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☆矢熱再燃。 ただただ氷河が好きだと叫びたい二次創作ブログです。 色気のある話はあまり書けないと思いますが、腐目線なのでご注意ください。 版権元とは一切関係ございません。
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NDの連載、なかなか再開されませんね。
待ちわびすぎて、私の脳内で氷河は宝瓶宮に降ってくることが確定していますが、一体どうなるんでしょうか??
先代水瓶はどんな人なんだろう。彼は師の師なのか?!
 
話の展開も読めないのに、テロメア妄想パート2

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テロメア妄想 その2




明け方に帰った女神はイラだっていた。
クロノス神は、のらりくらりと会話をかわし、なかなかこちらの主張を受け入れようとはしなかった。結局氷河はもとに戻ったものの、今後も嫌がらせをやめる気配はない。
一般人に手は出さない。変化は24時間まで。という確約のみ取り付け、女神は引き下がることにした。
多分しばらくすれば、こんな遊びにも飽きることだろう。
こちらが熱くなれば、かえって調子に乗せてしまうだけだ。
 
仮眠をとった後、女神はサガ、カミュ、氷河を呼んだ。
等しく膝をついた3人だが、微妙な空気が流れている。
いつも通り恭しく頭を下げたサガの髪は、ところどころ凍りついて妙な向きにねじ曲がっている。
サガの髪をそのようにした張本人であろうカミュの瞳は、「私はちっとも悪くない」とばかりに赤く燃えている。
少し後ろに控えた氷河は、いろんな意味でいたたまれず、顔を赤くしてじっとうつむいている。
 
「今回のことですけれど、クロノスにとっては特に深い意味はないのだそうです。一般人に手は出さないそうなので、しばらくは様子を見ることにします。
一応、誰が、何歳に変えられてもいいように、赤ちゃん用品から介護用品まで、一式取り揃えておくことにしました。年齢が変わるのは24時間程度ですから、あとは各自で何とかしてください。サガ、このことを他の聖闘士達に伝えて、いざという時に備えてください。
氷河は今から東京に戻って、城戸邸のメンバーに伝えてください。用品の備えは辰巳に頼んであります。」
なんてまた、やっかいな。
年を取ったアフロディーテとか、赤子に返ったデスマスクとか。
見てみたくないと言えば嘘になる。
しかしまた自分がそうなる可能性もあるわけで。
しばらくは皆、戦々恐々としてクロノスのいたずらに備えなくてはならない。
 
 
 
城戸邸に向かうセスナにのった氷河は、ちょっとだけホッとしていた。
一日子供に戻ってしまった自分を世話してくれたサガに、誤解とはいえひどい態度をとってしまったし、何だかわからないがカミュもひどく怒っていた。
そしてサガとカミュの会話から、子供の自分が眠れなくて泣いたのだということも知った。
恥ずかしいこと、この上ない。
何ともいたたまれないあの状況から、抜け出せたことに感謝する。
しかし自分の子供の頃の姿を見たのが、女神とカミュとサガであったことは、不幸中の幸いだったとも思う。
カミュはもともと知っているし、サガはあれこれ吹聴するような人物ではない。
マーマ恋しさに泣いてる姿を一輝なんかに見られたら、一生笑いものにされるだろう。
と、そこまで考えて氷河は思った。
赤子でも、爺でもいい。
次の被害者は一輝だったらいいと。
 
 
 
そんな氷河の願いを知ってか知らずか、氷河が城戸邸のドアを開けたとき、屋敷に瞬の悲鳴が響き渡った。
「に、兄さん!? 兄さんだよね??」
慌てて駆け上がって、声のする方に走ってゆくと、途方に暮れた瞬の前に3歳ほどの子供が立っていた。
フッ、ざまみろ。
氷河は走り寄って、瞬に素早く告げた。
「クロノスの仕業だ。24時間程度でもとに戻る。子供服は辰巳のところにあるはずだ。」
ぶかぶかのTシャツを身に纏った一輝は、じっと黙ってそのやり取りを眺めていた。
そして一言「お前が瞬なのか」と。
瞬はしゃがみこんで一輝の瞳を見つめると、
「そうだよ。兄さん。神様のいたずらでね、兄さんは子供にされちゃったんだ。でもすぐにもとに戻るから、心配しないでね。」
一輝はコクリと頷くと、その小さな手を伸ばして瞬の頭に触れた。
「そうか。瞬、心配しなくていいぞ。子供になっていても、俺は瞬の兄さんだ。何かあったら守ってやるからな。」
 
か、完成されている・・・。
3歳の癖に。
 
辰巳のもとに服を取りに行きながら、氷河はなんとなく物足りない思いがした。
 
一方で瞬は機嫌がいい。
一輝に子供服を着せると連れだってリビングに行き、鼻歌を歌いながらオムライスを作り始めた。
「あ、みんなもオムライスでいいかな? ちゃんとサラダも作るからね♪」
まぁ、瞬の気持ちもわからなくはない。
いつもふらふらとどこかへ行ってしまう兄が、自分の庇護を求めている。
24時間、ぴったりとそばにいられるのだ。
瞬がオムライスを作る間、一輝は大人しくテーブルで待っていた。
拳を膝の上において、ちんまりと座っている。
星矢が面白がってその顔を覗き込んでも、じっと奥歯を噛んだままだ。
 
氷河はソファに腰かけて、新聞を手に取った。
瞬がついていれば、何も心配することはない。
自分が何か、面倒をこうむることもない。
 
やがて出来上がったオムライスを、兄弟は5人、そろって食べた。
長兄が3歳なのは変な感じだが、かえって平和な感じもする。
一輝が氷河に喧嘩を売ることもなければ、氷河が倍返しを試みることもないからだ。
一輝は多少スプーンに苦戦したものの、きちんと一人前を平らげた。
「庭で、サッカーでもやるか。」
星矢がそう言ったとき、事態は急変した。
オレンジ色に染まった一輝の口元をタオルでぬぐっていた瞬が、みるみる縮んでゆき、小さな赤ん坊になってしまったからだった。
「瞬!」そう叫んで一輝は、弟を抱き上げた。
 
 
 
辰巳が持ってきた、赤ちゃんグッズを前に、一同は途方に暮れた。
「とりあえず、オムツ、するか?」
紫龍が紙おむつの袋に解説が書かれていることを発見し、テープタイプでよいのではないかと判断を下した。
「ええと、これを広げて、その上に、瞬を寝かせて・・・。」
そんなことをもたもたと話していると、足元から声がした。
「貸せよ。」
見るとじれったそうに一輝が手を伸ばしている。
ソファにオムツを広げると、一輝は手早く瞬を乗せてテープを止めた。
それから動いて落ちないように気を配りながら、箱の中からロンパースを取り出して着せた。
「まだ、腹は減ってないと思うが、用意をしておきたい。これを消毒しといてくれ。」
一輝は箱の中から、未開封の哺乳瓶を取り出すと、そばにいた紫龍に手渡した。
「わ、わかった。熱湯にしばらくつけとけばいいのか?」
「そうだ。」
「それと、湯冷ましも作っといてくれ。」
「わかった。」
「熱いお湯もだ。」
「わかった。」
小さな子供は、赤ん坊を抱きながらてきぱきと指示を出した。
「べろべろ、ばぁ~」
星矢が両手で顔を隠してから、その手をパッと広げると、赤ん坊はニコニコと笑った。
一輝は、優しい顔でその姿を見守り、弟を喜ばせてくれた星矢ににこりと笑顔を見せた。
「抱いてみてもいいか?」
星矢の申し出に、一瞬心配そうな顔をした一輝だったが、すぐに向き直って瞬を差し出した。
星矢は見よう見まねで抱き上げたが、どこかぎこちない。
「あれ、結構重いな。5キロくらいあるかな。」
「おい、氷河、お前も抱いてみる? 結構重たいぞ。それに意外と動く。」
こわごわ見守る氷河を、一輝は不信そうな瞳で眺めた。
「大丈夫だよ。落とさないって。ほら、氷河。」
両手を差し出すと、氷河の両腕に温かくて重たいものがのった。
「腕んところに首を乗せて、頭が落ちないようにするんだって」
「あ、ああ。」
しかし両手に赤ん坊が乗っている以上、どうやって体勢を整えたらいいのか。
おずおずと体に引き寄せると、途端に赤ん坊はぎゃあぎゃあと泣き出した。
「あ~あ、泣かせちゃった。」
慌てて一輝の手に戻すと、瞬はすぐに泣き止んだ。
「しかし、重たいだろう。一輝。」
「大丈夫だ。眠るまでは抱いてる。」
一輝の腕の中で、やがて瞬はすやすやと眠り始めた。
起こさないようにそっと長座布団の上に寝かせ、一同はホッと息をついた。
 
 
「24時間で戻ると言ったか?」
「ああ」
「しかしこれ、俺たちだけでは無理だろう。ベビーシッターをつけてもらえるよう、沙織さんに話してみるか。」
そう言った紫龍の服を、一輝がつかんだ。
「瞬は俺の弟だ。俺が面倒をみる。」
穢れを知らないまっすぐな瞳に見据えられて、紫龍は言葉に詰まった。
「しかし、お前だってまだ幼い。プロに見てもらった方が安心だと思うのだが。」
「孤児院で、先生のするところを見ていたからわかる。訳のわからないやつに、瞬は任せられない。」
「それじゃあ、しょうがないな。頑張るか。」
星矢がそう言うと、一輝はホッとしたように息を吐いた。
「そんなこと言って、大丈夫か、星矢?」
「長くて24時間なんだろう? どうにかなるさ。」
そう言って星矢は、育児本を箱から取り出して紫龍に手渡した。
「とりあえず、おやつにしようぜ。」
星矢は冷蔵庫からプリンを持ってきて一輝に差し出した。
「うまいぞぉ~、これ。喰ったことある?」
一輝はふるふると首を振った。
「そうだよな、俺も知らなかった。」
一輝は恐る恐るスプーンですくって、口に運んだ。
口に入れると、みるみる顔がほころぶ。
「な? うまいだろう? びっくりするよなぁ~。」
 
 
一方、紫龍は育児本を見ながらミルクのあげ方とおむつ替えについて学んでいた。
頑張ると言った星矢が遊んでいて、無理だと言った紫龍が育児本を読んでいる。
しかしながら互いに不満を抱くわけでもなく、結果的にうまく回っている。
星矢の人の動かし方がうまいのか、紫龍が忍耐強いのか、氷河にはよくわからない。
「ミルクをあげたら、ゲップをさせてあげるのだそうだ。そんなことまでしてあげねばならないのだな。」
紫龍は結構楽しそうに、本を読んでは驚きの声をあげていた。
 
 
やがて瞬は目を覚まし、オギャアオギャアと声をあげて泣いた。
一輝は駆け寄ると、オムツをチェックし、先ほどの哺乳瓶を貸してほしいと言った。
「ミルクの作り方は、勉強したから大丈夫だ。」
紫龍はそう言うと、粉ミルクを哺乳瓶に入れて熱いお湯で溶かし、湯冷ましを足して人肌にした。
一輝はその手順を注意深く見守りながら、自分でも温度を確かめてから瞬の口に含ませた。
「かわいいなぁ・・・。」
んくんく・・・とミルクを飲む赤ん坊を眺めながら、星矢が呟いた。
「本当だな・・・。」
一同は息をひそめて、一輝の腕の中にある、小さな命を見守った。
 
 
 
次のミルクは7時だった。
紫龍がミルクを用意し、一輝が飲ませる。
しかしながら一輝も限界のようで、ミルクを飲ませながら、こくりこくりと船をこぎ始めた。
瞬を部屋に運んでベッドに寝かせると、一輝も寄り添うように隣で眠った。
「こうやって二人で生きてきたんだな。」
寝顔を見つめながら、星矢がしんみりと呟く。
「俺はちょっとうらやましいな。」
紫龍はそう言って、控えめな笑みを漏らした。
「さて、俺たちも休もうか。」
「うん、寝顔見てたら、俺まで眠くなってきた。」
そう言って星矢は、両手を突き上げて伸びをした。
 
 
 
いつの間に眠っていたのか。
氷河は赤ん坊の泣き声で目を覚ました。
時計を見ると11時。
起き上がって隣の、瞬の部屋にゆく。
ドアを開けると、一輝が目をこすりながらミルクのふたを開けていた。
「ああ、夜でもミルクを飲むのか。」
さすがに眠いらしく、ミルクのふたを開けられない。
「貸せ」
そう言ってふたを開け、スプーンで粉ミルクを哺乳瓶に入れる。
このあたりは、インスタントコーヒーを淹れるのとたいして変わらない。
違うのは作っている間も、ぎゃあぎゃあと赤ん坊が泣いていることだ。
昼間、紫龍がしていたように、少量の熱湯を入れて混ぜる。
そこに湯冷ましを足そうとしたところで、「あ!」と一輝が声をあげた。
手伝おうとした一輝が、湯冷ましの入ったカップを落としてしまったのだ。
瞬はおなかを空かせて泣いている。
ミルクが人肌に冷めるまで泣き続けるだろう。
一輝は眠さも相まって、途方に暮れ、自分まで泣きそうになった。
「どのくらいの温度にすればいいんだ? 冷たい方がいいのか?」
そんな声が聞こえて、一輝は氷河を見上げた。
「あまり冷たくても困る。」
「そうか。」
明るくて、一緒にプリンを食べてくれた星矢。
本を見ながらミルクを作って、哺乳瓶を洗ってくれた紫龍。
それに引き替え、この人は、ちょっと離れて見ていただけだった。
初めて見る、金色の髪と蒼い瞳。
別の世界に、生きてる人みたいだ。
その彼が湯を入れたカップを手に持つと、うっすらと蒼い光が見えた。
一輝には、何が起こったのかわからない。
だけど、キラキラと光って、すごくきれいだ。
「このくらいでいいか?」
そう言って差し出された湯は、一瞬で水にかわっていた。
 
真剣にミルクを飲ませる一輝を見守りながら、氷河は呟くように言った。
「紫龍が、うらやましいと言っていた。お前が大事にしている瞬のことなのか、瞬がいるお前のことなのかわからない。
だけど俺は、ちょっと悲しいような気持ちがする。
お前はまだ、子供で。本当だったら、ママの腕の中で、泣いたり甘えたりしていていい歳なんだぞ。」
「ママなんて、知らない。でも瞬がいるからいい。」
何故だか胸が痛くなって、氷河は一輝の髪を撫でた。
「慣れない場所で、落ち着かないだろう。だけど、俺たちは仲間で、もう少ししたら、お前も瞬も、もとに戻るからな。心配いらないんだぞ。」
そう言うと、一輝は頷いてから鼻を啜った。
 
「さっきのあれ、なんだ?」
「あれ?」
「あおい光みたいなのが見えて、お湯が水になった。」
「さすがだな、知らなくても、小宇宙がわかるのか。」
氷河はため息をつくと、くすりと笑った。
「小宇宙?」
「そうだ。俺だけじゃなくて、お前も、瞬も、星矢も、紫龍も持ってる。」
「俺も、お湯を水にできるのか?」
「いや、どっちかというと、逆だな。」
「ふーん。・・・大きくなった俺は、どんな?」
「すごい強いぞ。それに、瞬のことを、変わらず大事にしてる。」
「そうか・・・。」
 
 
 
瞬は目を覚ますと、すぐに自分の異変に気付いた。
枕元の台に置かれた哺乳瓶とオムツ。
それで自分が赤ん坊に変えられていたのだろうと気付いて、瞬は呻いた。
「うわぁ・・・サイアク・・・。」
折角子供になった一輝兄さんと楽しく過ごそうと思っていたのに・・・。
あっ、兄さんはどうしたろう?
 
瞬は起き上がってくすりと笑った。
このネタさえあれば、とりあえず二人の口は封じられるね。
そう呟いて瞬が写メに収めたのは、互いに頭を預け、肩を寄せ合うようにして眠る一輝と氷河の姿だった。
 
 



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以下はちょっぴりNDネタバレです
と言っても、テロメアという単語が出てくるってだけだけど・・・。






NDを読んでいて、「テロメア・・・なんてすばらしい言葉だ!」と思ったのは私だけではないだろう。
この魔法の言葉さえ唱えれば、子氷河だろうが子カミュだろうが、子デスだろうが子ミーノスだろうが。
紫龍爺さんだろうが、春麗ばあさんだろうが、なんだって書けてしまうのである。

というわけで、テロメアで妄想・・・。

登場人物は、氷河、サガ、カミュ。
カミュ先生が、こわれてます。

拍手[17回]

テロメア妄想 その1



午後、書類に目を通していたサガは、宝瓶宮からのただならぬ小宇宙を感じて顔をあげた。
それがまたどーでもいい、というより弟子馬鹿の錯乱した叫び声だと知って眉をしかめていると、部屋の扉がノックされ女神が現れた。
女神は至って平静だったが、そのそばに小さな子供を連れていた。
金髪碧眼、どこかで見たことのあるような顔。
女神は子供と目線を合わせるようにしゃがんで、そこに待つように言って聞かせると、サガの傍らにきて小声で告げた。
「氷河のテロメアが狂わされたので、今からクロノスと話をつけてきます。その間彼の子守りをお願いします。」
氷河の子守りをしたい人間なら、他にいるだろうとサガは思った。
「氷河は今8歳です。どうやらシベリアに来たばかりの様子。今のカミュと合わせると混乱するでしょうし、何よりも一緒にしておくと、少々危険という気もするのです。」
13歳の少女が冷静に言い放つのを、サガは複雑な思いで聞いた。
確かにサガも、さっきちらりと聞いてしまったのだ。
かわいい、かわいすぎる。いっそコフィってしまおうか・・・と。
「カミュは私の守護につかせますから、あなたはここで彼を見てあげてください。
氷河は8歳までに多少のトレーニングは積んできていますが、小宇宙にも目覚めていませんし、マザコンぶりもひどいもんです。しかしまぁ、普通の子供と思っていただければいいかと思います。ここに着替えがあります。宝瓶宮に保管されていた8歳の子供用と今の彼の分と。なるべく早く帰ってきますから、よろしくお願いします。」
有無を言わせず一気に話すと、女神は戸口の氷河に告げた。
「カミュと仕事に行ってきます。そこにいるお兄さんは、カミュと同じ黄金聖闘士です。しっかり言うことを聞くんですよ。」
 
なんという面倒な仕事だろう。
しかし、多分、氷河に罪はない。
少なくとも8歳の、今の氷河には。
コバルトブルーのTシャツと黒のパンツ、ぼろぼろのレッグウォーマーというおなじみの服装のまま小っちゃくなった氷河は、緊張した面持ちで両の拳をぐっと握りしめている。
「私はサガ。カミュが戻るまでよろしく。」
「よろしくお願いしますっ!」
カミュの指導によるものなのか、礼儀正しく頭を下げた。
もともと、子供は嫌いではない。
カミュやミロが幼かった頃を思い出して、サガはふと笑みを漏らした。
「お茶にしようか。」
 
ホットミルクとビスケットを差し出すと、氷河は素直に喜んで頬張った。
おいしそうに一枚を平らげると、サガに尋ねる。
「あの、アイザックも、カミュと一緒なんでしょうか?」
「アイザック?」
「一年先輩なんです。僕、気付いたら一人でここにいたんだけど・・・。」
「あ、ああ、彼のことか、そうだな、彼もカミュと一緒だ。」
慌てて話を合わせながら、彼が今は、もうこの世にはいないことにサガは思い当った。
「そっか、それなら安心しました。あのぅ、これ、半分持って帰ってもいいですか? アイザックも好きだと思うから。」
「それなら帰りにまたあげるから、これは君が食べなさい。」
「はい。」
氷河はにっこりとほほ笑むと、安心したようにもう一枚に手を伸ばした。
窓からの陽を受けて、金色の髪はキラキラと輝いている。
さながら天使のように。
氷河について、サガはこれといった印象を持ってはいない。
というより、弟子を思うカミュのインパクトが強すぎるのだと思う。
氷河本人については、無口で、感情を内に秘めた、氷の聖闘士というイメージ。
その氷河が子供の頃はこんなにも感情豊かな少年であったことに、サガはやや戸惑いを覚えた。
 
お茶の時間が済んでしまうと、後は何をして過ごせばいいものか。
普段なら無論トレーニングが待っているのだろうが、今の氷河を人目にさらすわけにもいかない。
そういえば、とサガは思い当って、隣室の書庫へと案内した。
「興味のある本はあるだろうか。」
教皇の間ではあるが、ここにはサガの本も置いてある。
子供の頃のカミュは、いつも嬉々として本を借りに来た。
このあたりの本は、多分あっという間に読破してしまったはずだ。
気に入った本を見つけると、もう他のものは目に入らなくなってしまう。ひどい時はその場に立ったまま、黙々と読み続けていることもあった。
そんな少年時代のカミュを思い出して、サガは笑みをこぼした。
追憶から我に返ると、氷河は困ったように背表紙を眺めている。
必死に文字を追っていくが、読めそうなものはほとんどない。
物理の専門書や哲学書、ラテン語の辞典に歴史書。
そんなものを8歳にして喜んだカミュが普通でないのだが、あいにくサガも同じような子供だった。
紅い顔をして、文字を睨んでいる氷河をみて、「ミロ・アイオリアタイプだったか」とサガは思った。
それにしては体つきが華奢で、あの二人のような爆発寸前のエネルギーといったものも感じられない。
ああ、本当に普通の子供だったんだなとサガは思った。
本当に、ごく普通の子供たち。
それが努力に努力を重ねて、奇跡を起こしたのだ。
やがて氷河は一冊の本を手に取った。
中世の宗教画を集めた本だった。
正直に言えば、氷河はまだギリシャ語が読めない。
絵なら何とかなると思ったのだ。
けれども眺めているうちに、一枚の絵に釘付けになった。
(この女の人、マーマみたい・・・。)
 
そんな風にして午後は、至って平穏に過ぎた。
共に過ごしているうちに、カミュがどうしてああなってしまったのか、サガにも少しわかるような気がしてきた。
スカイブルーの美しい瞳を輝かせて、氷河はよく笑った。
ごく短い時間しか過ごしていないのに、自分に対してすっかり心を許してしまったようだった。
疑うことを知らないのかと思うと、心のどこかが訳もなく痛む。
ああ、いっそコフィって・・・。
さっき聞いた声がよみがえってきて、サガはふるふると頭を振った。
従者が用意した夕食を氷河はせっせと食べ、片付けは自分がするといって泡だらけになりながら熱心に皿を洗った。
 
「食事が済んだら、風呂か。風呂だろうな・・・。」
何となくカミュに怒られそうな気がして、サガはひとり呟いた。
しかし一日の予定から入浴を省くということは、彼には考えられないことだった。
それでも8歳ともなれば、風呂は一人で入れるのである。
氷河は雪焼けしていないシャツの下の真っ白な肌をさらしながら、機嫌よく浴室に入ってゆき、やがてほかほかと湯気を立てながらあがってきた。
「広いお風呂なんですねぇ。城戸邸も広かったけど、あの時はみんなで入ってたからぎゅうぎゅうでした。僕、ちょっと泳いじゃった。アイザックに話したら、きっとうらやましがるだろうなぁ。」
そう言ってほほ笑む氷河の髪から、ポタポタと滴が垂れた。
「ほら、ちゃんと髪を拭かないと風邪をひくぞ。」
サガはタオルを手に取って、ごしごしとその金色の髪を拭いた。
「ふふ、いつもそれでカミュにも叱られるんです。でもここは暖かいから、風邪はひかないと思うけど。」
椅子に腰かけたサガに背中を預けるようにして髪を拭いてもらいながら、少年は甘えるように言った。
 
 
氷河が寝室に入って、サガはほっと溜息をついた。
クロノス神との話し合いは、まだ決着がつかないのだろうか・・・。
そう思いつつ、サガは夕刻から手つかずだった書類に目を落とした。
 
ほどなくして、部屋のドアが開いた。
顔をあげるとパジャマを着た氷河が、枕を抱いて立っている。
「あの・・・、カミュ先生は・・・まだなんでしょうか・・・?」
「ああ、なるべく早く帰ると聞いていたが、まだのようだ。・・・どうかしたか?」
「・・・海の音が、するみたいで・・・。」
心細そうな声。サガは歩み寄って、肩に手を置いた。
先ほどまでの明るい様子とはうって変わって、瞳は涙に濡れていた。
しばらく一人で寝室にいたものの、こらえきれなくなって出てきたようだった。
「海?・・・今日は少し風が強いから、吹き上げてくる風の音が、波のように聞こえるのだろうか。」
氷河は枕に、鼻先を押し付けるようにしてうなずいた。
「海の底は、寒いし、さみしいと思う。
どうして僕は、マーマを置いてきてしまったのかな・・・。」
顔をあげた氷河の瞳からは、大粒の涙がはらはらとこぼれた。
サガは氷河の顔を両手で包むようにして、涙に濡れた頬を親指でぬぐってやった。
「母上は君のことを愛してくれたのだろう? だったら連れて行きたいなどと思ってはいない。君が頑張っている姿を、天国から見守っている。さみしくはないはずだ。」
不安げに揺れる瞳を優しく見つめながら、サガはその秀でた額を小さな額とこつんとあわせた。
「一緒に眠ろうか。怖い夢を見ないように。」

遠く吹きすさぶ風の音は、確かに波のようにも聞こえた。
忘れられないあの岬から、声を運ぶように。
闇に覆い尽くされた日々の中で、確かに自分もこの音を恐れていた気がする。
あまたの眠れぬ夜、見上げていた天井を、サガはわずかに睨むようにした。
広いベッドで向かい合うようにしてぎゅっと抱きしめてやると、安心したのか氷河はすぐに寝息をたて始めた。
温かくて、わずかに甘いにおいがする。
子供の息遣いを間近に感じながら、いつしかサガも深い眠りに落ちていった。
 
 
 
覚えてはいないけれど、何だか幸せな夢を見た。
そう思って氷河は目を開けた。
起き上がろうとして、自分の上に乗せられた、腕の重みに気づく。
自分をしっかりと抱きしめている逞しい二本の腕。
寝息とともに規則正しく上下する、がっちりとした胸。
 
ナ、ナンダ! ココハドコダ! コレハダレダ!
 
声にならない叫びをあげながら見上げると、端正な顔と豪奢なプラチナブロンドが目に入った。
 
「ナ、ナ、何コレ―!!」
 
「あ、戻ったのか。」
目を覚ましたサガはのんびりとそう言ったが、パニックを起こしている少年を目にして我に返った。
昨夜彼が纏っていた子供用のパジャマは、体の変化について行かれずに破れ、申し訳程度に腕に絡みついているだけである。
氷河が上体を起こすと、引き裂かれた布切れがはらはらと落ちた。
それが子供サイズの服であったなど、氷河に気づく余裕はない。
当然のことながら、自分が破いたのではなく、破かれたのだと判断を下した。
とび退るようにベッドから降りると、今度は自分の全身を目にしてさらに顔を赤くした。
ひったくるようにシーツを手繰り寄せて、体に巻きつける。
「落ち着け、事情を話せばわかる。」
「じ、事情って、なんですかっ!」
「カミュも知っていることだ。大丈夫だ。何も、ない。何もしていない。
そうだ、クールだ。クールになれ、氷河っ!!」
 
その時、勢いよく部屋のドアが開いた。
振り返ったサガの瞳に、オーロラエクスキューションの構えが映った。




 


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