだ。
しかも先生と。
ギリシャの気候にはだいぶ慣れたけれど、それでもやっぱり不思議な気がする。
雪のない道を、先生と歩いている。
でも、先生はフランスで生まれたと言っていたから、雪のない景色の方がもしかしたらなじみ深いのだろうか。
革靴の底が、静かに地面を蹴っている。
知らないことが、沢山ある。
カミュは立ち止まって振り返ると、片手を差し出した。
訳もなく胸がきゅっとなるのを感じながら、氷河はそこに自分の手を乗せた。
やや肌寒い今日は、公園にもあまり人がいない。
こうしているとどこまでも甘えたくなってしまう。
抱きしめてほしいと、いつも思う。
修行時代にさえ。
組み手をしたり、跳びかかったり。
怪我をして小屋まで運んでもらったり。
そんなことはしょっちゅうあった。
だけど、そう言うんではなくて。
先生の腕に包まれて、ずーっといられたら、どんなに安心するだろうと思う。
甘いんだな、俺は。
子供のままなんだ。
公園を望むレストランで昼食をとった。
ガレットというのを初めて食べた。
「これ、フランスの料理なんですよね?」
「そうだな。こんなに豪華に具材が乗ったのは食べたことがないが。」
「そうなんですか?」
「ああ、私は・・・ということだが。今度一緒に作ってみようか?」
「はい。」
メニューを見た限りでは薄っぺらいと思ったのに、食べてみると意外とお腹がいっぱいになった。
「あ、会計は俺が。折角日本に来て下さったし、あの・・・、バレンタインデーだし。」
「では、氷河に甘えようか。」
支払いをしながらちらりと席に目をやると、カミュが窓の外を眺めていた。
やっぱり何か用意してきた方がよかったろうか。
美味しかったけど、満足して頂けたろうか。
「お客様?」
「あ」
差し出されたお釣りを受け取って、慌てて財布の中に押し込んだ。
城戸沙織として女神が参加している会食へは、紫龍が同行している。
その会場へと、二人は向かった。
「まだ時間があるな。」
大通りを歩きながら、カミュはそう言うと、喫茶店に目をやった。
紅茶が美味しそうな落ち着いた店。
店員は奥の小さな部屋を案内してくれた。
「選んでいてくれ。」
カミュはメニューを手渡すと、席を外した。
ケーキの選択は難しい。
ひとつ頼んでも、いざとなると別の方がよかったような気になる。
氷河はメニューとにらめっこして、フォンダンショコラにしようと決めた。
ふと。
花の匂いがかすめる。
顔を上げるとカミュが、真っ赤な薔薇の花束を持って立っていた。
・・・え?・・・あ、沙織さん?
「バレンタインデーだからな。氷河。」
・・・え?
氷河は慌てて立ち上がった。
ぎこちなく差し出した両手に、花束がのせられる。
「これを、俺に?」
「そうだ。お前に。」
シベリアではいつも、隠れるようにして花を買っていた。
村の薪割りを手伝ったりして、ごくたまに貰らえるわずかなお金。
それはいつも一輪の花になった。
それを見るとカミュは、咎めるような悲しそうな顔をした。
けれども口に出して何かを言わないのをいいことに、俺はいつまでも花を買うのをやめなかった。
「あの・・・。」
「ん・・・?」
唇がわずかに開いたものの、言葉が出てこない。
カミュの手がそっと、頭にふれた。
優しくなでるように耳の脇を滑らすと、肩に置かれた。
「強くなったから、もう大丈夫だろう?」
先生のきれいな瞳が、覗き込むようにじっとこっちを見ている。
うつむくと同じように、深い赤を湛えた薔薇が、目に入った。
「・・・いいんでしょうか?」
「?」
「貴方のことを好きになっても?」
「ああ、そうならば私も嬉しい。」
引き寄せられた胸の中に、氷河は頭を預けてみた。
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少し早く、約束の場所に氷河はついた。
今日の午後女神が聖域に戻るので、カミュはその護衛のために日本に来た。
女神の元へは3時までに行けばいい。
それまでの4時間は二人で過ごせる。
都内の広い庭園。
混雑した駅前より、返ってわかりやすいだろうとその場所を選んだ。
木々は、もう春の準備をしている。
枝の先に萌す小さな新芽を見上げながら、氷河は小さく笑みをこぼした。
「待たせたな。」
ふいに、カミュの気配を身近に感じた。
ぼんやりしているところを見られてしまったと、氷河は顔を赤くして振り返った。
「いえ、まだ時間には早いです。」
お互い早く来てしまったんだなと、カミュは唇に笑みを浮かべた。
こんな風に公園を歩くなんて、初めてのことだ。
しかも先生と。
ギリシャの気候にはだいぶ慣れたけれど、それでもやっぱり不思議な気がする。
雪のない道を、先生と歩いている。
でも、先生はフランスで生まれたと言っていたから、雪のない景色の方がもしかしたらなじみ深いのだろうか。
革靴の底が、静かに地面を蹴っている。
知らないことが、沢山ある。
カミュは立ち止まって振り返ると、片手を差し出した。
訳もなく胸がきゅっとなるのを感じながら、氷河はそこに自分の手を乗せた。
やや肌寒い今日は、公園にもあまり人がいない。
こうしているとどこまでも甘えたくなってしまう。
抱きしめてほしいと、いつも思う。
修行時代にさえ。
組み手をしたり、跳びかかったり。
怪我をして小屋まで運んでもらったり。
そんなことはしょっちゅうあった。
だけど、そう言うんではなくて。
先生の腕に包まれて、ずーっといられたら、どんなに安心するだろうと思う。
甘いんだな、俺は。
子供のままなんだ。
公園を望むレストランで昼食をとった。
ガレットというのを初めて食べた。
「これ、フランスの料理なんですよね?」
「そうだな。こんなに豪華に具材が乗ったのは食べたことがないが。」
「そうなんですか?」
「ああ、私は・・・ということだが。今度一緒に作ってみようか?」
「はい。」
メニューを見た限りでは薄っぺらいと思ったのに、食べてみると意外とお腹がいっぱいになった。
「あ、会計は俺が。折角日本に来て下さったし、あの・・・、バレンタインデーだし。」
「では、氷河に甘えようか。」
支払いをしながらちらりと席に目をやると、カミュが窓の外を眺めていた。
やっぱり何か用意してきた方がよかったろうか。
美味しかったけど、満足して頂けたろうか。
「お客様?」
「あ」
差し出されたお釣りを受け取って、慌てて財布の中に押し込んだ。
城戸沙織として女神が参加している会食へは、紫龍が同行している。
その会場へと、二人は向かった。
「まだ時間があるな。」
大通りを歩きながら、カミュはそう言うと、喫茶店に目をやった。
紅茶が美味しそうな落ち着いた店。
店員は奥の小さな部屋を案内してくれた。
「選んでいてくれ。」
カミュはメニューを手渡すと、席を外した。
ケーキの選択は難しい。
ひとつ頼んでも、いざとなると別の方がよかったような気になる。
氷河はメニューとにらめっこして、フォンダンショコラにしようと決めた。
ふと。
花の匂いがかすめる。
顔を上げるとカミュが、真っ赤な薔薇の花束を持って立っていた。
・・・え?・・・あ、沙織さん?
「バレンタインデーだからな。氷河。」
・・・え?
氷河は慌てて立ち上がった。
ぎこちなく差し出した両手に、花束がのせられる。
「これを、俺に?」
「そうだ。お前に。」
シベリアではいつも、隠れるようにして花を買っていた。
村の薪割りを手伝ったりして、ごくたまに貰らえるわずかなお金。
それはいつも一輪の花になった。
それを見るとカミュは、咎めるような悲しそうな顔をした。
けれども口に出して何かを言わないのをいいことに、俺はいつまでも花を買うのをやめなかった。
「あの・・・。」
「ん・・・?」
唇がわずかに開いたものの、言葉が出てこない。
カミュの手がそっと、頭にふれた。
優しくなでるように耳の脇を滑らすと、肩に置かれた。
「強くなったから、もう大丈夫だろう?」
先生のきれいな瞳が、覗き込むようにじっとこっちを見ている。
うつむくと同じように、深い赤を湛えた薔薇が、目に入った。
「・・・いいんでしょうか?」
「?」
「貴方のことを好きになっても?」
「ああ、そうならば私も嬉しい。」
引き寄せられた胸の中に、氷河は頭を預けてみた。
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