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☆矢熱再燃。 ただただ氷河が好きだと叫びたい二次創作ブログです。 色気のある話はあまり書けないと思いますが、腐目線なのでご注意ください。 版権元とは一切関係ございません。
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今や大人気のカノンさんについて。
氷河のお話ばっかり読んでいるので、ファンの方々のなかでどんな描かれ方をしているのか勉強不足なのですが、一体彼は、氷河のことをどう捉えているのか考えてみました。
作者が氷河至上主義のため、ちょっとへたれになったかもしれません。
最初に書いていた話では、「本当はキグナスはアイザックのはずだったのに・・・」ってめそめそする氷河に対し、イラッときて泣かす、という話でしたが、結局甘々になりました。

聖戦後、黄金復活設定も好きですが、青銅5人+カノンが守る聖域というのもありだと思うのです。
一輝とカノンが煙草加えながら、あれこれ相談していたら萌える・・・。

しかしまぁ、下記は黄金復活設定です。



拍手[10回]

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それは5月のことだった。
昼前の明るい陽の中を、少年が歩いてくる。
女神を守り抜いた5人の青銅聖闘士の中でも、宝瓶宮の守護者を師とする彼は聖域を訪れることが多い。
彼がこうして双児宮を通り抜けるのは珍しいことではなかった。
入口で律儀に挨拶する声も、もはや耳慣れたものとなっている。
しかしその日、彼の姿を見て、カノンは大きく息をついた。
少年の左目を長いこと覆い隠していた包帯が、外されていたからだった。
 
聖戦で。
少年の放った凍気を目の当たりにして、彼が海将軍の一人だったアイザックとゆかりあるものだということにカノンは気付いた。
そのことは、アイザックの古傷と同じ場所に巻かれた包帯も語っていた。
海王戦で失明した紫龍の目を気遣ったのは、ほかならぬ氷河自身だ。完全に光を失っていた紫龍が、冥界で視力を得たのを知りながら、彼は決して左目を開こうとはしなかった。
戦士にとって、それは命に関わる。
そしてまた、アイザックという男が、たとえどんな因縁があったにせよ、過去に負った傷を恨んで同じ場所を本気で傷つけるような男ではないこともカノンは知っていた。
だからそれは。
緊張した面持ちで戦場を走る少年の、唯一の、ただならぬ心の声だった。
 
氷河とアイザックの間に過去何があったのか、カノンは知らない。
ただ異なる世界に身を置くことになった彼らが殺し合うことになったのは、間違いなく自分が契機だった。
氷河を見る度、その事実がカノンの胸を締め付けた。
聖戦後、黄金聖闘士達が再び命を得てからも、左目は閉ざされたままだった。
師であるカミュが、どれだけ弟子を溺愛しているか。
カミュ亡き後、後見人を務めたミロもまた。
ながらく聖域を離れていたカノンが、それらを知るのに時間はかからなかった。
「あの時のスカーレットニードルは、氷河の分か?」
酒に紛れてミロに尋ねてみたことがある。
「打たれておいてよかっただろう。だが、氷河は、アンタレスの痛みも知っている。」
 
戦いのない、穏やかな時間の中で、氷河は次第に笑顔を取り戻していった。
だがそれはいつも、カノンの手の届かない遠い場所で、陽炎のように光っていた。
 
「失礼します」
そう言って、少年は双児宮の長い回廊に足を踏み入れる。
まっすぐ前をみつめる双眸。
多少の安堵も手伝ってか、カノンは少年に声をかけた。
「左目・・・治ったのだな。よかった・・・。」
その声は忌々しくも、わずかに震えた。
氷河ははっとしたように、カノンの顔を見上げると、透きとおったアイスブルーの瞳でみつめた。
それから静かに目を落とすと、ぎこちなく、呟くように言った。
「俺は、自分が許せなかったから、そうしていただけで、それを見て貴方がどう思うかなんて、考えてなかった。気にしてたんなら、悪いことをした。」
その表情は、戦場で見た時より、ずっと幼いものだった。
「お前が、謝ることは何もないだろう。俺の過ちは償いきれるものではないと思っているが、辛い思いをさせてしまった。」
 
ずっと、詫びたいとは思っていた。しかし詫びるということは、彼等の闘いに自分が介入したと告げるも同じだった。それは、彼等の誇りをひどく傷つけることになる。
また氷河の方では、カノンにアイザックのことを尋ねてみたいという衝動に度々駆られながら、そこに混ざり込んでくる自己欺瞞を嫌悪した。
語らなければならぬことを残したまま、時間だけが過ぎた。
いつもそのことを突きつけるようだった左目の包帯を、ほどいたのはやはりカミュだった。
 
「貴方があんなことをしなければ、でも、アイザックはきっとあの時死んでたんだ。
その後のことは。彼が判断したことだと思うから、貴方がどうこう思うことではない。」
 
ずっと心の中で繰り返してきたのだろう。
確かにそれが、二人の間にある事実だった。
 
「彼は、俺の野望に加担したわけではなかった。ただ、海将軍としてポセイドンに選ばれたことの意味を考えているように見えた。それだけは伝えておきたいと思っていた。」
 
言葉は、ただすり抜けてゆく。
俯いた横顔に、表情はみられなかった。
 
「・・・アイザックとそんな話を?」
やがて、発せられた声。
むしろこちらをいたわるかのように、唇は、少し笑った。
「…いや。あまり深く関わることはなかった。なるべくなら正体を知られたくなかったからな。」
そう言ってカノンは自嘲した。
「見ていて思っただけだ。ソレントほうが、彼を知っているかもしれない。」
「自分で戦って、自分でみとったのなら、それがすべてだとカミュが。」
壊れそうな面影を、大切に胸にしまいこむように、氷河はうつむいた。柔らかな金色の髪が、さらさらと頬の横を流れる。
やがて氷河は意外なことを聞いた。
「・・・あなたは、海底でずっと独りだったのか?」
こうやって心の中に、湯のようなものを注ぎ込む人間が、聖域には幾人もいる。そのことをカノンは、最近になって知った。
この少年もそうかと戸惑いながら、カノンは答えた。
「はかりごとを持てば、孤独に陥るのは当然だ。」
「はかりごとか・・・。」
少年はふと唇を歪ませた。
それは雪の純白を思わせる彼には似つかわしくないものだった。
 
自分が聖闘士になる理由―それもはかりごとのひとつなら、その通りかもしれないと氷河は思った。
カミュにも認められず、ひとり頑なに抱き続けた想い。
それは、あれだけ親身になってくれたアイザックと自分とを隔てた。
友情を裏切り続け、彼の大事にしていたものを、傷つけ、そして、奪った。
 
ただひとつの願いさえ叶えてくれたなら、聖闘士として何でもする覚悟はあった。
それは矛盾しないと思っていた。
 
カミュが命懸けで導いてくれるまで、ずっと―・・・。
 

悔恨、諦念、渇望・・・ひと言では形容し難い影は、一瞬のうちに通りすぎて消えた。
しかしそれはカノンのうちにあるものと共鳴し、いつまでも消えてくれそうになかった。
 
「・・・それでも、手を離さずにいてくれた人がいる。」
「ああ」
 
やがて残酷なほどまぶしい笑顔がその上に浮かぶ。
「買い物の帰りなんです。上にいかなくちゃ。」
「足止めして悪かったな。」
「いいえ。・・・話ができてよかった。」
「ああ」
 
ぺこりと頭を下げると、少年は走り去っていった。
触れてみようかと伸ばしかけた手は、その髪にわずかに届かなかった。


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