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☆矢熱再燃。 ただただ氷河が好きだと叫びたい二次創作ブログです。 色気のある話はあまり書けないと思いますが、腐目線なのでご注意ください。 版権元とは一切関係ございません。
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お正月がすぎると、もう街はバレンタインですね~♪
相変わらずの馬鹿話です。
区切りどころがわからなくて、長いですが一気に載せちゃいました。





拍手[18回]




珍しく大きな紙袋を抱えて氷河が帰ってきた。
「なぁに? それ?」
リビングで一人、お茶を楽しんでいた瞬が声をかけると、氷河は満足そうにその包みをテーブルに載せた。
「街でチョコレートを沢山売ってたんだ。明日聖域に行くから、土産に丁度いいと思ってな。沢山あるから選びきれなくて、ついこんなに買ってしまった。」
幾ら日本の風習に疎くとも、場の雰囲気から何かを感じ取って欲しかったと思う瞬である。
「お土産って、カミュに?」
「ああ、もちろんカミュのもある。カミュが前に好きだと言っていたフランスのチョコレートが売られていたんだ。日本で売るのは今だけなんだそうだ。一緒に食べようと思ってな。」
「カミュのも、ってことは、他にもあるの?」
「ああ」
氷河はにこりと笑みを浮かべると、がさごそと紙袋から包みを取り出した。
「これはミロのだな。ミロのはお酒が入っているのにした。これ、一応チョコレートだから、俺らだって食べてもいいんだよな?」
「うん・・・、ミロとも一緒に食べるつもり?」
「あの人が、分けてくれたらの話だが。」
「あとな、すごくきれいなチョコレートも見つけた。惑星をイメージしたチョコレートでな、地球とか火星とか、一粒一粒がピカピカで宝石みたいなんだ。何だかサガを思い出して買ってしまった。
でもサガだけじゃカノンが可哀想だからな。こっちは塩の入ったチョコレートなんだそうだ。どんな味がするんだろうな?」
氷河は得意げに、ずんずんと包みを取り出してゆく。
「でな、このでかいのな、ゴリラの形なんだぞ。面白いから一輝に。」
さっきお土産と言ってたのに、明らかに趣旨がずれてきている。
「星矢のは馬だ。ペガサスがあればいいのに、見つけられなかった。
紫龍はな、ビターにした。カカオの割合が違うのを食べ比べられるんだそうだ。あいつ、そういうの好きそうだろう?」
「ねぇ、氷河ぁ、僕のはないの?」
「あるに決まっているだろう。これ、瞬のだ。これをな、ホットミルクに入れてくるくる回すと、溶けてホットショコラになるそうだ。うまそうだろう? 色々な種類があるんだぞ。でも白が一番瞬のイメージにあうな。瞬とお茶を飲むのは楽しいからな。これも一緒に飲みたいと思って買ったんだ。」
涼しげな顔に、優しい笑みが浮かんだ。
鈍感な癖に。
口下手な癖に。
時々平気でこういうことを言う。
 
「ね、僕これ、大事にとっておいて、14日に二人きりで飲みたい。2月14日って空いてる?」
「ああ、東京にいるはずだが。」
「なら約束。指切りしよう。僕、このホットショコラにあいそうなクッキー、用意しとくから。」
「わかった。だが、14日って、何かの日だったか?」
「バレンタインデー」
氷河の顔が、少し曇る。
その言葉だけは、知っている様子だ。
「日本では、女の子が好きな子にチョコレートを渡して告白する日なんだよ。」
「・・・もしかして、それでチョコレートを沢山売ってたのか?」
「もちろん。ほら、僕にくれたこの包みにも、沢山ハートの絵が描いてある。」
「あ、あのな、瞬・・・。」
「14日、楽しみにしてる。・・・大丈夫。欧米では、男女関係なく、親しい人に贈り物をする日なんでしょう?? 恩師にプレゼントしたって、おかしなことはないよ。義理チョコって言葉もあるくらいだから。・・・でも、僕は、氷河からもらって嬉しかったな。」
そう言うと瞬は立ち上がり、手にしていたカップを洗うために席を立った。
「あ、あのな・・・」
「僕も氷河とお茶するの好きだよ。二人でいっぱい美味しいもの食べようね。」
カップをしまうと、笑顔を残して瞬はその場を後にした。
後ろ手でドアを閉め、心の中で呟く。
(僕だってね、いつまでも手を拱いているわけじゃないんだよ。いい加減、気が付きなさい、氷河!!)
 
 
 
バレンタインデーは、女の子が好きな人にチョコレートを渡す日。
瞬からそう教わったものの、買ってしまったものは仕方がない。
こうなったら1月のうちにすべて渡してしまおう。
ちゃんと事情を話せば、みんなわかってくれるはず。
氷河は妙な自信を持って、双児宮に突っ込んでいった。
 
 
双児宮―
 
私室のドアをノックすると、現れたのは意外にもサガだった。
「あ、こちらにいらしたんですね。てっきり教皇の間かと思っていました。」
教皇代理を務めるサガが、日中双児宮にいるのは珍しい。
カノンと間違えてもよさそうなものだが、不思議とこの少年は二人を見間違えることがない。
「いや、少し用があってな。午後にはあちらへ戻るつもりだが。」
「いえ、丁度良かったと思って。お渡ししたいものがあったんです。」
そう言うと氷河は、がさごそと紙袋から何かを取り出した。
「あの、これ、別にバレンタインだからという訳じゃないんですけど。俺も知らなかったんですが、日本ではバレンタインにチョコレートを贈る風習があるらしくて、それで、売り場を見ていたら、貴方の事を思い出したから。いや、違う。このチョコレートが、星みたいで、とてもきれいで、それで、貴方を思い出して、貴方にあげたいと思ったんだ。」
バレンタインとは関係ないことを説明しようと思うあまり、かえって意識してしまう氷河である。
顔を真っ赤にしながら、しどろもどろで話す氷河の姿をサガはじっとみつめた。
これはしかし、どう考えても告白というやつなのではないか。
これまで、縁談の話は数知れずあった。
遠巻きに視線を送られたり、手紙が届いたりすることも数知れずあった。
そしてまた、黒サガ時代に、美味しい思いをしたこともあった。
しかしサガは、ずば抜けて美しく聡明であるがゆえに、意外にも直接告白されたことはなかった。
こんな不器用で、可憐な告白をされたのは初めてだ・・・。
首をやや傾げながら、懸命に言葉を探す姿が返って新鮮だ。
・・・がしかし、カミュはどうした??
この子が本気であるというのなら、私もカミュと本気で語り合おう。
幾ら弟子とはいえ、愛しあう人間を自分で選ぶ権利はある筈だ。
「カミュは、知っているのか?」
「あ、先生のは別にあります。」
あっさりと帰ってきた答えに、サガは拍子抜けした。
よかった。変なこと口走らなくて本当によかった。
別の意味で、一度カミュと話さねばなるまいと思うサガであった。
 
「あ、ところでカノンは?」
「・・・カノンなら中庭だが。」
っておい、まさか!
止める間もなく氷河は走り去ってゆく。
思えばあの紙袋、妙にでかくないか?
 
 
 
大した用はないのだが、兄貴が部屋にいるので中庭に出てみたカノンである。
ベンチに腰かけてぼんやり煙草をふかしていると、背後から声がした。
「あ、こんにちは。これ、お土産です。」
「なんだ? これは。」
「チョコレートです。塩入りの。」
「・・・食べてみませんか?」
「今か?」
「ええ、どんな味がするのか、気になって。」
蒼い瞳がじっと見つめるので、つい断りきれなくなる。
手にしていた煙草の火を消し、かさこそと包みを開く。
箱の中には、金色の紙に包まれた薄い正方形のチョコレートが並んでいた。
包みをほどいて、チョコレートを一口齧る。
その様子を、間近で氷河がじっと見ている。
「甘い? それともしょっぱい??」
しょっぱいだけのチョコレートが売られている筈がないのに、本気で言っているのだろうか?
「しょっぱいな。全然甘くない。」
そう言うと、蒼い目は大きく見開かれた。
そんなに気になるなら、自分で食べればいいのに。
なぜ自分に食べさせるのか。
「もしかして、美味しくなかったですか?」
「いや。食べてみるか?」
「はい!」
満面の笑みで一枚受け取ると、慎重な手つきで口に運ぶ。
「ん・・・なんだ、甘いじゃないですか。でもそうか、ちょっと塩の味もしますね。複雑だな。貴方みたいだ。」
「・・・・・・」
「もうひとつ貰っていいですか?」
「ああ」
氷河は幸せそうな顔をして、味わうように目を閉じた。
「うん、美味しい! はまりますね。」
指についたチョコをぺろりと舐める。
少し目を逸らすようにして。
やわらかそうな舌先が親指をかすめた。
「それじゃあ、また!」
カミュがいて、アイザックがいて、ミロがいる。
なんだかどっと疲れて、カノンは青い空を見上げた。
 
 
天蠍宮―
 
私室を訪れた氷河は、赤い包みをミロの胸に押し付けるようにして渡した。
「あの、ミロ、これ、お土産だ。」
「なんだ。チョコレートか。こういうのは2月14日に貰いたかったな。俺のために買ってくれたんだろう?」
「そ、そうだけど、別にバレンタインだからというんじゃない。ただ、沢山チョコレートを売っていて、これなら貴方も気に入るんじゃないかと思ったから。」
「コニャックが入っている。」
「そうだ。」
「坊やにはまだ早そうだな。」
「チョコレートだぞ、それくらい食べられるに決まっている。」
「大人の食べ方を教えてあげようか?」
「・・・?」
ミロは箱をあけ一粒とりだすと、銀紙をほどいて口に含んだ。
すばやく氷河を抱き寄せて唇を重ねると、軽く噛んだチョコレートを舌先で口内に押し込んでやる。
少し辛い酒の味が、チョコの甘みとともに口の中に広がる。
それだけで無論終わるつもりもなく、チョコレートが溶けてなくなるまで、ミロは丹念に氷河の口の中を味わった。
「な、な、何するんだっ?」
「顔が赤い。酔った?」
「そんなんじゃないっ!!」
「別のお酒のもあるけど、試してみるか?」
「もういいっ!」
氷河はくるりと背を向けて、宝瓶宮の方へと走り去った。
 
 
宝瓶宮―
 
カミュは不在だった。
氷河は手元のチョコレートをじっとみつめた。
前にカミュが任務でフランスに行ったとき、お土産で買ってきてくれたチョコレート。
先生に、こんなお気に入りがあるなんて知らなかったから、何だか少し可笑しかった。
このところ忙しくて、フランスに行くこともそう簡単にはできないだろうから、日本でこれを買うことが出来てよかった。
何と言って渡そうか。
別に、先生にはバレンタインでもいいんだな。
大切な、大切な人だから。感謝の気持ちを込めて。
そう考えると、2月14日に直接渡したいという気がしてくる。
けれどもう、瞬と約束してしまった。
瞬は楽しみにしていると言っていた。
しかし、カミュは俺の師なのだから。
もう一度瞬と話してみよう。
そう考えて氷河は、チョコレートの包みを、畳んだ紙袋と一緒にバッグにしまった。
 

 
所用を終えたカミュは、自宮に戻るため階段を上がって行った。
向こうからカノンが降りてくる。
カミュの姿を認めると、何やら表情をこわばらせた。
「何か?」
「いや・・・、何でもない。」
そう言って足早に通り過ぎて行った。
 
双児宮では、サガが部屋から出てきたところだった。
眉間に、やや皺がよる。
「何か?」
「ああ」
言いかけてサガは迷った。
はて、何というべきか。
ダイレクトにチョコレートのことを話せば、困るのは氷河だろう。
ここはいったんひいておいて、改めてそれとなく話すことにしよう。
「いや・・・、何でもない。」
教皇の間に行くつもりだったサガは、なんとなく二人で階段を上ってゆくのに気がひけて、再び部屋に戻った。
カミュは首をかしげると、再び階段を上がった。
 
 
ミロは、いつものミロだった。
だが、珍しくチョコレートなど食べている。
「あ? これ? 氷河から貰った。バレンタインだからな。」
「バレンタイン!」
「日本じゃ、好きな人に、チョコレート渡すんだろ?」
「氷河がそう言ったのか?」
「さぁてね。俺のために選んでくれたそうだよ。」
カミュはわずかに瞳を細めると、黙ったままその場を去った。
 
 
ミロにチョコレート。
ミロにチョコレート。
ミロに、バレンタインのチョコレート。
いや、ちょっとまて。
さっきの双子。
サガもカノンも何か変だった。
サガにチョコレート。
カノンにチョコレート。
双子に、バレンタインのチョコレート。
悶々としながら、カミュは階段を上ってゆく。
何だか、こめかみのあたりが熱い。
自宮の前で、カミュは大きく息を吸った。
クールになるのだ。
 
 
「おかえりなさい。」
氷河はニコニコと笑って、カミュを出迎えた。
「お昼はまだですか?」
「ああ」
「よかった。シチュー、作っておきました。」
そうして二人は、少し遅い昼食をとった。
「お茶入れますね。」
「ああ」
あたたかなロシアンティー。
だが、肝心なものは何も出てこない。
氷河は日本での近況などを語って聞かせるが、カミュの耳には入って来ない。
ミロにあげて、サガにあげて、カノンにまであげて。私にはなしか、氷河。
眉間にしわを寄せて押し黙っているカミュを見て、氷河は首をかしげた。
「どうかしましたか?」
こうしていても仕方がない。
カミュは意を決して口を開いた。
「氷河、何か、私に隠し事をしていないか?」
「え?」
氷河はぎくりとして、ちらりとバッグの置かれているソファを振り返った。 
「え、してないですよ。そんな。」
「ならばどうして目を逸らすのだ。」
「いえ、だって・・・。隠し事だなんて、そんなんじゃないんです。でも、今は言えません。ちゃんと、その時が来たらお話します。」
その時って、いつだ。
プロポーズを承諾してからか。
そんなこと、私が許すとでも思っているのか。
「その時では遅いのだ、氷河。いくら私でも、それまで待つことなどできない。それまで何もせずに、ただじっと待っているなど。どうしてそれが、わからんのだ。」
「もしかして、何か、知ってます?」
ムッとした表情でカミュは押し黙った。
氷河はくすくすと笑いだす。
「先生ってば、そんなにチョコレートがお好きなんですね。先生にはちゃんと14日に渡したいって思っていたんですけど。だったら今食べましょうか。俺、バレンタインにチョコレートを渡す習慣があるなんて知らなくって、街で見かけたのを沢山買っちゃったんですよ。ミロ達にはさっき渡したんですが、先生には、やっぱり14日に渡したいなって思って。でも、そうですよね。ミロが食べてるのとか見たら、先生だって食べたいですよね。」
氷河はバッグからチョコレートを取り出すと、カミュに差し出した。
「氷河、私はな・・・。」
「これ、好きなのでしょう?」
カミュは氷河からチョコレートを受け取った。
「いや、もはや何も言うまい・・・とは、もはや言っていられない。」



 
 
 
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珍しく大きな紙袋を抱えて氷河が帰ってきた。
「なぁに? それ?」
リビングで一人、お茶を楽しんでいた瞬が声をかけると、氷河は満足そうにその包みをテーブルに載せた。
「街でチョコレートを沢山売ってたんだ。明日聖域に行くから、土産に丁度いいと思ってな。沢山あるから選びきれなくて、ついこんなに買ってしまった。」
幾ら日本の風習に疎くとも、場の雰囲気から何かを感じ取って欲しかったと思う瞬である。
「お土産って、カミュに?」
「ああ、もちろんカミュのもある。カミュが前に好きだと言っていたフランスのチョコレートが売られていたんだ。日本で売るのは今だけなんだそうだ。一緒に食べようと思ってな。」
「カミュのも、ってことは、他にもあるの?」
「ああ」
氷河はにこりと笑みを浮かべると、がさごそと紙袋から包みを取り出した。
「これはミロのだな。ミロのはお酒が入っているのにした。これ、一応チョコレートだから、俺らだって食べてもいいんだよな?」
「うん・・・、ミロとも一緒に食べるつもり?」
「あの人が、分けてくれたらの話だが。」
「あとな、すごくきれいなチョコレートも見つけた。惑星をイメージしたチョコレートでな、地球とか火星とか、一粒一粒がピカピカで宝石みたいなんだ。何だかサガを思い出して買ってしまった。
でもサガだけじゃカノンが可哀想だからな。こっちは塩の入ったチョコレートなんだそうだ。どんな味がするんだろうな?」
氷河は得意げに、ずんずんと包みを取り出してゆく。
「でな、このでかいのな、ゴリラの形なんだぞ。面白いから一輝に。」
さっきお土産と言ってたのに、明らかに趣旨がずれてきている。
「星矢のは馬だ。ペガサスがあればいいのに、見つけられなかった。
紫龍はな、ビターにした。カカオの割合が違うのを食べ比べられるんだそうだ。あいつ、そういうの好きそうだろう?」
「ねぇ、氷河ぁ、僕のはないの?」
「あるに決まっているだろう。これ、瞬のだ。これをな、ホットミルクに入れてくるくる回すと、溶けてホットショコラになるそうだ。うまそうだろう? 色々な種類があるんだぞ。でも白が一番瞬のイメージにあうな。瞬とお茶を飲むのは楽しいからな。これも一緒に飲みたいと思って買ったんだ。」
涼しげな顔に、優しい笑みが浮かんだ。
鈍感な癖に。
口下手な癖に。
時々平気でこういうことを言う。
 
「ね、僕これ、大事にとっておいて、14日に二人きりで飲みたい。2月14日って空いてる?」
「ああ、東京にいるはずだが。」
「なら約束。指切りしよう。僕、このホットショコラにあいそうなクッキー、用意しとくから。」
「わかった。だが、14日って、何かの日だったか?」
「バレンタインデー」
氷河の顔が、少し曇る。
その言葉だけは、知っている様子だ。
「日本では、女の子が好きな子にチョコレートを渡して告白する日なんだよ。」
「・・・もしかして、それでチョコレートを沢山売ってたのか?」
「もちろん。ほら、僕にくれたこの包みにも、沢山ハートの絵が描いてある。」
「あ、あのな、瞬・・・。」
「14日、楽しみにしてる。・・・大丈夫。欧米では、男女関係なく、親しい人に贈り物をする日なんでしょう?? 恩師にプレゼントしたって、おかしなことはないよ。義理チョコって言葉もあるくらいだから。・・・でも、僕は、氷河からもらって嬉しかったな。」
そう言うと瞬は立ち上がり、手にしていたカップを洗うために席を立った。
「あ、あのな・・・」
「僕も氷河とお茶するの好きだよ。二人でいっぱい美味しいもの食べようね。」
カップをしまうと、笑顔を残して瞬はその場を後にした。
後ろ手でドアを閉め、心の中で呟く。
(僕だってね、いつまでも手を拱いているわけじゃないんだよ。いい加減、気が付きなさい、氷河!!)
 
 
 
バレンタインデーは、女の子が好きな人にチョコレートを渡す日。
瞬からそう教わったものの、買ってしまったものは仕方がない。
こうなったら1月のうちにすべて渡してしまおう。
ちゃんと事情を話せば、みんなわかってくれるはず。
氷河は妙な自信を持って、双児宮に突っ込んでいった。
 
 
双児宮―
 
私室のドアをノックすると、現れたのは意外にもサガだった。
「あ、こちらにいらしたんですね。てっきり教皇の間かと思っていました。」
教皇代理を務めるサガが、日中双児宮にいるのは珍しい。
カノンと間違えてもよさそうなものだが、不思議とこの少年は二人を見間違えることがない。
「いや、少し用があってな。午後にはあちらへ戻るつもりだが。」
「いえ、丁度良かったと思って。お渡ししたいものがあったんです。」
そう言うと氷河は、がさごそと紙袋から何かを取り出した。
「あの、これ、別にバレンタインだからという訳じゃないんですけど。俺も知らなかったんですが、日本ではバレンタインにチョコレートを贈る風習があるらしくて、それで、売り場を見ていたら、貴方の事を思い出したから。いや、違う。このチョコレートが、星みたいで、とてもきれいで、それで、貴方を思い出して、貴方にあげたいと思ったんだ。」
バレンタインとは関係ないことを説明しようと思うあまり、かえって意識してしまう氷河である。
顔を真っ赤にしながら、しどろもどろで話す氷河の姿をサガはじっとみつめた。
これはしかし、どう考えても告白というやつなのではないか。
これまで、縁談の話は数知れずあった。
遠巻きに視線を送られたり、手紙が届いたりすることも数知れずあった。
そしてまた、黒サガ時代に、美味しい思いをしたこともあった。
しかしサガは、ずば抜けて美しく聡明であるがゆえに、意外にも直接告白されたことはなかった。
こんな不器用で、可憐な告白をされたのは初めてだ・・・。
首をやや傾げながら、懸命に言葉を探す姿が返って新鮮だ。
・・・がしかし、カミュはどうした??
この子が本気であるというのなら、私もカミュと本気で語り合おう。
幾ら弟子とはいえ、愛しあう人間を自分で選ぶ権利はある筈だ。
「カミュは、知っているのか?」
「あ、先生のは別にあります。」
あっさりと帰ってきた答えに、サガは拍子抜けした。
よかった。変なこと口走らなくて本当によかった。
別の意味で、一度カミュと話さねばなるまいと思うサガであった。
 
「あ、ところでカノンは?」
「・・・カノンなら中庭だが。」
っておい、まさか!
止める間もなく氷河は走り去ってゆく。
思えばあの紙袋、妙にでかくないか?
 
 
 
大した用はないのだが、兄貴が部屋にいるので中庭に出てみたカノンである。
ベンチに腰かけてぼんやり煙草をふかしていると、背後から声がした。
「あ、こんにちは。これ、お土産です。」
「なんだ? これは。」
「チョコレートです。塩入りの。」
「・・・食べてみませんか?」
「今か?」
「ええ、どんな味がするのか、気になって。」
蒼い瞳がじっと見つめるので、つい断りきれなくなる。
手にしていた煙草の火を消し、かさこそと包みを開く。
箱の中には、金色の紙に包まれた薄い正方形のチョコレートが並んでいた。
包みをほどいて、チョコレートを一口齧る。
その様子を、間近で氷河がじっと見ている。
「甘い? それともしょっぱい??」
しょっぱいだけのチョコレートが売られている筈がないのに、本気で言っているのだろうか?
「しょっぱいな。全然甘くない。」
そう言うと、蒼い目は大きく見開かれた。
そんなに気になるなら、自分で食べればいいのに。
なぜ自分に食べさせるのか。
「もしかして、美味しくなかったですか?」
「いや。食べてみるか?」
「はい!」
満面の笑みで一枚受け取ると、慎重な手つきで口に運ぶ。
「ん・・・なんだ、甘いじゃないですか。でもそうか、ちょっと塩の味もしますね。複雑だな。貴方みたいだ。」
「・・・・・・」
「もうひとつ貰っていいですか?」
「ああ」
氷河は幸せそうな顔をして、味わうように目を閉じた。
「うん、美味しい! はまりますね。」
指についたチョコをぺろりと舐める。
少し目を逸らすようにして。
やわらかそうな舌先が親指をかすめた。
「それじゃあ、また!」
カミュがいて、アイザックがいて、ミロがいる。
なんだかどっと疲れて、カノンは青い空を見上げた。
 
 
天蠍宮―
 
私室を訪れた氷河は、赤い包みをミロの胸に押し付けるようにして渡した。
「あの、ミロ、これ、お土産だ。」
「なんだ。チョコレートか。こういうのは2月14日に貰いたかったな。俺のために買ってくれたんだろう?」
「そ、そうだけど、別にバレンタインだからというんじゃない。ただ、沢山チョコレートを売っていて、これなら貴方も気に入るんじゃないかと思ったから。」
「コニャックが入っている。」
「そうだ。」
「坊やにはまだ早そうだな。」
「チョコレートだぞ、それくらい食べられるに決まっている。」
「大人の食べ方を教えてあげようか?」
「・・・?」
ミロは箱をあけ一粒とりだすと、銀紙をほどいて口に含んだ。
すばやく氷河を抱き寄せて唇を重ねると、軽く噛んだチョコレートを舌先で口内に押し込んでやる。
少し辛い酒の味が、チョコの甘みとともに口の中に広がる。
それだけで無論終わるつもりもなく、チョコレートが溶けてなくなるまで、ミロは丹念に氷河の口の中を味わった。
「な、な、何するんだっ?」
「顔が赤い。酔った?」
「そんなんじゃないっ!!」
「別のお酒のもあるけど、試してみるか?」
「もういいっ!」
氷河はくるりと背を向けて、宝瓶宮の方へと走り去った。
 
 
宝瓶宮―
 
カミュは不在だった。
氷河は手元のチョコレートをじっとみつめた。
前にカミュが任務でフランスに行ったとき、お土産で買ってきてくれたチョコレート。
先生に、こんなお気に入りがあるなんて知らなかったから、何だか少し可笑しかった。
このところ忙しくて、フランスに行くこともそう簡単にはできないだろうから、日本でこれを買うことが出来てよかった。
何と言って渡そうか。
別に、先生にはバレンタインでもいいんだな。
大切な、大切な人だから。感謝の気持ちを込めて。
そう考えると、2月14日に直接渡したいという気がしてくる。
けれどもう、瞬と約束してしまった。
瞬は楽しみにしていると言っていた。
しかし、カミュは俺の師なのだから。
もう一度瞬と話してみよう。
そう考えて氷河は、チョコレートの包みを、畳んだ紙袋と一緒にバッグにしまった。
 

 
所用を終えたカミュは、自宮に戻るため階段を上がって行った。
向こうからカノンが降りてくる。
カミュの姿を認めると、何やら表情をこわばらせた。
「何か?」
「いや・・・、何でもない。」
そう言って足早に通り過ぎて行った。
 
双児宮では、サガが部屋から出てきたところだった。
眉間に、やや皺がよる。
「何か?」
「ああ」
言いかけてサガは迷った。
はて、何というべきか。
ダイレクトにチョコレートのことを話せば、困るのは氷河だろう。
ここはいったんひいておいて、改めてそれとなく話すことにしよう。
「いや・・・、何でもない。」
教皇の間に行くつもりだったサガは、なんとなく二人で階段を上ってゆくのに気がひけて、再び部屋に戻った。
カミュは首をかしげると、再び階段を上がった。
 
 
ミロは、いつものミロだった。
だが、珍しくチョコレートなど食べている。
「あ? これ? 氷河から貰った。バレンタインだからな。」
「バレンタイン!」
「日本じゃ、好きな人に、チョコレート渡すんだろ?」
「氷河がそう言ったのか?」
「さぁてね。俺のために選んでくれたそうだよ。」
カミュはわずかに瞳を細めると、黙ったままその場を去った。
 
 
ミロにチョコレート。
ミロにチョコレート。
ミロに、バレンタインのチョコレート。
いや、ちょっとまて。
さっきの双子。
サガもカノンも何か変だった。
サガにチョコレート。
カノンにチョコレート。
双子に、バレンタインのチョコレート。
悶々としながら、カミュは階段を上ってゆく。
何だか、こめかみのあたりが熱い。
自宮の前で、カミュは大きく息を吸った。
クールになるのだ。
 
 
「おかえりなさい。」
氷河はニコニコと笑って、カミュを出迎えた。
「お昼はまだですか?」
「ああ」
「よかった。シチュー、作っておきました。」
そうして二人は、少し遅い昼食をとった。
「お茶入れますね。」
「ああ」
あたたかなロシアンティー。
だが、肝心なものは何も出てこない。
氷河は日本での近況などを語って聞かせるが、カミュの耳には入って来ない。
ミロにあげて、サガにあげて、カノンにまであげて。私にはなしか、氷河。
眉間にしわを寄せて押し黙っているカミュを見て、氷河は首をかしげた。
「どうかしましたか?」
こうしていても仕方がない。
カミュは意を決して口を開いた。
「氷河、何か、私に隠し事をしていないか?」
「え?」
氷河はぎくりとして、ちらりとバッグの置かれているソファを振り返った。 
「え、してないですよ。そんな。」
「ならばどうして目を逸らすのだ。」
「いえ、だって・・・。隠し事だなんて、そんなんじゃないんです。でも、今は言えません。ちゃんと、その時が来たらお話します。」
その時って、いつだ。
プロポーズを承諾してからか。
そんなこと、私が許すとでも思っているのか。
「その時では遅いのだ、氷河。いくら私でも、それまで待つことなどできない。それまで何もせずに、ただじっと待っているなど。どうしてそれが、わからんのだ。」
「もしかして、何か、知ってます?」
ムッとした表情でカミュは押し黙った。
氷河はくすくすと笑いだす。
「先生ってば、そんなにチョコレートがお好きなんですね。先生にはちゃんと14日に渡したいって思っていたんですけど。だったら今食べましょうか。俺、バレンタインにチョコレートを渡す習慣があるなんて知らなくって、街で見かけたのを沢山買っちゃったんですよ。ミロ達にはさっき渡したんですが、先生には、やっぱり14日に渡したいなって思って。でも、そうですよね。ミロが食べてるのとか見たら、先生だって食べたいですよね。」
氷河はバッグからチョコレートを取り出すと、カミュに差し出した。
「氷河、私はな・・・。」
「これ、好きなのでしょう?」
カミュは氷河からチョコレートを受け取った。
「いや、もはや何も言うまい・・・とは、もはや言っていられない。」



 
 
 
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