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☆矢熱再燃。 ただただ氷河が好きだと叫びたい二次創作ブログです。 色気のある話はあまり書けないと思いますが、腐目線なのでご注意ください。 版権元とは一切関係ございません。
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続きです。

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車を降りると、一輝は背を向けたまま片手を差し出した。無言でその上に左手を乗せる。手のひらを通して、互いの熱が伝わってくる。
用意されていたのは、こじんまりとした落ち着いた雰囲気の店だった。入口で案内を待つ間、視線を走らせ奥のテーブルに黒髪の少女がいることを確認した。少女の向かいに座っているのは、三巨頭の一人。
「城戸」と一輝が名前を告げると、店員は赤いバラの飾られた席に二人を導いた。パンドラから三つ離れた席。会話までは聞こえないが、向こうが見る気になればしぐさや表情はよく見える絶妙な距離と角度。
 
席に着くと微妙な沈黙が舞い降りた。これではいけないと思いつつも、そもそも普段から会話のない二人なのである。一輝は椅子に背を預けて、じっとメニューを睨むようにしている。手持無沙汰の氷河は、細い硝子の花瓶を両手で包むようにすると、そっと引き寄せて赤い花弁を覗き込んだ。
と、そこへ、カラカラと運ばれてきたものがあった。
色とりどりのケーキを乗せた、夢のようなワゴン。
それは氷河の隣でピタッと止まった。宝石のようなケーキたちは店内の暖色を帯びた光を反射し、キラキラと輝いている。
羞恥と緊張でうつむきがちだった氷河は、我を忘れてそのワゴンに釘付けになった。隣の席の若い女性は、さんざん迷った挙句、そこから三つのケーキを選んだ。店員はそれを洗練されたしぐさで皿に並べ、アイスクリームを添え、フルーツソースで華やかにその周りを彩った。
「な、なんだあれは・・・。」
周囲に声でばれぬよう、顔を近づけて一輝に耳打ちする。
「俺はあれを頼む。お前も、あれを頼め。」
「俺は別に」
「お前が頼めば六個になる。すべて俺が喰う。」
「そんな大食いの女がいるか。」
「さりげなく喰うから大丈夫だ。」
何が大丈夫だと思いつつ、明らかにテンションの上がっている様子に、つい笑みがこぼれてしまう。
甘いものはそれ程好きではないが、味見してみるのも悪くはない。
 
やがてワゴンがくる。
さっき隣のワゴンをがっつり覗いていたくせに、ここにきてまだ迷っている。細く白い指を整った顎にあてたまま、蒼い瞳はワゴンの上をさ迷っている。凛とした美少女が店のケーキに心奪われている様に、店員もふと笑みをこぼした。こんな瞬間のために、自分は働いている。姿勢を正したまま、店員はじっと幸せをかみしめた。
やがて思い切ったように、氷河はその指で六個のケーキを指差した。淡いピンクのマニュキアを塗った形の良い爪が、桜貝のようにつやつやと光った。
チョコレートとブラックチェリーのケーキ
キャラメルプディング
モンブラン
ショートケーキ
アップルパイ
チーズケーキ
一つ目の皿にはカシスのジェラート。二つ目の皿にはバニラアイスがついてご満悦である。一輝はふと、デスクイーン島に眠る少女のことを思い出した。もしも彼女をこんな店に連れて来られたらどんなに喜んだろう。あの島にはこんなものは何一つなかった。グラスに注がれた、レモンの香りがする水でさえも。
胸に痛みを感じながら、一輝はフォークを手に取った。
目の前の男に六個全部喰われる前に、せめて俺が喰ってやる。
 
気乗りしない様子だったくせに、一輝はショートケーキを一口頬張ると、フンとうなずいて二口目に入った。
その一口がでかい、と氷河は思った。
品のよい小さなケーキである。すべてを味見すると心に決めていた氷河は、食べられてしまう前にすっと腕を伸ばし、てっぺんの苺とクリームを掬い取って口に運んだ。
甘いものに興味はない。興味はないがてっぺんの苺は別である。
何の権利があって、人の苺を奪うのか。
一輝はすかさず手を伸ばし、モンブランから栗を奪った。
頂上の栗。渋皮と一緒にシロップで甘く煮てあった栗。フランス生まれの我が師も大好きな栗・・・。
自身の行為は棚に上げ、信じられないものを見るかのように、目を見開いて氷河は一輝を見つめた。
責めるように寄せられた美しい眉。すこし尖らせた淡いピンクの唇。
どうも調子が狂う。普段ならざまみろと笑ってやるところなのに、身銭をはたいてモンブランを追加注文したくなる程のかわいさだ。
思わず一輝は笑みをこぼした。
その唇に先ほどの生クリームがついている。
氷河の脳裏に、ふと、沙織の言葉がよみがえる。
「今から数時間、お母様になったつもりで。」
氷河は膝に広げていた白いナフキンを手に取ると、その手を伸ばして一輝の口元をぬぐった。そうして幼き日、母が自身にしてくれたように、一輝を見つめてにっこりとほほ笑んだ。
そもそも氷河の笑顔自体、めったに見られるものではない。それなのにこの、聖母のような微笑はなんだろう。一輝は心臓をきゅっとつかまれたように苦しくなった。
 
一方ラダマンティスは困惑していた。
ハーデス様から、ケーキ割引券なるものを手渡され、パンドラ様をお連れするように命ぜられた。まぁ、嬉しくないと言えば嘘になる。
けれども二人きりで向かい合って、一体何を話せばよいのか。
戦いに明け暮れ、恋にうつつを抜かす暇などなかった己の不器用さを呪っていると、女神の聖闘士が現れた。
不死鳥を見た途端、パンドラ様の表情が変わった。
表情が変わったというより、そんな風に感情を表すのをラダマンティスは初めて見た気がした。
不死鳥の姿を認めてパッと上気した顔は、続く少女の姿を見て凍りついた。
いつの間に恋をなさっていたのだろう。唇を噛んで平静を装う姿は、か弱い一人の少女にしか見えなかった。
二人は指先を軽く絡めたまま歩いてきて、三つ先の席に座った。沈黙など恐るるに足らずといった風で、不死鳥はどっかりと腰を掛けたが、金髪の少女が顔を寄せて何か囁いたのをきっかけに、二人はひどく親しげに会話を始めた。
不死鳥の唇は、少女の薄紅い耳たぶに今にも触れんばかりだ。
敵ではあったが、ラダマンティスは不死鳥に一目置いていた。アイアコスを倒した実力もさることながら、その小宇宙に揺るぎない意志を感じたからだ。同じ陣営で戦ったのなら、よき友となったかもしれない。
その思いが今、あっさりと裏切られた気がする。
おのれ、女とデレデレしやがって―。
その怒りは、二人が互いのケーキをつつき始めたとき、頂点に達した。
 
「まるで、光のようだな、あの娘。」
そう呟いてパンドラは、自身の服に目を落とした。上品ではあるが、重い黒のドレス。戦いが済んだ今でも、つい黒いものばかりを身にまとってしまうのは、自分の罪を覆い隠してしまいたいからだろうか。
あんな真っ白な服を着て笑うことなど、私には許されない。
この身は幾多の返り血で染まっているのだから。
「帰ろう。」
静かにそう言ったとき、入口のベルがカランと鳴った。


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ここ数日、氷河にあれを着せたくて、四苦八苦しておりました。
で、どうにもまとまりがつかなくて、いっそ以前に書いた話の続きにしてしまおうかと。
そのほうが、まだちょっと、無茶ぶりに理由がつくかななんて思いまして。

というわけで、先に、過去に書いた話を載せようと思います。
まだブログを始めようなんて思う前に書いた話で、ストーリーより萌えを追求した感じ・・・。
でも書いていてすごく楽しかったので、結構気に入っていたりします。


一・氷テイストなのでご注意ください。
お色気シーンはございませんが、カミュ先生の許容範囲外です。
3話完結です。


拍手[13回]




「ね?お願い、僕の気持ちもわかるでしょう?」
琥珀色の丸い瞳にすがるように見つめられて、さっきから氷河は困り果てていた。
瞬の願いをかなえるためなら、たいていのことはするつもりでいる。命を差し出せと言われたら、差し出す覚悟もできている。
しかし、こればっかりはどうだろう。こればっかりは引き受けるわけにはゆかない。
 
話の始まりはこうだった。
「パンドラがね、一輝兄さんのこと、好きなんだって。」
「ほう・・・。」と氷河は読んでいた本を脇に置いた。戦闘の際にはあまりよく姿を眺める余裕もなかったが、黒髪の美女だった気がする。冥王軍を率いていた鬼のような女を、一輝の奴、いつの間に落としたというのか。
らしくもなく人のうわさ話に首を突っ込んだのが間違いだった。
「僕ね、兄さんには幸せになって欲しい。パンドラが悪いとは言わないけど、でも正直嫌なんだ。冥王軍を率いて、僕をハーデスの憑代にしようとした女性だよ?兄さんはほっとけっていうんだよ。その気もないのに、ひどいと思わない?」
「本当に、その気はないのか。」
「ないよ!ないって!パンドラだってね、冥界によさそうな人がいるみたいなんだ。兄さんさえ態度をはっきりさせれば、すべては丸く収まる話なんだよ。」
「それでね、氷河、僕考えたんだけど、兄さんに彼女がいるところを、パンドラに見せればいいんじゃないかな。」
「―彼女、いるのか?」
「ううん、ふりだよ、ふり。でね、ここが考えどころなんだ。沙織さんがやってもいいって言ってくれてるんだけど、女神をパンドラの前に連れて行くのって、ちょっと危険だよね。」
「ああ、それはいくらなんでも危険だな。」
そんなことで女神の身に何かあったら、聖戦で皆が戦った意味がなくなってしまう。
「美穂ちゃん、も、ちょっと危険だよね。」
「ああ、一般の女性を巻き込むのは危険だ。」
「だけど、ジュネや魔鈴さんに仮面を外させるわけにはいかないよね。」
「そうか・・・?仮面をつけたままじゃダメなもんか?」
「ダメだよ!愛し合うもの同士のデートで仮面って変でしょう。第一説得力がないよ。」
「そういうもんか・・・。」
「でね、氷河、いないんだよ、他に。
 だからね、氷河、女の子になって。」
「は?」
「僕でよければやるんだけど、思いっきり顔、バレてるからさ。大丈夫、女の子の格好して、喫茶店で兄さんとケーキ食べてくるだけだから。」
「おかしいだろう、それ。どう考えたって不自然だ。そんなんでパンドラが納得するとも思えないし、一輝だって引き受けるわけがないだろう。」
「兄さんなら大丈夫。さっきOKとったよ」
「嘘―。」
「ね?氷河、かわりに氷河の願い事きくから。ラダマンティスに出来ることなら何でもするよ?」
何故そこで三巨頭の名がでてくるのか氷河は首をひねった。あの猛烈に強かった男。
「冥界は冥界でパンドラを幸せにしたいんだよ。だからね、忠誠心篤いラダマンティスが協力者。」
そんなところまで手が回っていたのかと氷河はたじろいだ。
「し、紫龍はどうだろう?」
「友達を、身代りにするの?」
「いや、だって髪長いし・・・。パンドラともあまり顔を合わせていない点では俺と一緒だろう?」
「うん。でも氷河の方がいいと思うんだ。氷河ならあながち嘘にならないっていうか・・・」
「は?」
「ううん。兎に角、ね?お願い。喫茶店までの車は出してもらえるから、本当にケーキ食べてくるだけ。」
「女の格好で一緒にケーキ喰っただけで恋人に見えるのか?」
「そりゃあ、まぁ、手ぐらいはつないでもらいたいけど・・・。」
「厭だ!」
「じゃあ、やっぱり女神に頼むしかないのかな。何だか僕たちって、いつも女神を前線に立たせてる・・・。」
「・・・わかった。女に見えなくても文句言うなよ?それと―スカートは履かない。」
「うん。うん。ありがとう、氷河。やっぱり氷河は優しいや。ねぇ、ラダマンティスに何お願いしようか。」
「別に、頼みたいことなんてない。」
「でもさぁ、結構力あるみたいだよ?」
「だったら・・・冥界に花を。」
「え?」
「少しの期間でもかまわないから、各プリズンに花を飾ってくれ。」
「・・・誰か、知り合いがいるの?」
「そんなんじゃないけど、あそこは何かさみしすぎる。」
へぇ・・・と興味ありげな顔をして、瞬は氷河の瞳を覗き込むようにした。
 
 
日曜日。
「瞬!スカートは履かないって言ったろう!」
「うん、そうだよ。よく見てよ。ちゃんと足のところ、分かれてるでしょう?」
「でもこれ・・・・」
氷河が手にしているのは、淡いベージュのフレアキュロットだった。
「こんなひらひらして、しかもこんな短いの着れるかっ!」
「大丈夫。これと白のロングブーツを合わせるんだよ。それなら足も隠れるし、聖衣とあまり変わらないでしょう?兎に角、絶対似合うから着てみてよ。」
何でこんなことを引き受けてしまったのかと今更悔みながら、氷河は服を受け取った。
そこへ、品の良い紺のスーツをまとった屋敷の当主が現れた。
「メイク担当を連れてきましたよ。氷河、今日はお願いしますね。」
女神の微笑には、有無を言わせぬ迫力があった。
 
一時間後、部屋から出てきた氷河の姿に、瞬、沙織、そして野次馬の星矢は息を飲んだ。
蒼い涼しげな瞳、透き通るような白い肌、淡いピンクのグロスを塗った唇は、可憐だがどこか誘うようでもある。いつも自然乾燥で無造作なままの金髪は、まっすぐにおろされ、端正な顔立ちを引き立てている。
こんなに美しい少女は、ブラウン管の中ですら、そうはお目にかかれないだろう。
「化粧って、コワイな。」と星矢。
「ううん、僕は氷河がコワイよ。」
絶世の美少女は至極不機嫌で、いつも通り大股に歩みを進めた。
「氷河、歩き方・・・」
瞬が言いかけたところで、沙織がすっと歩み寄ってふんわりとした白のセーターをまとった氷河の肩に手を置いた。
「氷河、お母様のことは覚えていますね。今から数時間、お母様になったつもりで。」
しばし無言で何か思い出すようにしていた氷河は、すっと顔をあげて数歩歩いた。
「ええ、素敵ですよ。」
沙織の褒め言葉にくじけそうになりながらも、とに角この数時間、やりきってみせようと氷河は覚悟を固めた。
 
こちらがニ時間近くもかけて支度したというのに、一輝の方はいつもと変わらぬ普段着である。どういうつもりでひきうけたのか、外に用意された高級車の前に立っていた。
氷河が近づくと、一瞬目を見開いてから、すぐに顔をそむけた。
「笑うんなら笑えばいいだろう。お前のせいだからなっ!」
そう叫ぶと、氷河はとっとと車に乗り込んだ。すれ違いざま、さらさらと揺れた髪から甘いシャンプーの香りがした。
 
瞬は、実兄の好みを知っている。だから服装にせよ、メイクにせよ、それに沿うものをお願いしたのだが。
「大丈夫かな、兄さん。」
氷河を見てぱっと顔を赤くした一輝を見て、ちょっとやりすぎたかと瞬は首をかしげた。



 


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