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子供たち
異常な寒波がコホーテク村を襲った。
ちょっとやそっとの寒さではへこたれない村の人々も、さすがに寒いと言っている。あまりにも冷たい空気は子供の呼吸器に影響を及ぼすということで、ここ一週間というもの学校も休校。ヤコフはずっと家に籠ったままだ。
けれども昨日、いいことがあった。
氷河がシベリアに帰ってきたのだ。
夕食が済んでヤコフがベッドに入ってからも、氷河はしばらくうちにいて、何やらばあちゃんと話をしていた。
それで今日、ビッグニュースがあったのだ!!
「ヤコフ、一緒に日本へ行ってみないか?」
氷河の提案に、ヤコフは飛び上がって喜んだ。
「日本って、氷河の兄弟がいるところでしょ? ここよりずっと温かくて、冬でも外で遊べるんでしょ?」
「ああ、そうだ。自分で行って確かめてみるといい。」
駅まで車で送ってもらい、そこから電車と飛行機を乗り継いで、ヤコフは氷河とともに日本へやってきた。
それだけでも大興奮の出来事で、ヤコフは記念にとチケットを大切にバッグにしまい、機内で貰ったアーモンドをばあちゃんへの一つ目のお土産とした。
日本は、本当に温かい!!
空港から車で屋敷へ向かう途中、目に入った景色は嘘のようだった。
海が凍ってない。
雪が降ってない。
太陽が光っている。
鉢植えの花が咲いている。
ヤコフがせわしく振り返って報告すると、氷河は穏やかに笑った。
「これでも、日本で一番寒い季節なんだぞ。」
と何か音がして、運転手が氷河に携帯電話を差し出した。
氷河は受け取ってボタンを押すと、それを耳にあてる。
「ああ、瞬?」と、氷河は親しげにその名を呼んだ。
その人の名前は聞いたことがある。
氷河の大切な兄弟で、とっても優しい人なんだって。
電話を切ってから、氷河は言った。
「今日な、貴鬼って子も来ているそうだ。ヤコフと丁度同じくらいの年だ。一緒に遊べるぞ。よかったな。」
「う・・ん。その子、聖闘士?」
「ああ、その、見習いかな。」
何だかちょっと、気乗りしない。
折角氷河と一緒なんだから、そんな子より氷河と一緒に、あちこち見て回りたい。
城戸邸というのは、お城のように大きかった。
冬なのに、緑の生垣が長く長く続いている。
門を車で抜けて、しばらくたってからようやくお屋敷についた。
「ここに、住んでるの??」
「日本にいるとき、部屋を借りているだけだ。」
だけども、そのお屋敷の人たちは、みんな氷河に頭を下げている。
聖闘士が偉いのは知っていたけど、みんなよそではこんなお屋敷に住んでいるんだろうか?
こんな家があるなら、シベリアのあの小屋なんて、いつかどうでもよくなっちゃうのかな。
ううん。あの小屋は、カミュとアイザックとの思い出の詰まった大切な小屋だもの。氷河にとってはかけがえのない場所なんだ。
お屋敷の人が玄関のドアを開けようとすると、何故だかドアがひとりでに開いた。
そうしてオレンジの髪の子が、すぅっと変な風に飛び出してきて、「氷河ぁ!!」と言って抱きついた。
「貴鬼!!」
氷河はその子の背中を抱きながら、「久しぶりだな」なんて笑っている。
なんか、やな感じ。
「貴鬼、こっちはヤコフ。シベリアから一緒に来たんだ。仲良くしてやってくれ。」
別に、仲良くなんて・・・。
それでも一応手を差し出すと、その子はべぇ~と舌を出して、屋敷の中へ入って行った。
何だ、あいつ!!
氷河だって怒ればいいのに、仕方がないなという顔で、ただ笑っただけだった。
リビングに通される。
廊下にはすべて赤い絨毯が敷かれていて、やっぱり中もお城のようだ。
リビングには、さっきの貴鬼という奴と、もう一人、男の人がいた。
この人も聖闘士なんだろうな。ものすごく強そうだし、雰囲気だけでも圧倒される。
「なんだ、お前だけか。」
氷河がそんな風に不愛想に喋るのを、ヤコフは初めて見た。
蒼い瞳には、いつだって優しさが溢れているのに、少し細められた瞳は何だかちょっと怖い。
男の人は別に気にする風でもなく、腕を高く上げて伸びをした。
「あいつを押し付けられてな。やれやれ、ようやくお役御免だ。」
その人は貴鬼を親指で指差すと、ソファにごろりと寝そべった。
「氷河ぁ、何か飲むかい?」
台所からあの子の声がする。
「悪いな、貴鬼。・・・ヤコフ、何がいい?ジュースなら何でも揃ってるぞ。」
「・・・」
ジュースなんて言ったって、どんなのがあるか、オイラわかんないよ。
「俺と一緒のオレンジジュースでもいいか?」
「うん。」
「じゃ、オレンジジュースを二つ。」
「あいよ。」
グラスに注がれたそれは、フワフワと飛んできてテーブルの上にのった。
この子は本に出てくる魔法使いのように、物を浮かせたり、自分が飛んだりできるみたいだ。
だけど、驚いてなんかやらない。
カミュなんてもっとすごかったし。
氷河のすごいのだって、いつも見て知ってるんだ。
「貴鬼には、ああいう力があるんだ。だけど、それ以外は普通の子だから、怖がらなくたって大丈夫だぞ。」
氷河がそっと耳打ちする。
オレ、怖がってなんかないよ!!
「あ、そうだ。今日はお土産があるんだよな。」
氷河はヤコフに目配せすると、ばあちゃんが焼いてくれたお菓子を取り出した。
お皿に3つ並べて、「あとはみんなで食べような」と言った。
あれ、あの人はいいのかな・・・。
気にする様子もなく、氷河はもぐもぐとお菓子を食べ始める。
貴鬼って子も、それにならって、ばあちゃんのお菓子を手に取った。
「ねぇ、氷河、この前フレアから手紙を貰ったぞ。」
口の端にジャムをつけたまま、その子が言う。
「ああ、フレアか、懐かしいなぁ」って、氷河。
オイラの、知らない人の話。
「アスガルドで会って以来、たまに手紙書いてるんだ。氷河が頑張ったことも伝えておいたぞ。氷河に会いたいって、書いてあった。」
「そうか。」
「なぁ、氷河、フレアをお嫁さんにしたりしないのかい?」
氷河はオレンジジュースにむせて、ゲホゲホと盛大に咳をした。
「いや、フレアにはハーゲンがいるだろう?」
「まぁね・・・。 でもさぁ、お似合いだと思うんだよなぁ。ハーゲン、あんときすごいやきもち焼いてたよね。」
「え?」
「もー、これだから氷河は!!」
「氷河があんまりフレアと親しそうだから、ハーゲン怒ってたじゃないか?」
「・・・?」
「ま、いいよ。氷河はその方が。」
なんだか知った風に、貴鬼という子は小さく笑った。
「そんなこというならさ。ナターシャだってお似合いだと思ったなぁ。」
ヤコフが言うと、貴鬼は誰だという顔をする。
ふふん、どうだい? 君はナターシャのことなんて知らないでしょう??
気のせいか、ソファの方でも、一瞬新聞をめくる音がとまった。
「オイラ、あの後一度だけ、ナターシャと会ったよ。アレクサーも気持ちを入れ替えてくれたから、ブルーグラードは今、とても落ち着いているんだって。」
「それはよかった。」
「すべては氷河のおかげだって言ってた。」
「そんなことはないさ。」
「会いたいって。」
「そうか。なら今度、訪ねてみようか。」
「・・・実はね、隣の領主と婚約が発表されたばかりなんだ。結婚したらなかなかこっちへは戻らないから、氷河に会ったら、きっと喜ぶよ。」
「そうだな。」
「・・・でもさ、あの時は、オイラが聖衣を届けたんだよね。」
「そうだったな。」
「村は攻められるし、氷河はいないし、大変だったんだぞ。見つからないように、聖衣を橇で運んで、お城に忍び込んだんだ。氷河は捕まってるし、びっくりしたぞ。」
「ああ、あのときは、本当に助かった。」
そう言って氷河は、ちらりとソファの方に目をやった。
「だったら、オイラだって、海底神殿で聖衣を運んだんだよね。黄金聖衣だよ。それがないと、敵の神殿を壊せないんだ。オイラ殺されてもいいから聖衣だけは守らなきゃって思った。オイラが頑張ったから、氷河も頑張れたって言ってくれたよね。」
「ああ、そうだ。」
「それを言ったら、買い物のときなんてさ。オイラの方が値切るのうまいんだよね。氷河ったらいつも言い値で買っちゃうから。オイラ、一緒に行かないと心配で。」
「そんならギリシャで買い物するときだってそうさ。ギリシャなんて人が多いから、迷子にならないように付いててやらないと。」
「ねぇ、氷河、あれ食べたいな・・・シベリアでいつも氷河が作ってくれるあれだよ。」
「かき氷だったらオイラだって食べたことあるよ。」
「アイスクリームはどうだい? 氷河がいればすぐに作れるんだぞ。」
「・・・氷河が作ってくれたかまくらで、お餅食べたよね。あれは美味しかったな。」
「氷河が作ってくれた氷の滑り台。まだ庭にあるぞ。夏が来たって溶けないから、ずっと遊べるんだ。」
貴鬼が氷河の左手を掴んだから、オイラは氷河の右手を掴んだ。
ゆさゆさと引っ張り合ってると、後ろにあの、ちょっと怖そうなお兄さんが立っていた。
「おい、ちょっと付き合え。」
その人は氷河の腕を掴んで立たせると、そのまま引っ張って歩き出した。
「おい、ちょっと、まてよっ!!」
氷河は困ったようにオイラ達を振り返る。
「お前ら、ちょっと留守番してろ。」
そう言ってお兄さんは、氷河を連れて行ってしまった。
**************
ドアを閉めると、一輝は振り返って言った。
「子供なんてのはな、ほっといた方が仲良くなるんだよ。」
それから我慢できないという風に笑い出した。
身体を折り曲げて、息もままならずに笑っているのを、氷河は初めて見た。
笑っている。
ではなくて、笑われている・・・。
「付き合えって、何の用だ。」
一輝は息を整えると、黙って氷河の手を取って、廊下を曲がった。
そこは使用人の部屋へと続く人気のない北側の一角だった。
壁際に氷河を立たせて両側に手をつくと、まだ口の端に笑いを残したまま、氷河の唇を奪った。
「馬っっ鹿じゃないのか!!」
氷河は一輝の肩を押し返す。
その手を掴んで壁に押し当てると、柔らかなブロンドのかかる首筋に顔を埋めた。
「見られたらどうするんだ! 馬鹿一輝!!」
氷河は足で蹴り飛ばした。
***************
ヤコフはコップにささったストローをいじりながら尋ねた。
「・・・あの人も聖闘士?」
「ウン。一輝って言ってね、すごく強い。」
「氷河、嫌そうな顔してた。」
「ウン。」
その時ドンという音がして、二人は思わず飛び上がった。
音のする方へ駆けつけると、氷河と一輝がもみ合うのが見えた。
「駄目だぞ!けんかは!!」
二人が同時に叫ぶと、何故だか氷河の顔が真っ赤に染まった。
異常な寒波がコホーテク村を襲った。
ちょっとやそっとの寒さではへこたれない村の人々も、さすがに寒いと言っている。あまりにも冷たい空気は子供の呼吸器に影響を及ぼすということで、ここ一週間というもの学校も休校。ヤコフはずっと家に籠ったままだ。
けれども昨日、いいことがあった。
氷河がシベリアに帰ってきたのだ。
夕食が済んでヤコフがベッドに入ってからも、氷河はしばらくうちにいて、何やらばあちゃんと話をしていた。
それで今日、ビッグニュースがあったのだ!!
「ヤコフ、一緒に日本へ行ってみないか?」
氷河の提案に、ヤコフは飛び上がって喜んだ。
「日本って、氷河の兄弟がいるところでしょ? ここよりずっと温かくて、冬でも外で遊べるんでしょ?」
「ああ、そうだ。自分で行って確かめてみるといい。」
駅まで車で送ってもらい、そこから電車と飛行機を乗り継いで、ヤコフは氷河とともに日本へやってきた。
それだけでも大興奮の出来事で、ヤコフは記念にとチケットを大切にバッグにしまい、機内で貰ったアーモンドをばあちゃんへの一つ目のお土産とした。
日本は、本当に温かい!!
空港から車で屋敷へ向かう途中、目に入った景色は嘘のようだった。
海が凍ってない。
雪が降ってない。
太陽が光っている。
鉢植えの花が咲いている。
ヤコフがせわしく振り返って報告すると、氷河は穏やかに笑った。
「これでも、日本で一番寒い季節なんだぞ。」
と何か音がして、運転手が氷河に携帯電話を差し出した。
氷河は受け取ってボタンを押すと、それを耳にあてる。
「ああ、瞬?」と、氷河は親しげにその名を呼んだ。
その人の名前は聞いたことがある。
氷河の大切な兄弟で、とっても優しい人なんだって。
電話を切ってから、氷河は言った。
「今日な、貴鬼って子も来ているそうだ。ヤコフと丁度同じくらいの年だ。一緒に遊べるぞ。よかったな。」
「う・・ん。その子、聖闘士?」
「ああ、その、見習いかな。」
何だかちょっと、気乗りしない。
折角氷河と一緒なんだから、そんな子より氷河と一緒に、あちこち見て回りたい。
城戸邸というのは、お城のように大きかった。
冬なのに、緑の生垣が長く長く続いている。
門を車で抜けて、しばらくたってからようやくお屋敷についた。
「ここに、住んでるの??」
「日本にいるとき、部屋を借りているだけだ。」
だけども、そのお屋敷の人たちは、みんな氷河に頭を下げている。
聖闘士が偉いのは知っていたけど、みんなよそではこんなお屋敷に住んでいるんだろうか?
こんな家があるなら、シベリアのあの小屋なんて、いつかどうでもよくなっちゃうのかな。
ううん。あの小屋は、カミュとアイザックとの思い出の詰まった大切な小屋だもの。氷河にとってはかけがえのない場所なんだ。
お屋敷の人が玄関のドアを開けようとすると、何故だかドアがひとりでに開いた。
そうしてオレンジの髪の子が、すぅっと変な風に飛び出してきて、「氷河ぁ!!」と言って抱きついた。
「貴鬼!!」
氷河はその子の背中を抱きながら、「久しぶりだな」なんて笑っている。
なんか、やな感じ。
「貴鬼、こっちはヤコフ。シベリアから一緒に来たんだ。仲良くしてやってくれ。」
別に、仲良くなんて・・・。
それでも一応手を差し出すと、その子はべぇ~と舌を出して、屋敷の中へ入って行った。
何だ、あいつ!!
氷河だって怒ればいいのに、仕方がないなという顔で、ただ笑っただけだった。
リビングに通される。
廊下にはすべて赤い絨毯が敷かれていて、やっぱり中もお城のようだ。
リビングには、さっきの貴鬼という奴と、もう一人、男の人がいた。
この人も聖闘士なんだろうな。ものすごく強そうだし、雰囲気だけでも圧倒される。
「なんだ、お前だけか。」
氷河がそんな風に不愛想に喋るのを、ヤコフは初めて見た。
蒼い瞳には、いつだって優しさが溢れているのに、少し細められた瞳は何だかちょっと怖い。
男の人は別に気にする風でもなく、腕を高く上げて伸びをした。
「あいつを押し付けられてな。やれやれ、ようやくお役御免だ。」
その人は貴鬼を親指で指差すと、ソファにごろりと寝そべった。
「氷河ぁ、何か飲むかい?」
台所からあの子の声がする。
「悪いな、貴鬼。・・・ヤコフ、何がいい?ジュースなら何でも揃ってるぞ。」
「・・・」
ジュースなんて言ったって、どんなのがあるか、オイラわかんないよ。
「俺と一緒のオレンジジュースでもいいか?」
「うん。」
「じゃ、オレンジジュースを二つ。」
「あいよ。」
グラスに注がれたそれは、フワフワと飛んできてテーブルの上にのった。
この子は本に出てくる魔法使いのように、物を浮かせたり、自分が飛んだりできるみたいだ。
だけど、驚いてなんかやらない。
カミュなんてもっとすごかったし。
氷河のすごいのだって、いつも見て知ってるんだ。
「貴鬼には、ああいう力があるんだ。だけど、それ以外は普通の子だから、怖がらなくたって大丈夫だぞ。」
氷河がそっと耳打ちする。
オレ、怖がってなんかないよ!!
「あ、そうだ。今日はお土産があるんだよな。」
氷河はヤコフに目配せすると、ばあちゃんが焼いてくれたお菓子を取り出した。
お皿に3つ並べて、「あとはみんなで食べような」と言った。
あれ、あの人はいいのかな・・・。
気にする様子もなく、氷河はもぐもぐとお菓子を食べ始める。
貴鬼って子も、それにならって、ばあちゃんのお菓子を手に取った。
「ねぇ、氷河、この前フレアから手紙を貰ったぞ。」
口の端にジャムをつけたまま、その子が言う。
「ああ、フレアか、懐かしいなぁ」って、氷河。
オイラの、知らない人の話。
「アスガルドで会って以来、たまに手紙書いてるんだ。氷河が頑張ったことも伝えておいたぞ。氷河に会いたいって、書いてあった。」
「そうか。」
「なぁ、氷河、フレアをお嫁さんにしたりしないのかい?」
氷河はオレンジジュースにむせて、ゲホゲホと盛大に咳をした。
「いや、フレアにはハーゲンがいるだろう?」
「まぁね・・・。 でもさぁ、お似合いだと思うんだよなぁ。ハーゲン、あんときすごいやきもち焼いてたよね。」
「え?」
「もー、これだから氷河は!!」
「氷河があんまりフレアと親しそうだから、ハーゲン怒ってたじゃないか?」
「・・・?」
「ま、いいよ。氷河はその方が。」
なんだか知った風に、貴鬼という子は小さく笑った。
「そんなこというならさ。ナターシャだってお似合いだと思ったなぁ。」
ヤコフが言うと、貴鬼は誰だという顔をする。
ふふん、どうだい? 君はナターシャのことなんて知らないでしょう??
気のせいか、ソファの方でも、一瞬新聞をめくる音がとまった。
「オイラ、あの後一度だけ、ナターシャと会ったよ。アレクサーも気持ちを入れ替えてくれたから、ブルーグラードは今、とても落ち着いているんだって。」
「それはよかった。」
「すべては氷河のおかげだって言ってた。」
「そんなことはないさ。」
「会いたいって。」
「そうか。なら今度、訪ねてみようか。」
「・・・実はね、隣の領主と婚約が発表されたばかりなんだ。結婚したらなかなかこっちへは戻らないから、氷河に会ったら、きっと喜ぶよ。」
「そうだな。」
「・・・でもさ、あの時は、オイラが聖衣を届けたんだよね。」
「そうだったな。」
「村は攻められるし、氷河はいないし、大変だったんだぞ。見つからないように、聖衣を橇で運んで、お城に忍び込んだんだ。氷河は捕まってるし、びっくりしたぞ。」
「ああ、あのときは、本当に助かった。」
そう言って氷河は、ちらりとソファの方に目をやった。
「だったら、オイラだって、海底神殿で聖衣を運んだんだよね。黄金聖衣だよ。それがないと、敵の神殿を壊せないんだ。オイラ殺されてもいいから聖衣だけは守らなきゃって思った。オイラが頑張ったから、氷河も頑張れたって言ってくれたよね。」
「ああ、そうだ。」
「それを言ったら、買い物のときなんてさ。オイラの方が値切るのうまいんだよね。氷河ったらいつも言い値で買っちゃうから。オイラ、一緒に行かないと心配で。」
「そんならギリシャで買い物するときだってそうさ。ギリシャなんて人が多いから、迷子にならないように付いててやらないと。」
「ねぇ、氷河、あれ食べたいな・・・シベリアでいつも氷河が作ってくれるあれだよ。」
「かき氷だったらオイラだって食べたことあるよ。」
「アイスクリームはどうだい? 氷河がいればすぐに作れるんだぞ。」
「・・・氷河が作ってくれたかまくらで、お餅食べたよね。あれは美味しかったな。」
「氷河が作ってくれた氷の滑り台。まだ庭にあるぞ。夏が来たって溶けないから、ずっと遊べるんだ。」
貴鬼が氷河の左手を掴んだから、オイラは氷河の右手を掴んだ。
ゆさゆさと引っ張り合ってると、後ろにあの、ちょっと怖そうなお兄さんが立っていた。
「おい、ちょっと付き合え。」
その人は氷河の腕を掴んで立たせると、そのまま引っ張って歩き出した。
「おい、ちょっと、まてよっ!!」
氷河は困ったようにオイラ達を振り返る。
「お前ら、ちょっと留守番してろ。」
そう言ってお兄さんは、氷河を連れて行ってしまった。
**************
ドアを閉めると、一輝は振り返って言った。
「子供なんてのはな、ほっといた方が仲良くなるんだよ。」
それから我慢できないという風に笑い出した。
身体を折り曲げて、息もままならずに笑っているのを、氷河は初めて見た。
笑っている。
ではなくて、笑われている・・・。
「付き合えって、何の用だ。」
一輝は息を整えると、黙って氷河の手を取って、廊下を曲がった。
そこは使用人の部屋へと続く人気のない北側の一角だった。
壁際に氷河を立たせて両側に手をつくと、まだ口の端に笑いを残したまま、氷河の唇を奪った。
「馬っっ鹿じゃないのか!!」
氷河は一輝の肩を押し返す。
その手を掴んで壁に押し当てると、柔らかなブロンドのかかる首筋に顔を埋めた。
「見られたらどうするんだ! 馬鹿一輝!!」
氷河は足で蹴り飛ばした。
***************
ヤコフはコップにささったストローをいじりながら尋ねた。
「・・・あの人も聖闘士?」
「ウン。一輝って言ってね、すごく強い。」
「氷河、嫌そうな顔してた。」
「ウン。」
その時ドンという音がして、二人は思わず飛び上がった。
音のする方へ駆けつけると、氷河と一輝がもみ合うのが見えた。
「駄目だぞ!けんかは!!」
二人が同時に叫ぶと、何故だか氷河の顔が真っ赤に染まった。
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異常な寒波がコホーテク村を襲った。
ちょっとやそっとの寒さではへこたれない村の人々も、さすがに寒いと言っている。あまりにも冷たい空気は子供の呼吸器に影響を及ぼすということで、ここ一週間というもの学校も休校。ヤコフはずっと家に籠ったままだ。
けれども昨日、いいことがあった。
氷河がシベリアに帰ってきたのだ。
夕食が済んでヤコフがベッドに入ってからも、氷河はしばらくうちにいて、何やらばあちゃんと話をしていた。
それで今日、ビッグニュースがあったのだ!!
「ヤコフ、一緒に日本へ行ってみないか?」
氷河の提案に、ヤコフは飛び上がって喜んだ。
「日本って、氷河の兄弟がいるところでしょ? ここよりずっと温かくて、冬でも外で遊べるんでしょ?」
「ああ、そうだ。自分で行って確かめてみるといい。」
駅まで車で送ってもらい、そこから電車と飛行機を乗り継いで、ヤコフは氷河とともに日本へやってきた。
それだけでも大興奮の出来事で、ヤコフは記念にとチケットを大切にバッグにしまい、機内で貰ったアーモンドをばあちゃんへの一つ目のお土産とした。
日本は、本当に温かい!!
空港から車で屋敷へ向かう途中、目に入った景色は嘘のようだった。
海が凍ってない。
雪が降ってない。
太陽が光っている。
鉢植えの花が咲いている。
ヤコフがせわしく振り返って報告すると、氷河は穏やかに笑った。
「これでも、日本で一番寒い季節なんだぞ。」
と何か音がして、運転手が氷河に携帯電話を差し出した。
氷河は受け取ってボタンを押すと、それを耳にあてる。
「ああ、瞬?」と、氷河は親しげにその名を呼んだ。
その人の名前は聞いたことがある。
氷河の大切な兄弟で、とっても優しい人なんだって。
電話を切ってから、氷河は言った。
「今日な、貴鬼って子も来ているそうだ。ヤコフと丁度同じくらいの年だ。一緒に遊べるぞ。よかったな。」
「う・・ん。その子、聖闘士?」
「ああ、その、見習いかな。」
何だかちょっと、気乗りしない。
折角氷河と一緒なんだから、そんな子より氷河と一緒に、あちこち見て回りたい。
城戸邸というのは、お城のように大きかった。
冬なのに、緑の生垣が長く長く続いている。
門を車で抜けて、しばらくたってからようやくお屋敷についた。
「ここに、住んでるの??」
「日本にいるとき、部屋を借りているだけだ。」
だけども、そのお屋敷の人たちは、みんな氷河に頭を下げている。
聖闘士が偉いのは知っていたけど、みんなよそではこんなお屋敷に住んでいるんだろうか?
こんな家があるなら、シベリアのあの小屋なんて、いつかどうでもよくなっちゃうのかな。
ううん。あの小屋は、カミュとアイザックとの思い出の詰まった大切な小屋だもの。氷河にとってはかけがえのない場所なんだ。
お屋敷の人が玄関のドアを開けようとすると、何故だかドアがひとりでに開いた。
そうしてオレンジの髪の子が、すぅっと変な風に飛び出してきて、「氷河ぁ!!」と言って抱きついた。
「貴鬼!!」
氷河はその子の背中を抱きながら、「久しぶりだな」なんて笑っている。
なんか、やな感じ。
「貴鬼、こっちはヤコフ。シベリアから一緒に来たんだ。仲良くしてやってくれ。」
別に、仲良くなんて・・・。
それでも一応手を差し出すと、その子はべぇ~と舌を出して、屋敷の中へ入って行った。
何だ、あいつ!!
氷河だって怒ればいいのに、仕方がないなという顔で、ただ笑っただけだった。
リビングに通される。
廊下にはすべて赤い絨毯が敷かれていて、やっぱり中もお城のようだ。
リビングには、さっきの貴鬼という奴と、もう一人、男の人がいた。
この人も聖闘士なんだろうな。ものすごく強そうだし、雰囲気だけでも圧倒される。
「なんだ、お前だけか。」
氷河がそんな風に不愛想に喋るのを、ヤコフは初めて見た。
蒼い瞳には、いつだって優しさが溢れているのに、少し細められた瞳は何だかちょっと怖い。
男の人は別に気にする風でもなく、腕を高く上げて伸びをした。
「あいつを押し付けられてな。やれやれ、ようやくお役御免だ。」
その人は貴鬼を親指で指差すと、ソファにごろりと寝そべった。
「氷河ぁ、何か飲むかい?」
台所からあの子の声がする。
「悪いな、貴鬼。・・・ヤコフ、何がいい?ジュースなら何でも揃ってるぞ。」
「・・・」
ジュースなんて言ったって、どんなのがあるか、オイラわかんないよ。
「俺と一緒のオレンジジュースでもいいか?」
「うん。」
「じゃ、オレンジジュースを二つ。」
「あいよ。」
グラスに注がれたそれは、フワフワと飛んできてテーブルの上にのった。
この子は本に出てくる魔法使いのように、物を浮かせたり、自分が飛んだりできるみたいだ。
だけど、驚いてなんかやらない。
カミュなんてもっとすごかったし。
氷河のすごいのだって、いつも見て知ってるんだ。
「貴鬼には、ああいう力があるんだ。だけど、それ以外は普通の子だから、怖がらなくたって大丈夫だぞ。」
氷河がそっと耳打ちする。
オレ、怖がってなんかないよ!!
「あ、そうだ。今日はお土産があるんだよな。」
氷河はヤコフに目配せすると、ばあちゃんが焼いてくれたお菓子を取り出した。
お皿に3つ並べて、「あとはみんなで食べような」と言った。
あれ、あの人はいいのかな・・・。
気にする様子もなく、氷河はもぐもぐとお菓子を食べ始める。
貴鬼って子も、それにならって、ばあちゃんのお菓子を手に取った。
「ねぇ、氷河、この前フレアから手紙を貰ったぞ。」
口の端にジャムをつけたまま、その子が言う。
「ああ、フレアか、懐かしいなぁ」って、氷河。
オイラの、知らない人の話。
「アスガルドで会って以来、たまに手紙書いてるんだ。氷河が頑張ったことも伝えておいたぞ。氷河に会いたいって、書いてあった。」
「そうか。」
「なぁ、氷河、フレアをお嫁さんにしたりしないのかい?」
氷河はオレンジジュースにむせて、ゲホゲホと盛大に咳をした。
「いや、フレアにはハーゲンがいるだろう?」
「まぁね・・・。 でもさぁ、お似合いだと思うんだよなぁ。ハーゲン、あんときすごいやきもち焼いてたよね。」
「え?」
「もー、これだから氷河は!!」
「氷河があんまりフレアと親しそうだから、ハーゲン怒ってたじゃないか?」
「・・・?」
「ま、いいよ。氷河はその方が。」
なんだか知った風に、貴鬼という子は小さく笑った。
「そんなこというならさ。ナターシャだってお似合いだと思ったなぁ。」
ヤコフが言うと、貴鬼は誰だという顔をする。
ふふん、どうだい? 君はナターシャのことなんて知らないでしょう??
気のせいか、ソファの方でも、一瞬新聞をめくる音がとまった。
「オイラ、あの後一度だけ、ナターシャと会ったよ。アレクサーも気持ちを入れ替えてくれたから、ブルーグラードは今、とても落ち着いているんだって。」
「それはよかった。」
「すべては氷河のおかげだって言ってた。」
「そんなことはないさ。」
「会いたいって。」
「そうか。なら今度、訪ねてみようか。」
「・・・実はね、隣の領主と婚約が発表されたばかりなんだ。結婚したらなかなかこっちへは戻らないから、氷河に会ったら、きっと喜ぶよ。」
「そうだな。」
「・・・でもさ、あの時は、オイラが聖衣を届けたんだよね。」
「そうだったな。」
「村は攻められるし、氷河はいないし、大変だったんだぞ。見つからないように、聖衣を橇で運んで、お城に忍び込んだんだ。氷河は捕まってるし、びっくりしたぞ。」
「ああ、あのときは、本当に助かった。」
そう言って氷河は、ちらりとソファの方に目をやった。
「だったら、オイラだって、海底神殿で聖衣を運んだんだよね。黄金聖衣だよ。それがないと、敵の神殿を壊せないんだ。オイラ殺されてもいいから聖衣だけは守らなきゃって思った。オイラが頑張ったから、氷河も頑張れたって言ってくれたよね。」
「ああ、そうだ。」
「それを言ったら、買い物のときなんてさ。オイラの方が値切るのうまいんだよね。氷河ったらいつも言い値で買っちゃうから。オイラ、一緒に行かないと心配で。」
「そんならギリシャで買い物するときだってそうさ。ギリシャなんて人が多いから、迷子にならないように付いててやらないと。」
「ねぇ、氷河、あれ食べたいな・・・シベリアでいつも氷河が作ってくれるあれだよ。」
「かき氷だったらオイラだって食べたことあるよ。」
「アイスクリームはどうだい? 氷河がいればすぐに作れるんだぞ。」
「・・・氷河が作ってくれたかまくらで、お餅食べたよね。あれは美味しかったな。」
「氷河が作ってくれた氷の滑り台。まだ庭にあるぞ。夏が来たって溶けないから、ずっと遊べるんだ。」
貴鬼が氷河の左手を掴んだから、オイラは氷河の右手を掴んだ。
ゆさゆさと引っ張り合ってると、後ろにあの、ちょっと怖そうなお兄さんが立っていた。
「おい、ちょっと付き合え。」
その人は氷河の腕を掴んで立たせると、そのまま引っ張って歩き出した。
「おい、ちょっと、まてよっ!!」
氷河は困ったようにオイラ達を振り返る。
「お前ら、ちょっと留守番してろ。」
そう言ってお兄さんは、氷河を連れて行ってしまった。
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ドアを閉めると、一輝は振り返って言った。
「子供なんてのはな、ほっといた方が仲良くなるんだよ。」
それから我慢できないという風に笑い出した。
身体を折り曲げて、息もままならずに笑っているのを、氷河は初めて見た。
笑っている。
ではなくて、笑われている・・・。
「付き合えって、何の用だ。」
一輝は息を整えると、黙って氷河の手を取って、廊下を曲がった。
そこは使用人の部屋へと続く人気のない北側の一角だった。
壁際に氷河を立たせて両側に手をつくと、まだ口の端に笑いを残したまま、氷河の唇を奪った。
「馬っっ鹿じゃないのか!!」
氷河は一輝の肩を押し返す。
その手を掴んで壁に押し当てると、柔らかなブロンドのかかる首筋に顔を埋めた。
「見られたらどうするんだ! 馬鹿一輝!!」
氷河は足で蹴り飛ばした。
***************
ヤコフはコップにささったストローをいじりながら尋ねた。
「・・・あの人も聖闘士?」
「ウン。一輝って言ってね、すごく強い。」
「氷河、嫌そうな顔してた。」
「ウン。」
その時ドンという音がして、二人は思わず飛び上がった。
音のする方へ駆けつけると、氷河と一輝がもみ合うのが見えた。
「駄目だぞ!けんかは!!」
二人が同時に叫ぶと、何故だか氷河の顔が真っ赤に染まった。
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