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イオの、便所が長い。
アイザックは暇つぶしに携帯を取り出した。
あ!アンテナがたってる!!
折角最新の機種を手に入れても、悲しいかなほとんどを圏外で過ごしているアイザックである。
と、懐かしい声がした。
「アイザック!!」
声とともに、本人が飛び込んできて、アイザックの首に抱きついた。
氷河の足がわずかにあたってテーブルが揺れるのを、アイザックは慌てて押さえた。
(イオのやつ・・・)
「お誕生日おめでとう!!」
氷河が嬉しそうに笑っている。
ならばなんだっていいかと思った。
部屋に戻った、氷河もといカーサを、カミュは上機嫌で出迎えた。
「カノンは何の用だった?」
「いえ、この書類をあなたに渡してほしいと・・・。」
用意していた紙を、氷河(カーサ)は手渡した。
「直接渡せばよいものを、変な奴だな・・・。まぁいい。ところで、あれを着てみないか?」
あれ???
カーサの頭の中で、嫌な予感がぐるぐるとまわる。
その予感は、半ば的中した。
「アフロディーテから貰いうけたのだ。私だけ、その姿を見ていない。」
手渡されたのは、黒のいわゆるメイド服である。(スパイ修行参照)
「え、恥ずかしいですよ。そんな・・・。」
「そう言うな。きっと似合うはずだ。」
「駄目ですよ。いやです。」
氷河(カーサ)は顔を赤くして、カミュに背を向けた。
「ならば着せてやろうか?」
その声が、冗談に聞こえなくて、氷河(カーサ)は服を手に取って別室に籠った。
女の姿に、変身したことはいくらでもある。
しかし、女の服を自分で着るのは初めてだ。
カーサはドキドキしながら服を脱ぎ、スカートに足を通した。
つるつるとした裏地の感触が、太ももをくすぐる。
鏡に映るのは、金髪の美少年。
いや、少し冷たい瞳をした、美しい少女の姿だ。
しばし恍惚としたのち、氷河(カーサ)は首を振った。
ドアから顔だけを覗かせる。
「あ、あの、着てみましたけど。」
「こちらへおいで。」
氷河(カーサ)はおずおずと歩み寄る。
「似合うな。」
カミュは嬉しそうにニコニコと笑う。
「しばらく、その格好でいなさい。」
メイドの格好をしたまま、氷河(カーサ)はカミュと差し向かいで昼食をとった。
何かあれば、宮の外に潜んでいるカノンが助けに来る段取りにはなっている。
しかし決定的な危機ではない限り、その手は使えない。
いや、自分だって、友のために頑張るのだ。
カーサには、今日一日がとてつもなく長く感じられた。
皿を洗い終えると、カミュがコーヒーを淹れてくれた。
姿かたちだけではなく、内面までをも模倣できるカーサは知っている。
氷河が尋常でない量の砂糖をいれることを。
小さなカップに6杯の砂糖とたっぷりのミルクを注ぐと、氷河(カーサ)は笑顔でそれを口に含んだ。
「ケーキはもう少し後にしようか。」
「え?」
「アイザックの誕生日だろう? うまくいかなくて二つ焼いてしまった。お前はケーキなら別腹だと。」
「・・・」
「味見代わりに食べてみてくれ。」
「はい。」
「つらい思いをさせたが、アイザックも頑張っている。私は、お前たち二人を誇りに思うよ。」
「・・・」
「ところで、氷河。着替えてこようか?」
「はい!」
喜んだのも束の間、カミュはテーブルの下から包みを取り出すと、氷河(カーサ)に手渡した。
「私の誕生日にと、デスマスクから貰ったのだ。」
氷河(カーサ)は包みを受け取ると、再び別室へと消えた。
袋の中には、何やらピンクのもこもこしたものが入っている。
取り出すとそれはうさぎの着ぐるみだった。
ふわふわとした手触りが気持ちいい。
・・・ではなくて。
一体この師弟はどうなってるんだと、頭を痛める。
アイザックは、海界に来て正解だった。
この師匠の元にいたのでは、とんだ変態になってしまう。
氷河(カーサ)は着ぐるみに足を通し、チャックを閉め、耳のついたフードをかぶった。
「かわいい」
・・・ではなくて。
氷河、お前本当にこの師匠が、一番大事な奴だったのか・・・。
両の頬をぽふぽふと叩いてから、氷河(カーサ)はドアから顔を覗かせた。
「フフ、かわいいな。」
結局氷河(カーサ)は、うさぎ姿のままケーキを食べた。
甘い物の好きな氷河のために、カミュはホールの半分を皿に取り分けてくれ、氷河(カーサ)は、激甘のロシアンティーとともに、それを平らげた。
さすがに、おなかがいっぱいだ。
朝からの緊張もあってか、氷河(カーサ)は眠たくなった。
ソファで丸くなると、うさぎ姿のまま、くうくうと眠ってしまった。
「だぁ!!」
氷河(カーサ)が目を覚ますと、カミュが本から顔をあげた。
「どうした? いやな夢でも見たのか?」
ああ、見た。と思ったカーサは、もこもことした自分の姿を見て、悪夢が継続中であることに気がついた。
しかし、とりあえず、貞操の危機は脱がれている。
うさぎの手で、氷河(カーサ)は目をこすり、ちょんとソファに座りなおした。
カミュが出してくれたにんじんジュースを、ストローでチューチューと飲み干す。
「食事の用意をしましょうか。」
「そうだな。しかしそれでは動きにくいだろう。もう一着貰ったのがあるのだ。」
聖闘士はどうかしている。
あげる奴もあげる奴だが、貰う奴も貰う奴だ!!
氷河(カーサ)は鏡の前で途方に暮れた。
ナースか!
くそっ、ベタだな・・・。
それはいわゆるコスプレ用のコスチュームで、スカートの丈はやけに短かった。
注射器を右手に持ったまま、ドアから顔を出す。
「よく似合っている。」
動きやすいようにと言ったのに、カミュはキッチンで料理の支度をしている。
「俺がやります」と言ってみたものの、いいからと肩を押された。
仕方なしに氷河(カーサ)は、クッションを抱えてソファに座る。
端から見れば、カミュも美丈夫だ。
こういう人間には、あまり出会ったことがない。
日の当たる道を、歩いてきたのだろう。
変態ではあるが。
いい香りがしてくる。
カミュは手際よく、どんどんと料理を仕上げてゆく。
「運んでくれ。」
氷河(カーサ)はテーブルを拭いて、料理を並べた。
皿が、6つ?
首をかしげていると、表のドアが開いて、もう一人聖闘士が現れた。
金色の豪奢な巻き毛の男は、氷河(カーサ)を見るなり、首をかしげた。
「誰、これ?」
「今日はアイザックの誕生日だろう。氷河がアイザックのところへ行っているので、私が淋しくないように、海界から来てくれたのだ。」
氷河(カーサ)は思わず、クッションを取り落した。
ミロはまじまじと、氷河(カーサ)を眺めた。
両肩に手を置いて、くるくると一回転させる。
「よく似ている。・・・しかしなんて格好だ!!やばいな。」
「デスマスクから、誕生日に貰ったのだが、まさか本人には着せられないのでな。」
「俺、貰っておこうか? 俺なら本人に頼めるぞ。」
「やめてくれ。」
皿を並べ終えると、カミュはカーサに向き直った。
「もとの姿に戻って、カノンを呼んできて貰えるだろうか。」
宝瓶宮の裏側に、スタッフジャンバーを着て、カノンはしゃがんでいた。
風が冷たく、空では冬の星が冴え冴えと瞬き始めていた。
律儀にもここで、ずっと張っていてくれたのか。
氷河ではないカーサの姿を見ると、カノンはふぅとため息をついた。
「何故、気付いていながら黙っている!!!」
当然ながら、カノンは猛烈に怒った。
「いや、折角の計画を邪魔しては悪いだろう。」
「そういう問題か? そういう?」
「大体カーサに悪いと思わないのか?! こいつがどれだけの覚悟でお前と一緒に過ごしたと思っている?」
「・・・は?」
「俺だって、このクソ寒いのに、ずっと外で張ってたんだぞ!!」
「・・・だから不思議だなぁとは思っていた。何故そんなところにいるのだろうかと。」
「お前・・・!」
「私が何かするとでも?」
「・・・!!」
「まぁまぁ、飲もう。な??」
横からミロがカノンの肩を抱いて、グラスにワインを景気よく注いだ。
カノンはそれを一気に飲み干して、二杯目を再びがぶがぶと飲んだ。
「落ち着いたか?」
赤い瞳は、至って冷静だ。
おもむろに、ミロがクラッカーを手渡した。
と、元気な足音がして、ドアが開く。
「アイザック、誕生日おめでとう!!」
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1月の終わり、カノンはソレントに呼び出された。
指定された店を訪れると、奥の席には懐かしい顔。
ソレント、イオ、バイアン、カーサ、クリシュナ。
椅子の数から考えて、あとの一人は来ていないらしい。
ソレントがメニューを手渡し、カノンはコーヒーを注文した。
先ほどのカノンの視線に気づいたのか、イオが言った。
「そう、そのアイザックのことなんだ。」
一番年下のアイザック。
まだ多感なお年頃。何かあったのだろうかと、カノンは眉間にしわを寄せた。
「いや、もうすぐ、奴の誕生日だろ。それでちょっとばかり、力を借りたいと思って。」
そう言えば彼も水瓶座だったなとカノンは思った。
「キグナス、というのがいるだろう? どうやらアイザックの想い人というのが彼みたいなんだ。どうだ? 脈はあるのか?」
そんなこと、自分に聞かれても・・・とカノンは思う。
大体天蠍宮と宝瓶宮の争いだけでも、見ているこちらはおなかいっぱいなのだ。ここにアイザックが参戦するとなると、自分が巻き込まれることは必至だ。
それはまぁ、氷河がアイザックのことを大切に想っていることはわかる。
多分、自分の命より大事な筈だ。
「でも、あれだろ? 師匠というのが強敵なんだろう?」
思わずコーヒーを吹き出しそうになる。
「・・・何故知っている?」
「酔わせたら、喋った。」とイオ。
「だがな、俺らとしては、アイザックの恋を叶えてやりたい。だから誕生日に二人きりのデートをプレゼントしてやるつもりだ。」
彼らの計画とは、つまりこういうことだった。
氷河を聖域から連れ出し、アイザックと二人きりでデートをさせ、その間氷河に変身したカーサが、カミュを足止めする。
「そこでだ。カノンには二つ、頼みたいことがある。一つは氷河を連れ出す役。もう一つは、カーサの貞操を護る役だ。」
カーサの貞操など、考えたくはなかった。
がしかし、本人は到って真剣だ。
もしも自分にカーサと同じ能力があったとして、氷河を装ってカミュと二人で一日過ごすとなれば、確かに護衛の一人もつけたいところだ。
「な、協力してくれるだろ?」
「しかし、カミュもアイザックを祝いたいと思うのだが・・・。」
「そんなこと言ってっから進展しないんだよ。もしも弟子としての立場をアイザックが問われたら、全部俺らの仕業だって言ってくれていい。誕生日くらい、願いを叶えてやろうぜ。」
彼らの友情に目頭が熱くなる。カノンが頷くと、クリシュナがそっと包みを手渡した。
青いスタッフジャンバー。
背中には「アイザックを幸せにする会」と書かれている。
胸元には、漢字で「卒業祈念」。
何を卒業するんだ?! 何を!
「ティティスが一生懸命縫ったんだ。着てくれるよな?」
「いや、返って目立ちすぎるだろう・・・。」
「いいですか? 貴方は聖闘士としての禊は済ませたかもしれない。しかし私たちに対してはどうだろう? いわばこれが免罪符です。」
ソレントにそう言われて、カノンは即座に袖を通した。
2月17日。
所用と偽って、カノンは氷河を双児宮に呼んだ。
それだけでもカミュは不服そうだったが、サガがどうのと言ってごまかした。
「御用って、何でしょう?」
しばらくして双児宮に現れた氷河は、珍しくディバックを肩からかけていた。
「買いたいものがあって、少し、付き合っては貰えないだろうか。」
「はぁ・・・でもあの、午後から用事があるんですけど。」
「用事?」
「ええ。」
「カミュと?」
「あ、いえ・・・。」
「それ程時間はとらせない。付き合ってくれ。」
半ば強引に、カノンは歩き始めた。
二人が出て行ったところで、もう一人、氷河が姿を現す。
「まさか、いきなりってことないよな。」
そう呟いて、のろのろと階段を上がって行った。
聖域を抜けて、市街地を歩いてゆく。
カノンの足どりは速いので、氷河は小走りでついてゆくような形だ。
「あの、買い物って、何なんでしょう? 俺で手伝えるようなものですか?」
「ああ、お前でないと駄目だな。」
「俺でないと??」
氷河はしばし考えて、嬉しそうに声をあげた。
「わかった!! アイザックのプレゼントでしょう!?」
まさか自分がプレゼントだとは思い至らぬ様子で、氷河は無邪気にはしゃいでいる。
「あの、もしかしてアイザックと約束してます?」
「・・・いや。仕事があるのでな。後で誰かに届けてもらおうと思っている。」
「じゃ、俺、渡しときましょうか?? 午後の予定って、アイザックと会う約束なんで。」
あ?
拍子抜けするカノンを置いて、氷河は先に進んでゆく。
「俺は、ブレスレッドにしたんですよ。アイザックが欲しいって言ってたのがあったから。それ以外だったら、帽子とか? あいつ、案外お洒落にこだわるんですよねぇ・・・。」
氷河はにこにこと笑いながら、傍らの店を眺めた。
「これとか、どうかなぁ。」
氷河が手に取ったのは、オリーブ色のキャスケット。
確かにアイザックに似合いそうだ。
それに、氷河の選んだものの方が、本人も嬉しいだろう。
カノンが会計をしていると、氷河が横から顔を出した。
「あの、メッセージカードってありますか?」
店員からボールペンまで貸してもらって、氷河はカノンに手渡した。
「いや、いいだろう。」
「駄目ですって。こういうのは、ちゃんと書かないと。」
氷河と店員に押し切られる形で、カノンはしぶしぶとペンを走らせた。
「買い物に付き合ってくれたお礼だ。お茶でもおごろう。」
カノンはそう言うと、約束の店を目指す。
そこは最近新しくできた、ポップな内装のカフェだった。
「君から渡しといてくれ。」
カノンは先ほどのプレゼントの包みを氷河に持たせると、奥の席へと背中を押した。
支払いだけ済ませ、カノンは聖域へと引き返す。
あとは、カーサの護衛か・・・。
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