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☆矢熱再燃。 ただただ氷河が好きだと叫びたい二次創作ブログです。 色気のある話はあまり書けないと思いますが、腐目線なのでご注意ください。 版権元とは一切関係ございません。
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雨宿り 2


テーブルの上にぽつんと箱があるのが見えた。
あの甘い菓子を食べたら、壊れてしまう気がする。
胸の内で詫びて、氷河は屋敷を出た。
聖域を訪れる許可が下りない。
シベリアというのも、医師はいい顔をしなかった。
しかしそれは、自分への言い訳だ。
まだ、自信がない。
あの地で、一人立っている自信がない。
 
春というには、まだ寒い時期だった。
人びとはコートの襟を寄せて歩いてゆく。ちらりと向けられた人々の視線は、包帯の巻かれた腕から首、左目へと移り、ふいに逸らされた。
雨が降っている。
だから余計に俺の姿はおかしいんだな。
海の方へと歩いていた。
古びたマンションの前に立ったとき、自分がここに向かって歩いていたことに氷河は初めて気が付いた。
この場所をどうして瞬に伝えないのか。
それは自分のエゴだろうと思う。
だが何故自分がこの場所を知っているのか。
答えて傷つくのは自分だけではなかった。
2階の奥。
鉄製の扉にそっと触れる。
何だって、こんな場所に来たのだろう。
だからと言って引き返す気もない。
だが無論、この場所に奴がいるとも限らない。
いっそいなければいい。
いや・・・。
思い切ってインターホンを押すと、返事はなかった。
ドアには鍵がかかっている。
途方に暮れたような、ほっとしたような気持ちでドアに寄りかかると、階段を上がってくる男の姿が見えた。
 
 
氷河の姿を認めると、一輝は僅かに眉を顰めた。
来るべきではなかった・・・。
そう感じながら、氷河は唇を噛んだ。
雨はさっきより強くなっている。一輝の手に握られたビニール傘の先からも、雨のしずくがぽたぽたと垂れ、コンクリートを濡らしていた。
「雨が・・・」
それだけ言った。
一輝は黙ったまま鍵をあけると、入るように顎で促した。
 
部屋は前より散らかっていた。
というより、前はさほど物がなかったのだ。
簡素なベッドはあの時のままで、同じシーツの柄に気づいて氷河は目を逸らした。
テーブルの上に包帯と鎮痛剤が転がっている。
せめて医師の治療ぐらい受ければよいものを。
とはいえ、自己流の手当てで動ける程度には、回復しているようだった。
少し足を引きずるようにして奥へと歩いていった一輝は、抽斗からタオルを取り出して投げた。
髪からの滴を拭う。
「女神はすでに聖域を護っている」
「そのようだな」
どういうわけなのか、別行動をしていても一輝は状況を察している。小宇宙を感じてのことだろうが、ということは瀕死の怪我を抱えながらも、アンテナだけは張りつづけていたことになる。この男のそういうところは尊敬に値する、と氷河は思う。
「傷が治らぬうちは、聖域への立ち入りは認めぬと」
「認めぬも何もないだろうが、ここは奴らのお手並み拝見というところだな」
「・・・・・・」
「そのために聖域を動かずにいたんだろう。あいつらでカタが付くなら、俺たちが出てゆくまでもない」
一輝はソファに腰かけると、鷹揚に足を組んだ。
いやだ。
そんな風に戦いの場から取り残されるのは。
「・・・もう戦える」
声が、わずかに掠れた。
「無論」
不敵な物言いに、氷河はホッとして小さく息をついた。
 
 
一輝の中には、怒りが燻っている。戦いを厭う瞬が、いつまでも戦い続けねばならないこと。絶えることのない争いを、自分一人の力ではどうにも抑えきれないこと。城戸光政に向けられた怒りは姿を変え、もっととらえどころのないものへと変化していた。それはむしろ悲しみに近いものかもしれないが、一輝にその自覚はなかった。それを身の内に引き受けて生きてゆく覚悟は出来ている。ただ、戦いの後はそれを馴らすのに手がかかる。自分自身でも手に負えない激情を、誰かに覗かれたくはなかった。
 
戦いの後は、誰とも話したくない。
己の領域に踏み込む者は、誰彼かまわず傷つけそうになる。
それなのに。
よりにもよって氷河。
憎しみに駆られたまま、俺がお前に何をしたか、忘れたわけでもあるまいに。
 
「何しに来た?」
そう問うても、氷河は帰る気配を見せなかった。壁に凭れかかったまま、目を合わさない。髪から滴が滴るのはおさまったが、季節外れの半袖のTシャツはまだ濡れていて、寒々しく見えた。
 
「俺は、なにするかわからんぞ」
 
「別に、それでもいい」
 
撃たれたように一輝は氷河を見た。右目が丁度陰になって、表情をうかがい知ることは出来なかった。
あの日。
殺す代わりに氷河を抱いた。
失われたはずの金色の髪を、どうしても腕の中で傷つけずにいられなかった。
蒼い瞳に怒りを湛えて睨み返してきた、あれこそが氷河ではなかったのか。
 
「戦うのを、待ってるんだ。俺は。それがこないから、お前を壊しに来た」
 
壊されに、だ。
 
抗う気になれない。
身の内に渦巻いている炎に。
 
「間違ってる」
 
「ああ。・・・だが、正しいところには・・・」
 
冷たい躰。
抱き寄せると、氷河はびくりと身体を竦ませた。
シャツを脱がせ、寒さで尖った胸の先を口に含む。どこもかしこも冷たい。そのことが、一輝の炎をさらに燃やす。
下衣をおろすと、濡れてきつくなったジーンズとは逆に、ぞっとするほど白く柔らかな肌が一輝の手にひたと触れた。
 
 
「動物以下だな」
何度か交わったあとで、氷河が言った。
「知らなかったのか?」
てのひらを重ねてきつく握りしめ、身のうちに沈めていたものを再び突き上げた。
「あぁ・・・あっ・・あっ・・・!」
ガクガクと身体を揺さぶられたまま、かすれた声を上げる。
やがて白濁を散らして、氷河は意識を手放した。
 
 
前髪を掻き上げて左目の包帯に触れる。
それは嫌になる程、頼りなく、薄っぺらく、頑なだった。
 
 
 


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前回の、ケーキの話の続き、まとまり悪いですが、あげてみます。
しれっと雨宿りというタイトルをつけてみました。
まだ牛丼にはたどり着けていません。
R18(←なんかだんだんなじみになってきましたね・・・)
一輝×氷河です。
苦手な方はご遠慮ください。

パスワードは、氷河の旧誕生日現誕生日の8ケタです。

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