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☆矢熱再燃。 ただただ氷河が好きだと叫びたい二次創作ブログです。 色気のある話はあまり書けないと思いますが、腐目線なのでご注意ください。 版権元とは一切関係ございません。
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なんかちょっと区切りが変なんですが・・・分量的な問題もありくっつけてUPします。

m様、「何故?!」に吹いたと言いながら、思わず足してしまいました・・・。


拍手[18回]

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早まった。
つい、聞き出そうとしてしまった。
彼がどれだけ苦しんできたのか、少しは想像できていたはずなのに。
カミュはため息をつくと、顎をあげて天井を仰いだ。
もう何も聞くまい。
 
カミュはてのひらを上にした。
ぼうっと光がおこって、小さな雪の結晶がキラキラと舞う。
暖められた部屋で、それはすぐに溶けて消えて行った。
物心ついた時から、自然に出来たことだ。
やがてその力を認められて聖域に連れて来られたとき、少しほっとしたことを覚えている。
カミュにとって聖闘士になることは、ごく自然なことだった。しかし若い聖闘士を育成する立場になってみると、それはごく稀なケースであることに思い至った。
小宇宙に目覚めていない。
凍気も発しない。
ただ普通の子供が連れて来られることが多かった。
いや、普通・・・ではない。
その多くは身寄りのない子供だ。
彼らが聖闘士を目指すことで、自分の命に価値を見出してくれるのならば、いい。
しかし愛された記憶もない子供が、地上を護るという名目のもと、わけもわからずに運ばれてくることに疑問を感じることも多かった。
「何のために、聖闘士になりたいのだ?」
そう聞くと大抵の子供は、怯えたように視線を惑わせた。
アイザックだけが、はっきりと自分の意思を告げた。
幼い正義感から来るものではあったが、それは心身の成長とともに充実していった。
 
ふう・・・とカミュはため息をついた。
 
あの子の傷を治してやりたい。
きちんとした食事を与え、あたたかな布団で眠らせ、あんな風に荒れ狂わずにすむように。
そして・・・。
そして・・・?
 
・・・あの子は、誰かを殺しにゆくと言った。
そんな風に力を使ってはならないのだと、それを教えてやる責任は、私にある。



*************


暗闇の中で、氷河はじっと蹲っていた。
昼間は抑えられている感情が、夜になると突き上げてきて眠れなくなる。
 
どうやら不死鳥の聖衣はこの小屋の中にはないようだ。
「聖衣は、そういうものではない」とあいつは言った。
だったら師と名乗った、あの男の指導は何だったのか。
はなから聖衣など授けるつもりはなく、ただいいように、自分を弄んだだけだったのか。
それともあの男にとっても、聖衣は手の届かない高みにあって、血にまみれたあの男の人生に俺も引きずり込まれただけだったのか。
黄金の聖衣を纏ったあいつの力は圧倒的だった。
あの男などとは比べ物にならない。
あいつが、ほんとうだというのか。
気に入らない。
俺の中にある憎しみは、ほんとうのものだ。
それだけがはっきりと感じられるものだ。
それだけが、俺を動かしている。
 
指先まで熱くなる。
氷河は部屋を出て、カミュの寝室のドアを蹴破った。
 
殺す。
なんでもいい。
あいつを殺さないと。
 
渾身の力を込めて放った拳は、あっさりと止められた。
拳を掴んで引き寄せるとカミュは言った。
「眠れないのか?」
同情するような視線に苛立つ。
そうだ。お前が憎いから眠れないんだ。
あいつらが憎いから眠れないんだ。
「くそっ!」
氷河はカミュの手を振り払って、拳を握りしめた。
「殺すんなら、とっとと殺せ。」
カミュは氷河の肩に手を置き、ベッドに座らせた。
「お前が聖闘士の力を間違って使おうとしているなら、私はそれを止めなければならない。」
「それは殺すってことだろう。」
「そうだろうな。」
ひどくあっさりとカミュは言った。
「だが、お前はそれだけではないと思う。」
長い前髪から覗く蒼い瞳が、一瞬わずかに揺れた。
何かを切実に希求するように。
氷河は頭を振る。
違う。
いつだって、裏切られてきた。
悪夢から覚めたかと思うと、また別の悪夢が始まって。黒いぬかるみにいつまでも捉われたままだった。
「・・・あんたのその仮面は、いつ壊れるんだ?」
氷河は立ちあがって、カミュの襟元を掴んだ。
唇を寄せて囁く。
暴いてやる。
じわじわと一つの夢に捉われているのは苦手だ。
氷河はカミュを力任せに押し倒し、その上に馬乗りになった。
「なぁ、あんたが望んでいるのは、こういうことだろう?」
顔の両脇に手をついて、強く躰を押し付けるように腰を揺らす。
ベッドが揺れて、キシキシと音をたてた。
 
紅い瞳はまっすぐにこっちを見つめている。
 
その瞳に、ひどく醜い自分の姿がある。
 
カミュの手が伸びて、シャツから覗いている包帯に触れた。
まだ少し血がにじんでいる。
 
「傷を、治すことだ。私たちがすべきことは。今はそれだけを考えよう。」
 
カミュは自分の身体を横にずらすと、その脇に氷河を寝かせた。
傷が痛まないように、ゆっくりと仰向けにしてやる。
自身は横向きに、少し身体を折るようにして、氷河の右手をとると両手で包んだ。
 
「また殴りかられてはたまらないからな。掴まえたまま眠ろう。」
 
そう言ってカミュは瞳を閉じた。




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続きです。
今日読み返して、なんとなくギル氏との過去を数行追加してしまいました。
大丈夫でしょうか・・・。

フランス人のカミュ先生は「氷河」をどう発音するんだろう?
Hの発音にちょっと手こずるようだと萌える。



拍手[12回]




電球の光が、わずかに部屋を照らしている。
カミュはタオルを絞って、少年の額の汗を拭いた。
時局は急を告げている。
それなのに何故自分は、この少年を抱えて再びシベリアへ帰ってきたのか。
・・・だが、それが最善の方法だと思った。
 
乾いた唇からは、時々悲痛なうめき声が漏れた。
魔拳はまだ、少年の精神を脅かしている。
咄嗟のことで思わず弾き返してしまったが、痛々しい姿に胸が痛む。
頬にかかった金色の髪を、カミュはそっと指で流した。
彼を苛む悪夢がどのようなものなのか、漏れ出た言葉から察しがついた。
それはただ悪夢なのではなく、おそらく彼が、荒みきったあの島で強いられた事実なのだ。
血まみれの服を脱がしたとき、躰に残った無数の傷跡からそのことが知れた。
少女のようにも見える端正な顔立ち。
服の下に隠された、蝋のように白く滑らかな肌。
それが、少年を、どれだけの苦境へ追いやったか。
カミュは少年の額に、てのひらをかざした。
傷を癒すように、小宇宙を注ぎ込む。
苦しげに寄せられた眉が少し緩み、薄く開いた唇から息が漏れた。
 
 
聖闘士の指導は、師である人間にほぼ一任される。
しかし聖闘士が女神に仕えるものである以上、その倫理を引き継ぐものでなければならない。
近頃の聖域は、どこか危うい。
暗い焦燥のような。
弱者を見下し、ただ力だけを得ようとする傾向がある。
聖戦を控え、力をつけていかねばならないのはわかる。だが、それが本当に地上を愛する女神の意向であるのか、カミュには測り兼ねる部分があった。
そうした綻びが、果てはこの少年を生み出したのか。
不死鳥の聖衣は俺のものだと言った。
おそらくそれは嘘ではないのだろう。
聖衣を得るために、それなりの訓練を受けてきたことは対峙してみてわかった。
しかし。
小宇宙を高めるために、彼が糧とするのは憎しみだ。
ただ敵を殺すためだけの力。
そのような者に、聖衣を纏う資格はない。
 
島には指導者らしき人間がいなかった。少年以上の小宇宙を持つ者もいなかったので、彼の意識が戻り次第、事情を訊いてみるつもりだ。
だが。
話を訊くというのは言い訳に過ぎないことに、カミュ自身も気づいている。
捨てておけなかったのだ。
何かを決定的に欠いたまま、荒れ狂うこの少年を。
 
 
 
 
窓に何かがあたる。
この音は、知っている。
この匂いも。
暖められた部屋。
外はきっと雪のはずだ。
誰かが、自分を見て微笑んでいる。
ブランケットを肩にかけて、そのまま包み込むように抱きしめてくれた。
つややかな、金色の髪。
ぼんやりとその面影が現れたとき、ひどく頭が痛んだ。
違う、それは、偽りだ。
あの女は、欲情の果てに俺を産んだ。
腐りきったあの男にくれてやるために。
 
 
 
「気が付いたか。」
穏やかな声が聞こえて、氷河は視線を向けた。
ドアを閉めて、こちらに歩いてくる男がいる。
紅い髪。
紅い・・・!
氷河は思わず半身を起こして身構えた。
しかし眩暈に見舞われ、すぐに手をついた。
「無理をするな。しばらくは安静にしておいた方がいい。」
紅い髪の男は、氷河の背を支えるとベッドに寝かせて毛布を掛けた。
どういうことだ?
こいつ、ジャンゴを倒した奴だ。
俺のことも倒したくせに。
そこまで考えて、氷河はふっと昏い笑みをこぼした。
目的が別にあるんなら、臆することもない。
せいぜい利用させてもらうまでだ。
「腹が減っただろう。何か食べられそうか?」
氷河が頷くと、男は部屋をあとにした。
 
「初めはスープからだ。」
旨そうな匂いがする。
男は皿の乗ったトレーをサイドテーブルに置くと、氷河の身体を起こして背中に枕をあてた。
「自分で、食べられるか?」
頷くと、トレーを膝の上に置いてくれた。
スプーンで掬って口に運ぶ。
わずかなトマトの酸味が、食欲をそそる。
しかも温かい。
「・・・名前を聞いていなかったな。私はカミュという。君は?」
氷河は手を止めて、男を睨んだ。
「・・・好きに呼べばいい。」
カミュはまっすぐに瞳を見据えて言った。
「それでは、意味がない。君の名前は?」
静かだが、どこか厳しい声音。
「・・・・・・氷河。」
「ヒョウガ・・・」とカミュという男は繰り返し、呟くように言った。
「どんな意味だろう。」
意味?
氷河は顔をしかめた。
名前にも、俺自身にも、意味などありはしない。
ああ、だが。
屋敷で言われたことがある。
大昔から溶けたことのない氷の塊。
普通は人の名につけない、冷たい言葉だと。
「あんたは、何なんだ。ここはどこだ?」
「そうだな・・・。」
空になった皿をトレーごと受け取ると、カミュはそれを脇に置いた。
「私は聖闘士だ。水瓶座の聖闘士。聖域を守護する任についているが、今回は暗黒聖闘士を討伐するためにあの島へ行った。そしてここは、シベリア。少し前まで、私が弟子を育てていた場所だ。」
シベリア・・・。その言葉に、愕然とする。
いや、きっとそうだということはどこかでわかっていた。
あの女と過ごした場所。
手始めに、ここから壊すんでもいい。
ふと、カミュの手が触れた。
無意識に爪を噛んでいた手を外される。
「・・・君は、あの島で聖闘士になろうとしていたのか?」
「なろうとしていたんじゃない。なったんだ。ジャンゴから自分の聖衣を取り返せと言われた。」
「誰に?」
「・・・・」
氷河は眉を顰め、カミュを睨んだ。
名前など知らない。
ただあの男の前に連れて行かれて、それからずっと修行を受けていた。
名前どころか、その素顔も知らない。
語るべきものは何も知らないのに、余計なことだけは思い出される。
荒い息と肌の匂い。
這いまわるごつごつとした手。
血の味。
毎日のように繰り返されたその記憶は、奴を、知っているということになるのだろうか。
地下の一室。
何もかも腐ってゆくようなあの部屋の感覚を思い出して、氷河は思わず目を逸らした。
「何故、聖闘士に?」
静かな声に、氷河は再び顔をあげた。
「何故?」
何故、だと?
何故?
理由があると思うのか。
理由があったとして、それが叶うとでも?
「小麦粉の代わりに売られてきた。」
そう言うと、カミュの眉がわずかに動いた。
紅い瞳には、憐れむような色。
「・・・・・・嘘だよ。それはあの島の女の話だ。」
氷河はまた、イライラと左手を口元に運んで、親指の爪を噛んだ。
「籤を引いた。その紙に島の名前が書かれていた。」
親指を外して、残りの指を口に運ぶ。
カミュは再び手を伸ばして、今度はその手をそっと握った。
「聖衣をよこせよ。殺したい奴らがいるんだ。」
瞳には憎しみが、澱のように沈んでいる。
「聖衣は、そういうものではない。」
なんだと?
 
氷河は手を振り払うと、ベッドから跳び下りた。
あの、地獄のような日々は何だった?
強いられてきた日々を、こいつが否定する。
椅子に腰かけたままの、カミュのこめかみめがけて拳を振り下ろす。
拳はあっさりと片手で止められた。
氷河は後方にとびすさり、小宇宙を高めた。
全身の力を込めて、再度拳を打ち込む。
カミュはそれも素手で受け止めると、跳びかかってきた氷河の肩を押さえた。
 
息が苦しい。
息をしている筈なのに。
息が。
崩れ落ちる氷河の身体を、カミュが支える。
とん、とん、とてのひらが、ゆっくりとしたリズムで氷河の背中を叩いた。
 
「息を吐いてごらん。声を出すのでもいい。ゆっくり。そう、ゆっくりだ。」
 
カミュはもう片方の手で、氷河の頭を抱き寄せる。
 
こわばった身体は、小さく震えていた。
 
 


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